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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第一夢
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飛べない鳥

ーーあなたは最近、よく眠れていますか?



『〜プロローグ〜』



古書館のようにズラッと並ぶ本棚の山。そんな中、2人の男女がいた。

男はボサボサの頭にシワだらけのカッターシャツ、よれよれのロングコートを羽織っていて、ダブダブのジーンズと、いかにもだらしない。

もう一方の女性は対照的にビシッとしたビジネススーツを纏い銀縁眼鏡が似合う、いかにも仕事人間、といった風貌だ。唇の右下に小さなホクロがあるのが妙に色っぽい。


「仕事…来ないなー…ありむー…。」


ボサボサ頭の髪を掻きながら、アンティーク調の椅子にもたれ、男はそう呟いた。



「漠さんがチラシ配ったり、宣伝したりしないからでしょ?って言うか、ありむーって呼び方はやめてくださいって言ってるじゃないですか。私の名前は有村です。」


有村と名乗る女性は、漠という男に目もくれず、淡々と本棚に本を納めていく。


「宣伝なんかしたら、ウチの店は面倒だから困るんだよーっていつも言ってるじゃん。あー…退屈ー…。」


そう言って漠は背もたれに身体を預けて、だらしなくうなだれる。


温かい日差しが漠の顔に射すと、眩しそうに手で遮る。そんな様子を有村は横目でチラリと見て、すぐにまた自分の作業に戻る。

そんな夕暮れ時。時計はゆっくりだが、着実に夜へと向かっていた。



ーーーー


『〜飛べない夢〜』




「また先輩に怒られたー!もう、あんな夢を見るからよ!!」


頭から湯気が出るくらいにご立腹な様子の少女が坂道を下っている。


学生服に身を包んだその少女は誰が見ても大人びた雰囲気だ。身長も高く、スレンダーな肢体。さらりと伸びた黒髪が少女の印象を大人びたものに変えていた。

身に纏っているのが学生服であることが違和感を覚えるほどに。

その為か、高校三年生くらいと言っても不思議ではない彼女だが実際には中学二年生、十四歳である。


黒髪を揺らす姿は普段であれば可憐にも見えるのだろうが、今の彼女には可憐と一番かけ離れている。



「リカもリカよ!なーにが先輩の言う通りよ!なーにが千奈美は目立つから仕方ないって!?私は目立ちたいとか思ってないわよ!!」


そう言って怒る彼女、千奈美は乱暴に道にある小石を蹴り上げた。


「はぁ…もう!イライラする!」


そう言って悪態をつくのが千奈美の癖であり、最良の落ち着き方なのだ。

ふー、と一息ついた頃、遠くの方でカツーンと小さな金属音がした。


「ん?」


その音の先を見ると、さっき蹴った石が落ちていた。意外にも遠くまで飛んだ石は、どうやら店の看板に当たったようだ。


『〜夢占い亭 霞みの館〜』


錆びた看板にはそう書いてあった。


店の外観は小さな古本屋のような感じで、料理亭や図書館といった、店の名前とは不釣り合いな印象を持つ。


(いや、亭なのか館なのか、どっちなのよ…。)


看板に心の中でツッコミを入れつつも、夢占い、という響きが千奈美は気になった。


(朝の夢の事もあるし、どうせこれから予定がある訳でもないし…。)


そう思って携帯を取り出して時刻を見る。四時半過ぎ、まだ家に帰るには早い時間だ。


(ちょーっとだけなら、いっかなー?)


そう思った時にはもう、千奈美の手は古びた店のドアに伸びていた。


「ごめんくださーい……。」


小さな声にも関わらず、声は店全体に響いた。外の音が全く聞こえない。まるで、この店だけが別の世界に切り離されたかのような錯覚を覚える。

店自体は僅かにジャズの音楽が聞こえる程度で、それ以外は全くの無音だ。


「えー…っと…もしかして閉店してる?」


独り言を呟いた千奈美だが、古びたドアには、確かに『open』の文字があった。閉店ではないはずである。


店の中は千奈美より高い本棚が所狭しとあり、そのどれもに古そうな本がびっしり詰まっている。夢占いという文字が古本屋と見間違えたと思うほどの量である。


「難しそうな本ばっかりだなー…私なら絶対に目次だけで寝てしまう自信があるわー。」


今の発言で分かる通り、千奈美はあまり学力はない。成績も学年で下から五番目くらいの学力なのだ。


「あら、お客様が来ていたのですか、気付かなくてすみません。」


「うわっ?!」


後ろから突然、女性の声がした千奈美は店内に響くくらい大きな声を出してしまった。


「あ…驚かして、すみません。」


「い、いえ、こちらこそ、大きな声を出してしまって…。」


丁寧に頭を下げる女性に、慌てて千奈美もぺこぺこと謝った。


頭を上げた女性は千奈美より少し小さく、しかしスーツと銀縁眼鏡がよく似合う綺麗な女性であった。妙に色っぽい印象を感じるのは口元にホクロがあるせいか?


少しの間、千奈美は目の前の女性に見とれていたが、ハッとなる。そんな様子に首を傾げる女性の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。


「あの…えっと…外の看板を見て入って…。」


「こらこら、ありむー、お客さんを驚かしてどーするのさー?」


しどろもどろに説明しようとする千奈美の言葉を遮って、今度は遠くからのんびりとした男性の声がした。


振り向くと、店の奥から千奈美と同じくらいの身長のある男性が、のそのそと現れた。

眼鏡美人の彼女とは対照的に、長身の男性は髪はボサボサ、シャツもしわくちゃ、よれよれの黒いロングコートにダブダブのジーンズと、見るからに時代遅れな身なり、いわゆるダサい服装をしていた。


「えっと、あの、その…」


挟み撃ち状態になる千奈美は困惑するが、あろうことか、女性は千奈美を間にしたまま男性と会話を始めてしまった。


「驚かそうと思って驚かした訳じゃありません。」


「でも、実際驚かしてるじゃーん。」


「仕方ないじゃないですか、この膨大な量の本の整理をしていて、入り口から離れた場所にいたんですから。」


「常にお客さんが来るように構えておかないとー。」


「そう仰るのであれば、漠さんは今の今まで何をしていました?」


そう言うと、今度は女性が千奈美を押しのけて男性に近づいていく。完全に千奈美の存在を忘れている。


「ん?店の奥で調べ物を…」


「そうですか、それなら今からノートパソコンの履歴を見ても構いませんよね?」


「えー…それはちょっと…。」


「何か、やましい事でも?」


「んー…そーいう訳ではー…?」


「なら私の目を見て話してください。」


「うん?いやいや、見たら怖ーい顔するでしょ?」


「しません、勝手に決めつけないでください。」


二人の険悪な空気に戸惑う千奈美を置いて言い合いが続く。


「だいたい、何で私が怒っていると?」


「そーいう時のありむー、怖いもーん。」


「怖くしてるのは誰なんですか?あと、ありむーって呼ばないでくださいと何度言えば…」


「あのー!!」


終わりそうにない言い合いに終止符を打ったのは千奈美だった。

すると二人の視線は同時に千奈美に向いた。

急に、しかも見知らぬ二人の視線を一気に浴びた千奈美は思わずたじろいだ。


「申し訳ありません!お見苦しいところを…。」


すると、その千奈美の様子で冷静さを取り戻したのか、女性は頭を下げて千奈美に謝ると、男性も頭をゆるく揺らしてゴメンねーと、一応、千奈美に謝った。


「い、いえ、こちらこそ割って入ってすみません。」


「そんな、お客様が謝る事では…。」


「そういや、お名前はー?ありむーは知ってる?」


千奈美と女性が謝り合ってるところに今度は漠と呼ばれた男性が割って入った。


「漠さんは全くマイペースなんだから!!……あ、そう言えば私もまだ名前を聞いてませんでした…。重ねて失礼を…。」


そう言って怒りかけた女性ではあるが、そう言われてみれば自分自身もまだ名前を聞いていない事に気づき再び謝る。


(よく謝る人だなー…ってか二人ともマイペースな気が…。)


そう思った千奈美はクスッと笑ってしまった。全く似ていない二人だが、性格の根本は似ていると思うと、何だか笑えてきたのだ。

そんな風に笑う千奈美を二人は顔を見合わせ、そしてお互いに首を傾げるのであった。



ーーーーーー



「えっと…紹介が遅れたねー。僕が占い師の暮島漠っていうの、よろしくねー。」


漠はそう言って手をゆらゆら揺らす。


(この人…服装だけじゃなくて何でも緩い…。)


そう思った千奈美は、とりあえず漠にお辞儀をする。


「私は秘書兼、雑用係の有村…と申します。よろしくお願い致します。」


漠とは対照的に、有村と名乗る女性は深々と頭を下げた。


「あ、私は千奈美って言います。よろしくお願いします。」


有村に吊られて千奈美も頭を下げる。


「千奈美ちゃんかー、なら、ちーちゃんって呼ぶねー。」


「ダメでしょ漠さん。お客様なんですから、そんな馴れ馴れしい呼び方は失礼です。」


「いや、あの、好きな呼び方で大丈夫ですから。」


怒る有村に千奈美は慌てて手を振りそう言うと、有村はやや納得しない顔つきで、そうですか…と小さく呟いた。


千奈美がいるのは、店の奥にある少し広い空間。書斎に置いていそうな木目調のデザインの机にヨーロッパの貴族が座っていそうな椅子が並べてある。漠が言うには、ここが占い場、と言うのだが…。


(はっきり言って…テーブルが…汚い…。)


テーブルの上には古文書や書類、あとはよく分からない銘柄のタバコに灰皿と、とにかく色んな物が乱雑に置かれている。


「ちーちゃん、ゴメンねー?散らかっててー。」


「…あ、いえ、そんな事…ない事もないけど…。」


「あははー。正直だねー。うん、いい事だー。」


「正直な感想が汚いって言われてるのに何を笑ってるんですか?漠さん、私にばかり片付けさせないで自分でも片付けてください。」


「善処するー。」


「善処じゃなくて…」


「あの!」


千奈美は先ほどの二人のやり取りを思い出して、これは長く続くと思ったのか、千奈美は急いで間に入った。案の定、二人の視線は千奈美に注がれる。


「あの、えと…。」


間に入ったものの、次の言葉を考えてなかった千奈美は振り返った二人の視線に必死に言葉を探す。

少しだけ目を細めた漠は、そんな様子の千奈美を観察し、唐突に尋ねた。


「…ちーちゃん、実はちょっとした悩みがあるねー?」


「え?!…あ、えと…はい。」


いきなり核心を突いてくる漠に目を丸くした千奈美は戸惑いつつも頷いた。


「その内容は…おそらく学校でしょー?」


「えっ?…す、凄い、当たってます!」


ズバリと言う漠に千奈美は更に驚いた。


(さすが占いって書いてあるだけに、凄いんだな…この人。)


しかし、漠は得意げな顔もせず目を閉じる。何かを占っているのか、時折、小さく唸り、何かを探っているようにも見える。


そして、ゆっくり目を開ける。千奈美も次に来る言葉を待つ。張り詰める緊張感が店全体を包むと、漠はゆっくりと口を開いた。


「それは…大学受験での悩みだね?!」


「…………は?」


言葉の意味が理解出来なかった千奈美は、間抜けな声を出してしまった。


「あっれー?違ったー?」


そんな千奈美の事なんて気にせず、あっけらかんに笑う漠に千奈美は呆然と漠を眺めるしかなかった。


「漠さん、違うに決まってるでしょ?!この制服は、この近くの中学生の制服です!!」


「あ?そうなのー?」


説明する有村に漠は、とぼけた顔をして有村を見る。


「そうですよ!だから大学受験じゃなくて高校受験の悩みですよ?!」


「いや、有村さんも違いますけど?!私、まだ中学二年生です!!」


「えっ?!」


今度は二人が驚いて千奈美を見る。信じられない…といった顔をしている二人に制服のポケットに入っていた生徒手帳を千奈美は見せる。


漠は受け取り、手帳と千奈美を交互に見やると、のんびりと大人っぽいねー、と笑っている。

一方の有村はひたすら千奈美に頭を下げていた。


「いや、いいんです。よく言われるっていうか、なんと言うか…ってそうじゃなくて!」


「あ、うん、学校の悩みがあるけど受験じゃないって事は分かったー。んで、どんな悩みなの?」


とことんマイペースな漠に、どうしていいか分からず、有村を見た。

有村も首を横に振って両手を上げるポーズを取る。降参っ、という感じで、とりあえず話してくださいという意味であろう。


「えっと…私、部活をしているんですが…。」


ーーーーー


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