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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第三夢
13/37

~夢の中で鬼ごっこ~

「んー…と、参ったなー。」


生い茂る草木が辺り一面に広がる風景の中、ポツリと呟く男がいた。


寝癖のようにボサボサの髪、よれよれのカッターシャツ、シワだらけの黒のロングコートにサイズを間違えたようにダブダブのジーンズと、何とも身なりを気にしない服装をした男である。

見て分かる通り、登山にきた客…とは違うようだ。


「漠さん…何を呑気に言ってるんですか。」


その後ろでビジネススーツに身を包んだ女性が呆れた顔をして溜め息をつく。

凛とした顔に銀縁眼鏡を掛けたその姿は美人秘書といった風貌だ。口元の右下にホクロがあるのが特徴で、何だか色っぽい。


ボサボサの男…漠と呼ばれた男は頭をガリガリと掻いて唸ると、んーと唸り空を見上げた。


「こりゃあ…厄介な案件かもねー。」


誰に言うでもない感じで呟くと、漠は深い溜め息をついた。



ーーーーー


『〜夢の中で鬼ごっこ〜』




「全国大会出場、おめでとうー。」


ここは、坂道を下った先にある、『〜夢占い亭 霞の館〜』という店の中の一角、膨大な量の本に囲まれた空間に三人の男女がいた。


髪を見ても顔を見ても服も見ても、どれを見ても身なりがだらしない男が一人、男とは対照的にスーツを見事に着こなす銀縁眼鏡の女性が一人、学生服に身を包んだ艶やかな長い黒髪と高い身長が特徴の女性が一人が、何やらささやかなパーティ(と言ってもお菓子とジュースしかないのだが…)を開いていた。



「ありがとうございます!漠さんのおかげです、本当にありがとうございます!」


そう言って学生服の少女が頭を下げると、だらしない男…漠はいやいやー、と手をゆるゆると揺らしている。


「僕のおかげ、じゃなくて、ちーちゃん達の実力だよー。」


「そうですよ、千奈美さん。全国大会に行けたのは、いつもの練習の賜物です。」


千奈美と呼ばれた学生服の少女はえへへ…と照れながらジュースを一口飲んだ。

千奈美は部活でバレーボール部に所属し、エースとして活躍している。

その千奈美のバレーボール部は全国大会にて県内優勝、そして全国大会出場の切符をもぎ取ったのだ。


「あの夢から助けてもらえてなかったら…と思うと、未だにゾッとします。漠さん、有村さん、本当にありがとうございます。」


そう言って漠とスーツの女性…有村に頭を下げる。

この二人、見た目は人間、にしか見えないが、実は只者ではない。


漠はこの店の店主で夢占いをしているのだが、本当の姿は夢の中に巣食う悪夢の元凶『睡魔』と呼ばれるものを食べる伝説の生き物、『獏』なのだ。

最近のフィクションでは獏とは悪役で登場するイメージを持つ人もいるが、元来、獏とは悪夢を食べ、幸せを運ぶ縁起のよい生き物らしい。


そして、その漠の隣で遠慮がちに微笑む有村は、神に逆らった堕天使『アリエル』と人間の間に生まれた先祖を持ち、有村はその子孫なのだ。

夢の中で漠を『夢装神』と呼ばれる武器に成り代わり、漠を助ける事により先祖の罪滅ぼしをしている身なのだ。


そして、千奈美はそんな二人に、悪夢から助けられた一人であり、以来二人の店に度々訪れている。


「いやー、これで酒が無いのが寂しいなー。」


そう言って漠はグラスを指で弾く。有村はそんな漠を睨んだ。


「未成年の前でお酒を飲むなんて私が許しません。それに漠さんは酔ったらタチ悪いんですから。」


「え、そうなんですか?初耳です、酔ったらどうなるんですか?」


有村の言葉に興味を持った千奈美は、有村に尋ねる。

眉間に皺を寄せて顔をしかめると、有村はボソっと答えた。


「……笑い上戸になります。」


「え…それって…いい事じゃ……?」


「…千奈美さん、箸が転げても笑うって言葉を、知ってますか?」


呆れたように溜め息をつくと、険しい顔をして千奈美にズイッと顔を近づけた。怖い顔をしている有村だが、そんな怒った有村の顔でさえも、崩れず非常に美人である。

それは異性のみならず、同性でも魅力的と感じてしまう。千奈美は至近距離の有村の顔に思わず見とれてしまい、すぐに顔を真っ赤にして慌てて後ずさった。


「う、うわわわ!!」


「…ん?どうされました?」


「い、いえ!!何でも!何でもありません!…えと、あの、は、はい、何でも笑っちゃう人の事ですよね?」


呼吸を整えて落ちつこうとしている千奈美に有村は首を傾げる。とりあえず質問に千奈美が答えると、そうですね…と小さく呟き、有村の表情は更に険しい顔に変わった。


「その笑いの度が…酷いんです。」


「…え?」


頭を抱えて有村が答える。今度は意味が分からない千奈美が首を傾げる番だ。何がどう悪いのか?そんな様子だ。


「もう…何を見ても笑い出すんです。私の顔も、服も、机も、椅子も、この本棚でさえも…何を見ても笑い出して止まらないんです…。」


「…うわぁ…それは…ちょっと…いや…かなり鬱陶しいかも…。」


千奈美は有村の説明にそんな漠の笑う風景を想像する。確かに一緒には飲みたくないかもしれない…。


「えー?!ちょっとー、ちーちゃん酷いよー。僕、拗ねちゃうよー?」


二人のやり取りに漠はそう言って頬を膨らませると、ぷんぷん!と言って二人を見た。その姿を見ると…とてもではないが、誰も伝説の生き物とは信じないだろう。


そんなやり取りをしている中、強く扉の開く音がした。


(バンッ!!!)


「え?!何?!何の音?!」


びっくりした千奈美は扉が開いた音と分からずに目を見開いて音がする方へ振り返る。


そこには段ボールを片手に担いだ何とも凛々しい女性が仁王立ちしていたのだった。


ーーーーー

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