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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第三夢
14/37

~夢の中で鬼ごっこ2~

ずかずかと乱暴な足取りで漠に近づいてくる女性。

身なりは男性のようなつなぎを着ているが、それとは相反してキラキラした、まるでお姫様のように綺麗な長い金髪をなびかせ、海のように青く澄んだ瞳をしている。ややつり目のせいか、少し怖い印象を持つ。千奈美より頭一つ背も高く、服装も相まって余計に威圧を感じる。

一見するとロシア人のように見えるその女性は漠の目の前まで来ると段ボールを乱雑に下ろして、口を開いた。


「漠坊、久しぶりだな。」


てっきり外国人かと思っていた千奈美は思ったより流暢な日本語を話す女性に少し面食らっていると、漠は知り合いなのか、ゆるく手を振って挨拶をした。


「そーだねー、ソムさん久しぶりー。」


「冴子も元気そうだな。」


「は、はい、お久しぶりです。」


女性は有村を見て声を掛けると、有村も緊張気味に頭を下げる。漠の事を『漠坊』、有村を本名…『アリエル・冴子』の下の名前で呼ぶ、という事はこの二人は、この女性と親しいようだ。


「ん?…この子は?」


女性は千奈美の存在に気付くと、千奈美を指差して漠に尋ねる。


「あー、この子は、この間、話してた子ー。ちーちゃんだよー。」


「…あー、この子が漠坊が珍しく記憶を消さなかった子か。」


「…えと、あの、初めまして。千奈美って言います。」


千奈美は彼女におずおずと自己紹介をすると、女性は無言で手を差し出してきた。握手…という意味だろう、千奈美も右手を差し出しすと、ガバッと手を取られ抱きしめられてしまった。


「むぅぇ!?うぐ!!ふぁべ?!」


あまりに想定外の行動にどうして良いか分からない千奈美は目を丸くして戸惑う。

柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。そして服に隠れて分からなかったが、見た目より豊満な胸であった為、千奈美の顔は胸に埋まり、息が出来ないのと大人の魅力に触れたみたいで千奈美は顔を真っ赤にしてしまった。


「何だ?人は初めて会う人にはこうやって挨拶するんじゃないのか?」


すぐに解放した女性は首を傾げて千奈美を見る。ぷはぁ!と勢いよく息を吐き出し千奈美は深呼吸をする。


「ソムさん、それは多分、文化の違いかと…。」



千奈美と同じように驚いた有村は、女性にそう言うと、女性は、そうなのか…と言って考え込む仕草をした。


「あの、えと、この方は…?」


まだ動悸が治らない千奈美は顔を赤らめて漠に尋ねる。


「ソムさんはね、んー、神様だよー。」


「…え?」


予想だにしてない回答に千奈美は今日、何度目かの驚きの顔を浮かべた。


「そうだ、私は神だ。」


「えっと、あの…はい?」


クールな顔で神だ、と言われても、千奈美は驚くばかりだ。

獏や堕天使の子孫と、千奈美にとって非日常的なものに関わってきた千奈美ではあったが、自分を神と言う彼女を見てすぐ受け入れられる訳がない。


そんな千奈美の様子に察したのか、比較的、常識人である有村は彼女の説明をする。


「驚くのも無理はないと思いますが、彼女はローマ神話に登場するソムヌス様…眠りの神なんです。ギリシャ神話ではヒュプノス…という名前なんですが。」


そう言って有村は彼女…ソムヌスを見た。


「眠りの…神?…か、神様には、色んな神様が…いるんですね…。」


「ん?あぁ、もちろんだ。私の家族なんか、皆、神だぞ?」


「…え?…えぇ?!」


「私の父は夜の神、弟二人は夢の神、死の神だ。」


さも当然だ、というような顔でソムヌスは答えて、そしてさりげなくお菓子を摘む。


「…ふむ、美味いなこれ。」


「…えっと、死の神…って事は弟さんは死神…さんなんですか?」


「…ごくっ!…っぷはぁ…ん?あぁ、違うぞ千奈美、一般的に人間が言う死神はタナトスの部下だ。あぁ…タナトスとは弟の名前だ。」


いつの間にかジュースまで飲んで馴染むソムヌスは、口元を手で拭って説明した。


「元々、死神っていうのは魂をあの世に案内する天使なんだ。だが、天使と神の差別を無くす為に、タナトスが死を扱う神だから死神…と何ともややこしい名前を付けたんだ。…ふむ…これも美味いな…。」


そう説明して、ソムヌスはクッキーを口に放り込んで味を楽しんでいる。

千奈美には空想上の存在が、目の前でお菓子を頬張り、ジュースをゴクゴク飲んでいるのだ。


「漠坊、この菓子はどこで売ってる?」


「あー、それは、ありむー特製のクッキーだからー、どこにも売ってなーい。」


「…ぬ?そうなのか…くそ、残念だな…。」


「あ、それならソムヌス様、また郵送で送りますよ?」


「本当か?!それは嬉しいなー。」


獏に堕天使の子孫、そして神…よく分からないスリーショットを前に、千奈美はただただ呆然と眺めるしかなかった…。



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