~ねぇ、あなたは誰?~8
「…ーい、……ちゃ……ーちゃ…」
(…あ、前にも、こんな事があったなー…。なんだっけ…?)
ぼんやり夢うつつになっている千奈美は眠たい頭をゆっくりではあるが何とか動かそうとして思い出そうとする。
「……った……ーちゃん?テストで社会、数学、理科、英語、全部一桁の点を取ったちーちゃん!!?」
「うひゃあ?!!」
「何で漠さんは、そう千奈美さんを変な起こし方で起こすんですか?」
恥ずかしさとビックリで飛び上がった千奈美は眠気も一気に吹き飛び周りを見渡す。
そこにはニヤニヤした漠に、呆れ顔の有村、そして、おやおや、と口元に手を当てて笑うタエ婆ちゃんがいた。
「えー…と…戻ってきた?」
見渡すと本の山々があり、その景色は間違いなく『〜夢占い亭 霞の館〜』に間違いなかった。
「ちーちゃん、全然起きないから、中間テストの点数を寝言で答えてもらったけど…ククク…ひ、ひどいね。」
「ば…漠さぁぁぁぁん!!!」
笑うのを我慢しながら話す漠に千奈美はお湯が沸騰するくらい顔を真っ赤にして怒ると、タエ婆ちゃんは、あらあらと言って上品に笑った。
そして、タエ婆ちゃんは頭をぺこりと下げると、
「ありがとう、漠ちゃん、有村ちゃん、そして、千奈美ちゃん。」
そう言ってスッキリした笑顔を浮かべていた。
漠をとっ捕まえようとしていた千奈美も、逃げていた漠も、そろそろ止めようとしていた有村も、タエ婆ちゃんの言葉にピタリと動きが止まり、それぞれが重い顔を浮かべていた。
そんな姿を見てタエ婆ちゃんはこらこら、と笑うと、
「実はね、あたし、主人の後を追いたい…そう…思っていたの。」
少し顔を曇らせて話すタエ婆ちゃんに、思わず三人はタエ婆ちゃんの方を向いて話を聞いた。後を追いたい…というのは、おそらく自らも死んで…という意味だろう。
「でも、あの夢…睡魔さん?の夢を見てね、追いかけてこいって意味なのか、まだ生きろって意味なのか…それがどうしても気になって…。まぁ、結局、主人ではなかったんだけどねぇ…。」
タエ婆ちゃんの顔は少し寂しげに俯くが、すぐに顔を上げる。その顔は無理矢理な笑顔ではなく、自然で明るい笑顔を浮かべていた。
「結局、主人ではないにしろ、長生きしてくれって言われちゃったからねぇ、こうなったら、うんと長生きしてやるんだから!」
そう言って明るく笑うと、もうタエ婆ちゃんの顔に悲しみの影は一欠片も感じなかった。
「タエ婆ちゃん、私も…私もタエ婆ちゃんに長生きしてほしい。」
千奈美は心底思った気持ちをぶつけると、僕もー、と能天気な様子で漠も手を挙げ、わ、私も…と遠慮気味に有村も手を挙げた。
「それだけ言われちゃうと、簡単には死ねないねぇ。」
そう言ってタエ婆ちゃんは時計を見ると、急に慌て出した。時間は午後四時半、まだ夜遅い時間ではない。
「タエ婆ちゃん、どうしたの?」
「いや、今日は娘夫婦が孫を連れて遊びに来るんだよ、急いで帰らないと!あ、漠ちゃん、お代金は?」
「あー、いーよー?僕は睡魔さえ食べれたら問題なしー。」
「そんな!悪いわ!…あ、じゃあここの住所教えて?!ねっ?!」
そう言って急かすと、えーっと言って漠は嫌がる。ほら、早く、と更にタエ婆ちゃんは急かせると、あ、じゃあ私が…と言って紙にサラサラと住所を書くとタエ婆ちゃんはしっかり紙を握りしめ、じゃあねー!と言って、年齢とは裏腹に機敏な動きでタエ婆ちゃんは店を出ていった。
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後日…
「ちーちゃん、テストが惨敗だったからってヘコまないのー。」
「うー…山勘が全部外れたー…。」
「いや、山勘じゃなくて、ちゃんと勉強しなきゃダメですよ千奈美さん。」
ある晴れた昼下がり。項垂れる千奈美に頭をペシペシする漠、それをたしなめる有村、いつもの『〜夢占い亭 霞の館〜』の光景がそこにはあった。
最近、千奈美は部活がある日以外はこのように店に入り浸り、そして漠と有村と話す機会が増えていた。
「…あ、そう言えば…漠さん、ご夫人から届け物が来てましたよ?」
そう言って有村は段ボールを持って机に置いた。
その中には、
「わぁ…綺麗…。」
色とりどりの花々と一枚の写真が入っていた。
写真には、タエ婆ちゃんの他に娘夫婦や孫が共に写っていて、それぞれが、それぞれに幸せそうな顔をしていて、それぞれがあの花畑のように綺麗に笑っていたのだった。
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