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「昨日ログアウトしたところに間違いないな」
昨日は「セーブ」することを忘れていた。
うっかりしていたが、自動セーブ機能があったため事なきを得た。セーブしない場合、最終ログアウト地点が自動セーブされるらしい。
ああ、そうだ。
「ステータス異常」ではなかった。
ゲーム内で経験を積めばLvが上がる仕組みになっている、ということだ。知人にメールで問い合せた後に説明書を読んだら、そう書いてあった。
たかがゲームと侮って読まなかった俺のミスだ。
先に説明書をきちんと読むべきだった。
そうすれば、職業を尋ねられたときに「魔術師」と答えたものを。まぁ、経験値が貯まれば転職ができるらしい。
そのためにも戦闘やらクエストをこなさなければならないので、今日は集落でクエストをこなそう。
集落は石造りの建築物が並び、薄暗い雰囲気に包まれている。そこそこ大きな集落、というか大きめの村のようだがやけに寂しい。
人は、「NPC」とやらはいないのだろうか。
……それにしてもリアルな建物だ
「む、あれは……?」
寂しい村の大通りを歩いていくと人の声が聞こえてきた。急いでそちらへ向かうと小さな広場が見えてきた。村の中心だろうか、円形状の広場は石畳でそこそこ整備されている。
数人の村人が喚きながら何かを引っ張って広場に出てきた。
建物の影に隠れて見ていると、村人たちが引張っているのは一人の薄汚れたボロボロの人間だと分かった。
引っ張られている人間は、手枷をはめられ鎖で引っ張られている。まるで罪人か奴隷扱いだ。
クエストと関係があるのかもしれないが、無防備に近づくのも馬鹿丸出しだな。
こっそり後を付けるか。
罪人らしき人物を引っ立てるのに夢中な彼らの後を付けるのは容易かった。そんな彼らがやってきたのはスタート地点。遺跡へ逆戻りだ。
それにしても非道い。
彼らが引っ張っている人間が転んでも構わず引き摺るものだから、地面に血の跡が付いている。
遺跡に到着した彼らは、鎖ごとその人間を石の一つに縄で巻き付けた。
それから先頭を切って歩いていた法衣のような物を着ている中年の男が、手を動かしながら何やらブツブツと言い始めた。
もう少し近づくか。
「――災いをここに捧げる……滅せよ」
「「滅せよ!」」
司祭の後に村人たちの唱和する声が聞こえた。
ううむ、儀式――悪魔祓いっぽいな。
村人と揉めるのも面倒そうなので彼らが帰ってから、生贄と接触するか。
最後に司祭は瓶に入った水を生贄に掛けた。
「ぎゃあああああっ!」
その途端、シュワシュワと嫌な音が生贄から上がり悲痛な叫びが聞こえた。
それと同時に村人からも悲鳴が上がる。
「おお! 悪魔だ!」
「やはり悪魔が取憑いているんだ!」
「聖水が効いたようだな……」
「ありがとうございます、司祭様」
「まだ、終わりではない。明日が本番だ」
違う……何が、聖水だ。あの司祭、酸掛けやがったな。
村人たちがすっかり見えなくなってから、大急ぎで生贄に近付いて驚いた。
相当痛め付けられているが、まだ子供――少年ではないか。顔に火傷を負い全身傷だらけで頭からも血を流している。
どうするべきか考える必要はない。
***
――ガツ……ガッ……ガシャン!
「ふぅ……やっと、外れた……」
少年を戒めている鎖の鍵は当然ないから、サバイバルナイフで鍵穴を壊した。
刃壊れしていないし思ったより頑丈なナイフだな。
「くそ……どうしてやれば良いんだ? 落ち着け、俺」
傷を治してやりたいが、医療セットなど持っていないし、あるのはキャンプセット、ポーション、万能薬、青い石。
「万能薬……は、ステータスの異常回復だったな……ポーションか?」
どうしよう。少年は苦しそうに唸っている。
イチかバチかで万能薬を使ってみるか。
青い液体の瓶を出し、少年の口元に持っていくと変な物が浮かんできた。
名前:ベルテ
職業:薬師
職業レベル:3
ステータス:孤児
総合レベル:1
HP:1/12
SP:6
戦闘力:3
防御力:1
体力:11
魔力:3
スキル:
む、この少年のステータスなのだろうか。
状況からしてそうだろうな。
「……HPが1?」
確かこれが0になると死ぬんだったな。
じゃあ、この数値を戻せば良いのか。
「……じゃあ、ポーションでも飲ませてみるか」
万能薬をしまい、薄黄色の液体の瓶を取り出して飲ませようとしたが、焼け爛れた口を開けるのは可哀想だ。
「沁みるかもしれんが……」
ポーションをふりかけてみた。
「おお、火傷が治っていくぞ? やってみるもんだな」
どういう仕組みか分からないが、もう1瓶ふりかけると傷はすっかり塞がった。ゲームとは本当に都合が良い物だな。
それにしても、痩せ痩けてはいるが綺麗な顔立ちの少年だ。
お、とそっちの趣味はないが思わず見蕩れてしまったではないか。
うん、メモでも取るか。
――メモ:ポーションでは分かりづらいのでアイテム名を傷薬にして欲しい
「よし」
「う……」
どうやら少年が目を覚ましたようだ。
「お、目が覚めたか?」
「あ、あの……あなたは、誰? ……どうして?」
少年は首を傾げながら自分の体をペタペタ触り、俺を見ている。少し警戒しているようだ。
「俺は、BLTプレイヤーの国木麻城というものだ。怪しいものではない」
「ビー、ティ、レイヤー?」
「国木で良い……痛むところはないか?」
「は、はい……あの、クヌギ、様?」
少年はか細い声で俺の名前を確認しながら、伺うような視線で見ている。
「様はいらない」
「で、でも……はい……あの、悪魔はどうなったんですか?」
「悪魔などいない」
小さな声で震えながらそう言う少年に呆れた。
悪魔など……そうか、ここにはいるかもしれないな。
「いや、とにかく何があったか話してくれないか?」
「た、助けてくださるのですか?」
「いや、聞いてから判断する」
無闇に期待されても困るが、クエストならこなさなければならないからな。
ところでどうやってクエストか否か判断するんだ。
「……そ、そうですか」
「ああ。とりあえず、話してみろ」
「あの、私の住んでいる村で病が流行って……それで、病魔を私に取り憑かせて……」
ああ、疫病か。
「そうして、君ごと病気を払おうと?」
「そ、そうです……」
「なぜ、君なんだ?」
「だって、私の髪、悪魔の色だし……」
「ふん」
この痩せた体と良い、日常的にこの子は嫌な思いをしていたんだろうな。
偏見、差別は教養のなさ、教育の程度の低さから起こる。
だが村人を責めることはできない。教育制度を確立できていない国が悪いのだ。
「これで、疫病がなくなるとでも思っているのか……」
「いえ……明日……」
そういえば、司祭が明日が本番とか言ってたな。
「明日、何をするんだ?」
「……悪魔を、炎で焼くのです」
「おい、ダメだろう。それは」
「お願いです!」
「ああ、助けてやるとも」
「いえ、私が焼かれた後、村の病気を、あなたの不思議な薬で治してください……」
なんと。
この少年は自分が焼かれても治らないことを理解しているのか。
「分かっているなら、焼かれる必要はない」
だが、少年は首を横に振った。
「もう、私、良いんです……悲しむ人もいないし……名前を呼んでくれる母もいない……村にいても、辛いだけ、で……」
「お、おい……泣くな、な? お前の母じゃないが、名前なら呼んでやる」
自慢じゃないが泣く子は苦手と言うか、どうしたら良いのか分からんぞ。
「ふ、うう……ふぇ……うえぇぇぇぇ……」
「泣くな、ベルテ……ベルテだよな、ベルテ……ベルテ?」
……む。
ベルテは確か女性に付ける名前じゃなかったか。
「なぁ、ベルテ?」
「は、はい?」
「……君、女性なのか?」
少年、否、少女はコクりと頷いた。




