完成!
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彼女が取り出したのは、今回蒸留に使うもろみだ。
だがよく見るとそのもろみは繊維が多く残っており、麦のかすなどもあって白と茶色が入り交じった見た目をなっている。
「これが今回使うもろみ……再発酵もろみよ!」
実は現在、『ニブル酒造』ではあることが問題になっていた。
それはビールを醸造して造り出した際に残る、絞りカスの処理である。
前世ではビールを造った際に生じたカスは家畜などの飼料にしたり、肥料に転用する場合が多かった。
ただ王都は農作物や家畜を育てる場所ではなく集積する場所だ。
売るとしても二束三文というか処分費がかかるような状態だったので、ビールを造れば造るほど、アナスタジアの亜空間にこのビールのカスは溜まっていく一方だった。
そこでこれをなんとかできないかと考えてアナスタジアが絞り出したのが、この再発酵もろみである。
焼酎には、通常のもろみ取り焼酎とは別に粕取り焼酎と呼ばれるものがある。
これは日本酒を製造した際に生じる酒粕を蒸留することで造る蒸留酒だ。
であればビールでもやってやれないことはないと、彼女はビール版粕取り焼酎を造るべく試行錯誤をした結果、この再発酵もろみを造り出したのだ。
ビールの場合、下の度数がさほど高くないこともあって絞りかすにアルコール分がほとんど存在していない。
また麦汁にした時点で糖化できるデンプンはほぼ全てを使用してしまっている。
だがそれを解決したのが、魔法の力であった。
光魔法を使い残っているデンプン質を集めきるようなイメージで酵母を再活性化させることで、カスの中からアルコールを精製することに成功したのだ。
無論通常の大麦と比べれば効率は大きく劣るが……現在『ニブル酒造』で使える大麦は既に軌道に乗っているビール醸造のためにそのほとんどを割り当ててしまっている。
余りカスなら新規の大麦を使わず造れるので、焼酎を製品化レベルのクオリティに仕上げていくまでは、この再利用して造ったもろみを使うつもりであった。
「よし、そうしたら造っていくわよ。まずはもろみを投入して……っと」
水魔法を使えば液体操作ができるため、もろみを魔法を使ってポットスチルの中へと入れていく。
そうしたらそのままポットスチルの下面に設置されている魔道具に魔力を流し込み、加熱。
するとブルブルと音を鳴らしながら、ポットスチルが稼働し始める。
蒸留器がこの世界に産声を上げた瞬間であった。
「おぉ……」
「蒸留器が……動き出した!」
蒸留器が熱され辺りに熱が放散され始める。
そしてガラス越しにもろみがぶくぶくと泡立ち始め……ラインアームに蒸気が移動していく。
そして……ぽた、ぽた……と魔道具によって冷却された管から液体が桶の中へとこぼれ始める。
「おお、本当にできたぞ!」
「これが……焼酎なんですね!」
「ええ、蒸留酒ができたわ! いわゆるはなたれってやつね!」
「鼻……?」
「あらいけない、つい興奮しちゃって」
おほほほほと笑いながら、アナスタジアは笑顔で全てを誤魔化すことにした。
焼酎のできたての最初の部分は、はなたれと呼ばれ製品化されている
。
蒸留したばかりなので度数が高めで、かつ香味成分が強く残っており、しっかりとした味わいがあるために一部の焼酎好きからの人気は高い。
「アナスタジアよ、ではわしらも飲んでいいのだな……」
「ストーップ! 絶対に飲んだらダメ!」
桶の中に焼酎が溜まり始めたところで、バルボアが辛抱溜まらんと桶の蒸留酒を飲もうとする。
だがアナスタジアはものすごい勢いで彼から桶を取り上げた。
「なぜだ、まさかわしらとの約束を……」
「違うわ、この蒸留酒はね……飲むと危険な成分が入っているのよ」
「危険……ですか?」
「ええ、最悪の場合……飲んだら失明するわ」
「失明だとっ!?」
焼酎におけるはなたれとは、蒸留したての部分全てをそのまま製品化するわけではない。
その焼酎メーカーの製造責任者がここなら飲んでも大丈夫だという部分を取り分けて商品にする製品である。
ではなぜまるっとまとめて瓶詰めせずに、そのような手間をかける必要があるのか。
それは沸騰させ蒸気になるのは、何も水やエタノールだけではない。
実は気化する物の中には、有毒物質も存在する。
それがメチルアルコール、いわゆるメタノールである。
メタノールの沸点は約65℃で、エタノールより早く気化してしまう。
そのため蒸留したての蒸留酒にはこのメタノールが多く含まれる。
メタノールは多量に摂取すると失明する劇薬だ。
第二次世界大戦後戦後すぐに日本で開かれていた闇市で売られていたお酒を飲んで失明したなどというのも、このメタノールが原因になっている。
焼酎で製品化されているのは、蒸留所の責任者がここの部分は大丈夫だとしっかりと理解しているからこそ。
実際に蒸留するのが初めてであるアナスタジアには、この蒸留したての部分を飲むことはさすがに怖くてできなかった。
(ポットスチルはウイスキーのものを参考にしてるし、下手に飲まないのが無難だと思うわ)
ウイスキーではこの出たての部分はフォアショットと呼ばれ、飲用に使われることはない。
今回使っているもろみはウイスキーと同じ大麦麦芽を使っているため、アナスタジアとしては特に慎重にいくつもりであった。
蒸留が続き、もろみが十分に蒸発し始めたところで桶を新しい物に変え、溜めていく。
そして十分に溜まったところでさっと取り出した。
「よし、これなら大丈夫なはずよ」
「おお、これが……」
「焼酎、なんですね!」
アナスタジア達の前にあるのは、底が見渡せるほどに透明の液体。
『ニブル酒造』のビールはグラスの向こう側が見えるほどの透明度を誇るが、それとは次元が違う。
見た目は水と変わらない無色透明の液体に、エッカとバルボアは興味津々だった。
「よし、それじゃあ……飲みましょうか!」
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