異世界情緒
お酒を飲んでいたら、お腹も空いてくるのが物の道理というもの。
出来たてほかほかで保存してある料理を、テーブルの上へと並べていくことにした。
男達がビールではしゃいで完全に浮かれきっている中、アナスタジアが何かを出したのを目ざとく見つけた女性陣達が近付いてくる。
「わぁ、何これ」
「美味しそう……お肉かしら?」
「これはフライドポテトって言ってね……あ、そっちにあるのは鳥の山賊焼きって言って……」
彼女が出した居酒屋メニューを食べて、目を白黒とさせる。
「美味しい! 味が濃くて……私もビール飲みたくなってきちゃった!」
「私も! 一緒に行きましょ!」
そして料理を食べると、すぐに男達の列の中に並んでいってしまった。
どうやら彼女達も気になってはいたらしく、男達の中に平然と入っていきビールを美味しそうに飲み始める。
「わっはっは! これほどのものを持ってくるとはアナスタジア、お主もなかなかやるのぅ!」
あの水晶椀だと足りなくなったのか、いつの間に巨大な金属製のジョッキに持ち替えていたバルボアが、楽しそうにドワーフ達のことをみやる。
「わしらは皆大の酒好きだが、こんな風に気兼ねなく酒を飲める機会というのはそうはない。感謝するぞ、アナスタジア」
こうして見ていても明らかだが、ドワーフ達はめちゃくちゃお酒に強い。
消費する酒量も非常に多いはずだ。
だが彼らは基本的に農耕をしない。
どうやってお酒を手に入れているのかといえば、ドワーフの中でも優秀な職人達が己の作品の対価として大量の酒をもらう形で酒を確保しているのだという。
だが彼ら自身が酒造りをしているわけではないので、その頻度はまちまち。
質もピンキリで、ここ最近は良いお酒を引けていなかったんだとか。
ドワーフ達が狂喜乱舞しているのは、アナスタジアが提供したビールが久々の当たりだったから、ということらしい。
「人間達と完全に没交渉ってわけじゃないのね」
「ああ、どれだけ質のいい物を生み出したところでそれを評価してくれる者のところへ届かなければ、ただのガラクタだからな」
ドワーフ達が交易をしている相手は、公爵領の中でもかなり遠くまで出張るタイプの商人や、その腕を見込んでわざわざここまでやってくる冒険者達ということだった。
父から聞いた限り、近くの街からここに来るまでもかなりの距離があったはず。
つまりはわざわざこの距離をやってきてでも彼らの作る物を求める人達がいるということ。
これは期待できそうね……と思いながら、アナスタジアはバルボアにおかわりのビールを注ぐ。
ついでに自分も注いで、二度目の乾杯。
一気にぐいっと飲むと、同じようにバルボアは口の上に二重の髭を作りながらにやりと笑った。
酒を酌み交わせば同胞……なるほど道理である。
飲んべえ同士の気持ちが通じ合うのに言葉は要らない。
ただ酒があればそれで十分なのだ。
酒のアテとしてベストマッチする居酒屋メニューの濃い濃いの料理が大量にあったこともあり、ものすごい勢いで酒が進んでいく。
ドワーフ達が聞いたことのない彼らの歌を口ずさみながら、巨大なジョッキになみなみと注いだビールを飲み、陽気に騒いでいる。
そして気付けばクロノスとスザクもその輪に交じり、ドワーフ達と普通に酒を飲んでいた。
これぞ異世界という光景に、アナスタジアは思わず見入られてしまう。
ただ彼らが食べているのがカラアゲやハムカツなので、妙な親近感がある。
彼らは飲む速度だけではなく食べる速度も速いので、作った側のアナスタジアとしても見ていて気持ちがいい。
もしドワーフの集落に居酒屋を建てたら、ものすごい勢いで売り上げが立ちそうね……五つ出した新しい樽を飲み干されたところで、アナスタジアは彼らの酒豪っぷりに笑いながら更に追加で樽を出した。
その樽が尽きるかという頃になってくると、さすがに酒の強いドワーフ達とはいえ酔い潰れる者が出始める。
ちなみにアナスタジアの方も彼らから何度もビールを注がれたので、かなりベロベロだ。
彼らの善意を無下にするわけにもいかず、乾杯をした数は両手で数えきれぬほど。
これ以上飲むと記憶が飛ぶという一歩手前まで飲んでしまっている。
ここまで一気にお酒を飲んだのは、初めてエールの開発に成功した日の夜ぶりかもしれない。
水魔法で作ったチェイサーで血中のアルコール濃度を薄めながら、ゆっくりと息を吐き出して酔いを冷ます。
「人間にしては信じられぬ飲みっぷりだな……まさかうちの女衆よりも強いとは」
既に辺りは酔い潰れた者達で死屍累々となっており、飲み過ぎる前に家に戻った者も多いので、既にこの場で意識を保っているのはアナスタジアとバルボアしかいない。
先ほどまで楽しそうに酒を飲んでいたバルボアの目の色が変わる。
酔いで頬は赤くなっているものの、そこにはこちらを冷徹に窺う知性の色があった。
彼が真面目な態度をしたのに合わせ、アナスタジアも背筋を伸ばす。
社交パーティーではお酒を飲みながらも、我を忘れず冷静に立ち回れなければならない。
たとえどれだけお酒を飲んでも、意識の切り替えをするのはアナスタジアには朝飯前であった。
二人きりになるまで真面目な話をしなかったのは、他の者達の中に聞かせることがないよう、彼なりに配慮をしてくれてのことなのだろう。
「……で、何を造ってほしいんだ? ここまで気前よくこれほどの酒を飲ませてくれたんだ、大抵のことなら聞くつもりだが」
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