霊獣
そこには、一匹の鳥がいた。
だがそれを鳥と呼んでいいのかが、アナスタジアにはわからない。
彼女の前に現れたのは、その全身が炎によって形作られている鳥型をした炎の化身のような存在だっただったからだ。
全身がメラメラと燃えている、というか身体が炎でできているとなるとこの召喚獣は……
「フェニックス……?」
『下等な火の鳥と一緒にしないでくれ。我は霊獣スザク」
「れ、霊獣なの!? ……あ、私はアナスタジア・フォン・ニブルヘイムよ、よろしくね」
『よろしく頼む』
アナスタジアは改めて『プリンセス・アラモード』の知識を引っ張り出した。
霊獣とはエンドコンテンツ……いわゆるクリア後のお楽しみというやつだ。
それぞれの個人ルートを終えてクリアをしてから最後のフラグ回収を行う前や、特定ルートのクリア後にも続くゲームの中で戦うことができるようになるという、最強の魔物達である。
その強さは魔王を倒せたカーシャであっても苦戦するくらいなので、めちゃくちゃに強い。 大精霊然り霊獣然り、この世界では魔王というのは誰にも負けぬ絶対強者というわけではないのだ。
『これは……召喚陣か。まさか我を召喚するものが現れるとはな……』
『やあ霊獣、久しぶりだね』
『お前は……クロノスか。お前がやったのか?』
『僕と魔王とこの子の合作って感じかな?』
「いや、私ほとんど何もしてないけど……というか、クロノスはスザクと知り合いなの?」
どうやらクロノスとスザクの間には面識があったらしい。
『プリンセス・アラモード』ファンとしては考察が進んでしまう関係性だ。
霊獣と大精霊、一体どこで接点があったのだろうか……そんなことを考えていると、ちょっと心躍っている自分がいることに気付く。
『まあまあ、とりあえず駆けつけ一杯でスザクも飲むかい?』
『これは……酒か?』
『この子が作ったビールだ。僕のお気に入りだね』
『どれ、いただこう』
スザクはクロノスが出したジョッキを器用に持つと、そのまま一息に飲み干した。
ジョッキが燃えるんじゃないかなと馬鹿なことを考えていたアナスタジアだったが、どうやら火力の調節は完璧らしくジョッキには焦げ跡の一つも残っていない。
『ほう……これは美味いな』
やっぱりこの世界の強いキャラって、皆お酒大好きなのかしら……ニブルヘイム公爵、大精霊、魔王に続く第四の酒好き最強キャラが現れたことで、アナスタジアの説が更に強固になる。
もう確定でもいいのではと思うレベルである。
『しかもこの子、まだまだ新しいお酒のアイデアがあるって言うんだ。面白いだろう? だから百年くらいなら付き合ってあげてもいいかなって』
『ふむ、たしかにその程度の時間なら構わんか』
(長命種特有のバグった時間感覚……っ!)
まず間違いなくアナスタジアは百年も生きられないだろうが、とりあえず彼女が生きている間はきちんと召喚獣として働くという形で合意が取れる。
双方の合意ができたことで魔法陣が再度輝きだし、そこから飛び出した紫色の魔力がアナスタジアとスザクを一本の魔力の糸で繋いだ。
魔力の糸はそのままフッと消えていくが、アナスタジアには自身とスザクとの間に一本のパスが繋がった感覚がある。
どうやらこれが、召喚獣と召喚術士の間を繋いでくれるらしい。
『我は腹が減ったな……アナスタジア、何か食べさせてくれ』
「わかったわ。そしたらとりあえず……」
アナスタジアが亜空間からパッと取り出したのは、これまた醤油の開発によって生み出された居酒屋メニューであるテリヤキチキンステーキだった。
表面が砂糖と醤油によっててらてらと光りながら湯気を出しており、鉄板に載った照り焼きソースの焦げた香りが、もう十分に食べたはずのアナスタジアの食欲をそそる。
ちなみになぜアツアツなのかというと、時空魔法の亜空間の中では時間経過も止まるためだ。
彼女は中に大量の料理をストックしている。
それでも料理をするのは、アナスタジアがストックが減っていくのにストレスを感じてしまうもったいない精神が強いタイプだからである。
あと普通に料理をする気力がない時に食べたいというのもある。
人間、ズボラでいたい時もあるものなのだ。
『うむ、美味そうだな』
(あっ)
口に出そうになるのをなんとかこらえていると、スザクは炎を器用に操りながら、ステーキを口に含んだ。
『――美味い! なんだこれは! ただ塩辛いだけではなく……甘じょっぱいぞ!? そしてその後にこのビール……くっ! なんという切れ味、この霊獣スザクが切り裂かれたかと思ったぞ』
スザクは実に楽しげに、ビールとテリヤキチキンステーキを楽しんでいた。
おつまみを再加熱して食べていた。
スザクに鳥のステーキを渡してしまったが、これってひょっとして共食いなのでは……失礼にあたるかと思い口にしなかったのは、どうやら正解だったらしい。
スザクにまったく気にしている様子はなく、所望されたのでそのまま『スピリットラガー』のおかわりを注いであげる。
『ふぅ、堪能した……で、我は何をすれば良いのだ?』
「えっと……家の警護とか、かしら?」
あのすぐに壊れる核弾頭をなんとかしたかった気持ちが強く、それなら『召喚獣出しちゃえ!』と勢いで呼び出したなどと正直なことを言えるわけもなく。
とりあえず魔石を使うために呼んだだけなので、アナスタジアにこれをしてもらいたいという強い目的はない。
クロノスとスザクという強キャラが二体いるので、大抵のことはなんとかなってしまいそうだが……そもそも武闘派ではないアナスタジアは、彼らを使ってこの世界に覇を唱えたりするつもりもない。
まあこれで何かあっても危なくなることもはないだろう。
そんなふわふわした感想を抱きながら、ふわぁ……と大きなあくびをする。
(この二体がいれば、多分わりと余裕で魔王倒せそうよね……ってそうだ、魔王はうちにお酒飲みに来てるんだった……)
だったらもう倒す相手もいないじゃんと冷静になったところで、今がド深夜であることに改めて気付く。
さっきの光はかなり眩しかった。
このままこの場に居続けたらまたあらぬ噂をかけられない。
『わかった、とりあえず言われた通りにしよう。ただビールの献上は忘れずにな。あ、もちろん新商品の開発があれば呼ぶように』
(どうしよう、また飲んべえが増えてしまった……)
こうして無事アナスタジアは霊獣と契約を行うことに成功し、更なる戦力の補強(本人は求めてない)を成功させ、急ぎ自宅へと戻るのであった。
そして聖獣のことを普通に飲んべえと認識しているあたり、アナスタジアの感覚は順当にバグりつつあった……。
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