なんちゅうもんを
「これはカラアゲと言いまして、調味料に付けた鶏を揚げた料理になりますわ。そしてこちらにあるのがフライドポテト……名前そのままに揚げた芋ですわ」
「揚げ物……それにしてはずいぶんとかわいらしいサイズなのね」
「これなら私達でも食べやすいわね」
「そうよね、正直なところ最近油がきつくって……」
皆で談笑をしながらも、その視線は目の前の料理に釘付けだった。
バロニア王国における揚げ物といえば、基本的に来客を歓迎するための豪快な料理のことを指す。
定番が豚の丸焼きであり、それもかなり油でギトギトで婦女子はすぐに許容量を超えて手が止まってしまうような代物だった。
だが目の前にあるカラアゲは布でしっかりと油を切られているらしく、いかにも食べやすそうだ。
フライドポテトの方もザクザクとした衣を纏っていて、まぶされている塩をキラキラと反射させて輝いて見える。
「ぜひご賞味下さいな」
「それじゃあ早速ッ!」
最初は毒味扱いで先手を取らされていたセラムは、気付けば皆から羨望の視線を浴びている。
一番始めに食べられる特権に内心で喜びながら、二つに切ったカラアゲを口へと入れた。
「……これまた美味い! ただ揚げてるだけやのうてお肉にしっかりと下味がついとるから、噛みしめてじゅわっと出てくる脂まで美味い……そして濃い味付けが、またこのビールに合う!」
「ふふっ、そこまで喜んでもらえたのなら嬉しいです」
「アナスタジア様、なんちゅうもんを作ってくれたんや」
伸びる手が止まらずに気付けばビールのおかわりと頼んでいたセラムにアナスタジアが説明をしてくれる。
聞けばしっかりと一つ一つに調味料で下味をつけ、更に片栗粉やパン粉などの複数の粉を使って食感にもこだわっているらしい。
一つの料理に対する熱量とは思えないそのこだわりに、セラムは唸りながらカラアゲを食むことしかできなかった。
「そしたら私はこちらのフライドポテトを……あつっ! あっつあつで……美味しいですわ。シンプルだからこそ、ジャガイモの素朴な甘さがしっかりと伝わってきて……た、食べる手が止まりません!」
芋を揚げた料理自体は存在するが、それもじゃがいもをまるごと揚げた素揚げがせいぜい。
このように小さく細切りにして揚げるようなことはなかった。
工程をたった一つ足しただけなのに、これほどまでに美味しくなるものなのかと、皆がものすごい勢いで食を進めていく。
繊細でありながらガツンとした旨味が来るカラアゲと、シンプルなのに美味しいフライドポテト。
先ほど出てきた枝豆も含めて……これら全ては、驚くほどにアナスタジアが作ったラガーとペアリングが出来上がっていた。
(これ、全部計算されとるんか!?)
それからもいくつもの料理が飛び出してくる。
脂っこい料理、喉の渇く塩の利いた味付け。
本来であれば手が止まってしまうはずだが、アルコールが脂を洗い流し食欲を増進させるおかげで食べる手が止められない。
皆が夢中で、酒と料理を食べていく。
談笑しながらというよりは、料理と料理の間に会話を挟むという感じであった。
もはやこの場はアナスタジアによって完全に支配されていた。
彼女の差配も巧みであり、飲み物のサーブや酔い冷ましの水の提供、各人のお腹の具合を見ての料理の量の調節など、細やかな心配りがキラリと光る場面が幾度も起こる。
「そしてこれが今日のメインディッシュ……馬刺しですわ。こちらは少し癖が強いので、こちらの香辛料のニンニクとショウガをつけてお召し上がりください」
最後にやってきたのは、馬の刺身だった。
鶏や豚、牛は食べたことがあっても馬を食べたことがある者はほとんどいない。
もちろんセラムも食べたことはなかった。
だがつけて食べる赤みがかった黒い液体なら知っている。
魚醤と呼ばれる少し癖の強い調味料だ。
他の者達がなかなか手を出さずにいる中、既にアナスタジアのことを信用し始めていたセラムは馬刺しを口に含んだ。
言われたとおりに、にんにくを少し乗せて。
「な、なんやこれ……馬の刺身って、こない美味かったんか!?」
セラムが食べたことがある馬肉とは根底からして違うものだった。
噛み応えはあるが固すぎると言うことはなく、しっかりと噛み切ることができる固さ。
そして噛めば噛むほどじわりと湧いてくる脂の旨味。
野性味の強い肉特有の臭みは、薬味であるニンニクが消し去ってくれている。
「普段軍の方が食べるような馬肉は、基本的に死んだ直後の馬などが使われることが多いですから……こうして新鮮な馬刺しは、またずいぶんと違うでしょう?」
アナスタジアの言葉にコクコクと頷きながら、脂の旨味を味わうセラム。
刺身自体、海がかなり近い場所でなければ食べることはできないものだ。
だが馬の刺身が食べられるのなら、内陸であっても刺身を食べることができるようになる。
そして魚醤を多くつけて濃いめになった味は、やはりラガーに良く合った。
既に大分酔っ払っているが、セラムはそれでもグラスを傾ける手を止めることができなかった。
「実は今日提供した料理を出す店……居酒屋を近く王都に開店予定なのです。貴族向けの店舗と大衆向けに少し安い価格帯の料理を出していく二店舗を王都で展開しますので、もしよければぜひお越しください。あ、もちろんラガーの販売の方も行っておりますから、一報いただければお届けにあがりますわ」
そしてやはり、これはプロモーションだった。
しかも新商品の販促と同時に、新たに始める店の紹介まで行っている。
自身のビールを広めるために流行の最先端を担う貴族や社交界の重鎮達に情報を広めつつ、料理屋に直接酒を卸すのが難しいのなら、自分で店をやって自家消費すればいいという目の付け所。
扱う商品、それに見合った料理、それを広めるための手腕。
アナスタジアの商才は自分以上に違いない。
既にいくつもの事業を任されているセラムをして、嫉妬してしまうほどに見事な一手であった。
だがセラムも既に支店の一つを預かっている立場。
商機と見ればそれを逃すほど鈍ってはいない。
「アナスタジアはん、よろしいか!? 二人で一度話をさせてもらいたいんやけど……」
「ふふっ、もちろん構いませんよ」
うちがこうなることまで、全部読み切られてたのかもしれん。
そんな風に考えながらアナスタジアはラガーの購入と、自領で展開している料理屋へのラガーの卸の仲介契約を結ぶのであった……。
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