27
嶋、湯川、桜庭の三人は寝ようにも寝られないので、一階のリビングへ行った。気が付けば、伴も部屋へ戻っていた。嶋と湯川はソファに腰掛ける。
「コーヒーでも淹れるね」
桜庭が気を利かせてコーヒーを用意してくれた。
「ありがとう」と、嶋は彼女に言った。
三人は黙ってコーヒーを啜る。コーヒーを飲んで嶋は少し気分が落ち着いた。二人もホッとした表情をしていた。
しばらくして、二階から悲鳴が聞こえた。箕輪の声だった。
嶋たち三人はすぐに二階へ上がり、彼女の部屋の前まで行く。
「嶋です。箕輪さん、どうしたんですか!?」
嶋が扉をノックして訊いた。
すぐに内側の鍵が開く音がし、中から箕輪が顔を出した。
「カメラが……動いてたの!!」と、彼女が恐る恐る言った。
「カメラ?」と、嶋が訊き返す。
「これよ、これ!」と、箕輪はそのカメラを持って言う。「カメラ」とは、小山内充が撮影に使用していたものだった。
「動いてるって……?」
嶋がそう訊くと、「ほら、ここ光ってるでしょ?」と、箕輪が言った。
そのカメラを見ると、ランプが赤く点滅しているのが確認できた。どうやらそのカメラは「録画中」のようであった。
「なるほど……。でも、どうして悲鳴を上げたりなんかしたんです?」
それから、嶋が箕輪に訊いた。
「いや、それは……。ちょっとカメラをいじろうとしてたの。そしたら録画されていたから、思わずビックリして……」
箕輪はそう話す。
「そうですか。あ、箕輪さん、ちょっとこのカメラをお預かりしてもいいですか?」
嶋がそう訊くと、「ええ、好きにしてちょうだい」と、彼女は言って嶋にそれを渡した。
「ありがとうございます」
嶋はそれを受け取ると、彼女にお礼を言う。
「あ、失礼しました。おやすみなさい」
それから、嶋はそう言ってそこから離れる。湯川と桜庭も箕輪にペコリとお辞儀をした。
「おやすみなさい」と箕輪は言って、すぐに扉を閉め、鍵を掛けた。
嶋たち三人は再びリビングへ戻った。
「嶋くん、なんでそのカメラを預かったの?」
ふと、桜庭が嶋にそう訊く。
「これが、僕たちが探していた証拠だよ!」
嶋はにやりと笑って言う。
「証拠?」と、桜庭が訊き返す。
それから、「ああ、そうか!」と、湯川が気付いて言った。
「このカメラは録画され続けていたんだね」と、湯川は言う。
「そう。ということはもしかすると、録画の中に『犯人』や『犯行の様子』が映っている可能性が高いね」
嶋は得意げに話す。
「そっか!」と、桜庭が納得する。
「ちょっと見てみよう」
嶋はそう言い、カメラの録画ボタンを止めた。そして、録画された動画を再生した。嶋ら三人はその動画を観る。
その動画は約四十時間分も録画されていた。その長さは約二日分にも及んでいた。
嶋たちは動画を飛ばし飛ばしに観る。
動画は最初、(多分)小山内が録画を始めている。少しして、扉をノックする音がした。その音にビックリした小山内は慌てていたようで、持っていたそのカメラを床へ落とした。カメラは落ちたまま動画を映していた。それはベッドの方を向いている。
その後、廊下の明かりが中へと入る。どうやら扉が開いたようである。それから、そこへ誰かが入って来た。ややあって、ガンという音がした。
その音で嶋たち三人はビックリする。
「多分、ここで小山内さんは犯人にマイクで殴られたんだ……」
嶋がそう説明する。湯川と桜庭が頷く。
そして、バタリと倒れた音がした。小山内が倒れたのだろう。それから、一度犯人が映る。犯人は倒れた小山内を背負うように持ち上げた。が、暗くて犯人の顔は見えなかった。
その後すぐである。犯人の胸ポケットから何かが落ちた。
「ん?」
嶋は一度、動画を止める。「今、何か落ちたよね?」
「何だろう?」と、湯川が目を凝らす。
それは小さくて分からないが、銀色の何かに見えた。
嶋は再生する。犯人はそのままその部屋を後にする。
「この後、犯人はカラオケ室へ行ったんだね」と、湯川が言う。嶋と桜庭が頷く。
それから動画はしばらく変化がないので、嶋は早送りした。ややあって、その部屋に誰かがやって来た。だが、暗くてやはり顔は見えない。
「あ!」と、嶋は声を上げる。
その人物は先程その部屋に落としたそれを拾い、すぐにそこを出て行った。
「銀色の何か……」と、嶋は呟く。
「それが犯人を探す手がかりか……」
それから、湯川がそう言った。嶋は頷く。
その後、動画はしばらくなにも起こらなかった。動画の半分くらいになると、箕輪がやって来て彼女がその部屋で過ごしている様子が映った。それ以外で特に変わったことはなかった。そして、動画終盤に彼女が床に落ちていたカメラを拾う。点滅していることに気付いてビックリした顔をし、悲鳴を上げる。その後、二階にやって来た嶋たちがカメラに映る。
動画はそれで以上だった。
「もう一度、犯行のところだけ見せてほしい」
湯川が言った。嶋は頷く。
それから、動画を最初から再生し、再び犯行のシーンを見る。
「ストップ!」と、湯川が言う。犯人の胸ポケットから銀色の何かが落ちたところである。
三人は目を凝らして見る。
「うーん、これは……」と、湯川が考えながら言う。
ふと、桜庭が表情を変えた。
「ねえ、これって、電子タバコじゃない?」と、彼女が言った。
「あ!」と、嶋も気付く。
「そうか!」と、湯川も顔色を変える。
「それを持っていたのは、あの人しかいない……」
湯川はそう言って、にやりと笑う。
「間違いない。犯人は……」
嶋は二人を見て言った。
「ねえ、二人とも何だか臭わない……?」
少しして、桜庭がそう言った。
確かに先ほどから焦げ臭いにおいがするなと嶋は思っていた。
「あ!」
それからすぐに嶋は気づく。その臭いはカラオケ室の方からしていた。
嶋は急いでカラオケ室へ向かう。見ると、その部屋は扉が開いていて中は火が燃えていた。
「ウソ!?」
嶋はその光景に驚愕する。それからすぐに犯人の仕業だと思った。
湯川と桜庭もそこへやって来る。
「え?」
「どうして……」
二人もその部屋の様子に唖然とする。
「ここだけじゃない!」
それから、湯川が二階を見て声を上げる。二階の廊下に、伴の姿があった。
「二階もか!」
嶋もそちらを見てそう言って、すぐに階段を上がる。
伴はケラケラ笑いながら持っている赤いポリタンクをその場に撒き散らした。
「おい! 何やってるんだ!!」
嶋が怒声を上げる。
「フフフ……フィナーレだよ……」
伴はそう言って、手に持っているライターで廊下に火を点けた。すると、火はバッと廊下一面に広がる。
「やめろ!!」
再び嶋が大声で叫ぶ。
それから今度、伴は自室へ行った。急いで嶋は彼の部屋の前まで行く。
伴は部屋へ入ると、再び部屋に灯油を撒き、火を点けた。
「何やってるんだ!! やめろ!! おい!!」
嶋は叫び、彼を止めようとした。嶋が助けようとした途端、伴は扉とは反対の窓ガラスへ突進した。そのまま彼は落下した。
ビックリした嶋はすぐに窓際へ寄り、その部屋の下を見た。伴は雪に埋まるようにそこへ倒れていた。嶋は彼の姿を呆然と見ていた。
「嶋くん!」
桜庭の呼ぶ声がした。気づくと、彼女は部屋の前にいた。
「おい! 嶋、何やってるんだ!」
それから、湯川が言った。彼は桜庭の隣にいた。
「伴さんが……飛び降りたんだ!!」
嶋がそう伝えると、「マジか……」と、湯川が静かに言う。
「それより、早くここから皆で出るぞ!!」
それから、湯川が言う。部屋の中の火は勢いよく燃えている。嶋は頷いた。
嶋たちはすぐに箕輪と鷲尾の部屋をノックした。
「ペンションで火災が起きた」というと、彼女たちはすぐに部屋を出てきた。それから、五人はコートやジャンバーを持って外へ出た。
外は寒かった。嶋はスマホで気温を確認すると、マイナス四度だった。雪が降っていないだけましであるなと彼は思った。




