10
夜ご飯を食べ終えた後、全員でカラオケ室へ移動した。そこへお酒やお菓子を持って行った。
「すごい! こんなに広いんだね!」
鷲尾が部屋を見回しながら言う。そのカラオケ室は広かった。コの字型のソファに十人が座れた。
「ウチ、家のカラオケルームって初めて見た!」
箕輪が珍しそうに言う。
「大体の人がそうだろう」と、大門が言って笑う。
「カラオケ店の部屋とほぼ大差ないくらい広いね。皆、入れるし、良かった」
伴はそう言って、ソファに座る。
「さて、誰から歌います?」
それから、伴が仕切るように言った。
「はーい」
手を挙げたのは、箕輪だった。「ウチから歌うよ」
「OK! あ、そうだ! せっかくここ(平成壮)に来てるから、『平成縛り』で歌うのはどう?」と、伴が言った。
「平成縛り? いいけど」と、箕輪が言う。
「あ、それから、歌う歌は『冬歌縛り』にしない?」と、小山内は言ってにやりと笑う。
「いいね! そうしよう!」と、伴が笑顔で頷く。
「オッケー」
早速、箕輪はテーブルにあったタブレットで曲を選ぶ。それから、彼女は充電していたマイクの一本を取った。
しばらくして陽気な音楽が流れ、大画面テレビに映像と歌詞が映った。曲と同時に箕輪は歌い出す。冬らしい曲である。歌っているのは、広瀬香美の「ゲレンデがとけるほど恋したい」だった。
箕輪が歌い終わると、皆が拍手した。彼女の歌は上手かった。
「えへへ、ありがとう」
箕輪は照れ臭そうに言う。「次は、誰?」
「オレ、歌うよ!」と、言ったのは大門だ。
大門はタブレットを自分の前にやり、曲を選んで入れた。再び冬の曲が流れる。彼が歌うのは、桑田佳祐の「白い恋人たち」である。彼もまた歌は上手かった。
彼が歌い終わると、再び拍手が飛ぶ。
「次、私歌う」
手を挙げたのは、鷲尾である。彼女もタブレットで曲を選んで入れる。今度は、クリスマスソングが流れた。早速、鷲尾は歌う。BoAの「メリクリ」だ。
鷲尾が歌い終わると、全員が拍手した。
「じゃあ、次、俺歌うわ!」と、伴が手を上げる。
「え? 僕、最後?」と、小山内が困った顔で言う。
「嫌? それなら、先歌ってもいいよ」
「いや、別にいいけど……」
「それじゃあ、俺先に歌うね」
伴はそう言って、曲を選ぶ。すぐに曲が流れた。彼が入れたのは、レミオロメンの「粉雪」だ。伴は歌い始める。
この曲はサビの部分が高いと有名で中々歌うのも難しいと言われている。伴はこの曲を気に入っているのだが、音痴だった。
「おいおい、部長、勘弁してよ……」
伴が歌い終わると、大門が残念そうに言う。彼がそう言った後、皆が笑った。
「なんで笑うんだ?」と、伴は皆を見て訊く。
「なんでって、自分でも下手なことくらい分かるだろう?」
大門は彼を見て言う。
「ああ、分かってるよ。俺はカラオケだけはどうしても苦手なんだ……」
伴はあっさりとそれを認めた。
「もういい」と、大門は吐き捨てる。
「次、僕の番ね」
小山内がそう言って、タブレットで選曲する。しっとりした曲が流れ、小山内が歌い出す。Back numberの「ヒロイン」である。
彼は歌が上手かった。歌い終わると、拍手喝采が起きる。
「ありがとう」と、小山内は笑顔で言う。
「いいなあ~、小山内は歌が上手くて……」
唇を尖らせながら、伴がそう言った。
それから、今度は嶋たちミステリー研メンバーが歌う。前の五人が冬歌を歌っていたので、嶋たちもそれに合わせることにした。
嶋から順番に歌うことにした。彼はGLAYの|winter, againを歌う。
次に、加賀谷が中島美嘉の「雪の華」を歌う。中森がEXILEのlovers againを歌った。そして、桜庭がSPEEDのwhite loveを歌う。最後に、湯川がMISIAのeverythingを歌った。
嶋たちは五人とも歌は上手かった。
「なんだよ~、歌下手なのは俺だけか……」
伴が舌打ちして言う。
「みたいだね……」と、小山内がにやりと笑う。
それから、伴は胸ポケットから何かを取り出す。ステンレス製の細長い棒のようなものだった。彼はそれを口に咥えると、一度吸う。
「あれ? それ、アイコス?」と、箕輪が訊いた。
「ああ、そうだよ」と、伴は煙を吐きながら言った。
伴が吸っていたのは、いわゆる「電子タバコ」であった。
「伴くん、いつの間に電子に変えてたんだ」と、箕輪が思い出して言う。
「まあね。禁煙してたんだけど、アイコスが発売されてからどんなんだろうって気になって、つい手を出してみたら案外良くてね」と、伴は得意な顔で言う。
「へー」と、箕輪が頷く。「そろそろウチも吸いたくなってきた。ねえ、亮くん」と、彼女は大門の名前を呼ぶ。
「はいよー」
呼ばれた大門はすぐにズボンのポケットからタバコの箱を出し、一本彼女に差し上げる。箕輪はそれを口に咥え、すぐに大門はタバコに火を点ける。それから、彼女はそこで気持ちよさそうに煙を吐いた。
何人かが咳き込む。
「ねえ、皆の前では吸わないでって、さっき言ったよね?」
即座に鷲尾がマイクでそう注意した。
「あ、ゴメン……」
言ったのは、伴だった。その後、「ゴメンナサイ」と箕輪も謝って、テーブルの端にあった灰皿にタバコを押し付けた。
「吸うなら、外で吸ってよね」
鷲尾はそう言うと、マイクをテーブルに置いた。
「ねえ、亮くん、行こう」
そう言って、箕輪は大門を連れてその部屋から出て行った。
伴も電子タバコを胸ポケットにしまう。それから、彼は口を開く。
「俺のことは気にしなくていいから、この後も歌いたいやつは好きに歌ってくれ」
そう言って、伴はズボンのポケットからスマホを取り出し、それをいじり始める。
「あ、そうだ」
それから、ふと伴は思い出して言う。
「何?」と、鷲尾が彼の顔を見る。他の皆も伴を見た。
「今夜、寝る部屋なんだけど……。部屋が全部で五部屋しかないんだよ……」と、伴は話す。
「あー、そうだね……」
鷲尾も思い出してそう言う。伴は話を続ける。
「それで、今ここに十人いるだろ? だから、一部屋を二人で使ってもらおうと思っているんだ。そこで、どういう組み合わせで部屋に泊まるかといった話なんだけどさ、どうする?」
伴はそう言って、皆を一瞥する。
「うーん。それじゃあ、演劇サークルは演劇サークルで。ミステリー研はミステリー研で固まればいいんじゃないかな?」
そう言ったのは、中森である。
「そうよね……」と、鷲尾が頷く。
「うん、それがいいよね」と、伴も頷く。
「あ、女子は女子で固まったほうがいんじゃないですか?」
それから、加賀谷がそう言った。
「うん」と、桜庭が頷く。
「オーケー」と、伴が言う。「そしたら、うちの女子メンバーで一部屋。そして、ミステリー研の女子メンバーでもう一部屋ということにしよう」
「分かった」と、鷲尾が頷く。加賀谷と桜庭も頷く。
「で、残りの三部屋を男子メンバーが使うとしよう。どういうペアにするかなんだけど……」と、伴が言い淀む。
「男子三人ずつだから、演劇サークルとミステリー研で一人ずつあまるよね?」と、小山内が言う。
「そうだね。だから、一部屋は相部屋になってしまうんだけど、どうする?」
それから、伴が男子メンバーに訊く。
「僕はどっちでもいいです」と、嶋は言った。
「俺もどっちでも構わないよ」と、伴も言った。
「あ、そしたら、部長同士で相部屋になるのは?」
それから、湯川がそう提案する。
「ああ……それでもいいか」
伴は納得して言う。それから、「嶋さん、それでも平気?」と、彼は嶋に訊いた。
「はい、大丈夫です」と、嶋は返事する。
「ありがとう。そしたら、部屋割りは今話した通りにしようと思う。各グループ、好きな部屋を使ってもらって構わないから」
そう言って、伴は立ち上がる。
「さあ、俺は風呂入って、部屋でゆっくりしようかな……」
そう言って、伴は部屋を出ようとする。
「あ、まだお風呂やってないよ!」
慌てて鷲尾が言う。
「あ、そう? じゃあ、やっとくよ」
伴はそう言って、その部屋を出て行こうとする。「あ、そうそう」伴は再び思い出して振り返る。皆が彼を見た。
「皆、明日から稽古だから、寝坊だけはしないようにね。後で、台本をスマホへ送るから確認しておいてほしい。じゃあ、おやすみ」
伴はそう言った後、その部屋を出て行った。
「おやすみ」と、皆が言う。ちょうど大門と箕輪がその部屋へ戻って来た。
その後も、伴以外の皆でお酒を飲みつつ、カラオケを楽しんだ。
*
二十三時を過ぎた頃、寝室でゆっくりしていた大門は、ふと箕輪のことが気になり電話を掛けた。
「もしもし?」
『もしもし? 亮くんどうしたの?』と、彼女が電話越しに訊く。
「ちょっと二人で会いたいなと思ってさ……。今、平気?」
『今お開きするところ。平気だよ!』
「まだカラオケ室?」
『そう』
「それじゃあ、今からそっちに行く」
大門はそう言って電話を切る。それから、彼はベッドから出て、その部屋を出た。一階へ降り、カラオケ室に着くと、すぐに扉を開けて入った。
「やあ!」と、大門は挨拶する。
「どうしたの? 急にウチに会いたいって?」と、箕輪が笑って訊く。
「いや、ちょっと眠れなくてさ……。環奈と少し話でもしたいなと思って」
「そう。ウチ、まだお風呂入ってないから少しだけね」
「うん」
それから、大門は箕輪と雑談をする。十分くらい話をしてから、箕輪はお風呂に入ると言ってソファから立ち上がる。
「じゃあ、おやすみ」と、箕輪が彼に言った。
「おやすみ」と、大門も彼女に言う。それから、彼女はそこを出て行った。
大門はスマホに目をやる。二十三時十五分。彼はまだ眠くなかった。タバコでも吸おうと思い、胸ポケットからタバコの箱とライターを取り出す。それから、一本タバコを取り、それに火を点けた。彼は煙を吐く。その後、彼はタバコの箱とライターをテーブルへ置いた。手近にあった灰皿を自分の前にやり、タバコの灰を落とす。しばらく、彼はタバコを吸いながらボーっとしていた。
少しして、大門のスマホが鳴った。彼はすぐに電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし、ゴメン。今、大丈夫?」と、相手は言う。電話の相手は大門の知っている人物である。
「大丈夫だけど?」
『少し話があるんだけど、今、どこにいる?』
「カラオケ室だよ」
『分かった。今からそっちに行く』
大門は電話を切った。少しして、電話の相手がそこへやって来た。
「お待たせ。夜遅くにゴメンね」
「別に。それで話って?」
大門はタバコの煙を吐きながら訊く。
「明日のことさ」
そう言って、その人物は大門に話をする。それから、二人は五分程話をした。
「うん、分かった」と、大門は頷く。
「話は終わり。それじゃあ、また明日」
そう言って、その人物はソファから立ち上がり、そこを出て行こうとする。
「おやすみ」と、大門はタバコを灰皿に押し付けながら言った。
「おやすみ」
そう言った後、その人物はいきなりカラオケ室の電気のスイッチを消した。
「おい! 何で消すんだよ!」
急に電気を消されて大門は驚く。
その後、その人物は手近にあったマイクを握ると、大門に近寄り、それから、そのマイクで彼の頭を殴った。
「うわーーっ!!」
マイクで殴られて、大門は雄たけびを上げる。それからすぐに彼は崩れるようにその場に倒れた。
その人物はにやりと笑う。それから、その血まみれのマイクを持ったままその部屋を後にした。




