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日本人の私が次期公爵夫人なんて務まるでしょうか〜恋も試練も簡単にはいかないようです〜【第二部後日談】  作者: 七宮叶歌
第5章 作戦

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作戦1

 次の日、一通の手紙がもたらされた。私宛てではなく、クラウ宛だ。私とヒルダ、セドリックが見守る中で、クラウは封蝋を剥がす。


「何が書いてあるの?」


 その手紙をヒルダが横から覗き見る。読み進めていくうちに、クラウとヒルダの眉間にはしわが寄っていった。


「囮……」


 クラウが呟いた言葉に、私までもが眉をひそめる。


「父さんからの意見で、囮作戦はどうだって。ミエラを誘拐しにまた犯人は現れるだろうって、そう読んでるらしい」


「誰が囮になるの?」


「リアナ」


 犯人を捕まえるためだからといって、関係のない人を危険に晒したくない。言葉にする前に、首を横に振っていた。


「私は反対」


「……いや、やりましょう」


 私の意見に異を唱えたのはセドリックだ。その瞳は小刻みに揺れているものの、口はきつく結ばれていた。

 間を置き、私はもう一度首を振ってみせる。

 

「無関係の人を巻き込みたくないんです」


「無関係じゃないでしょう?」


 セドリックは語気を強めた。意味が分からず、首を小さく傾げてしまう。


「使用人だって、事件当夜はこの屋敷にいました。彼らを使わずに、どうやって事件を解決するんです?」


 そう言われると、何も言い返せなくなる。見慣れてきたリアナの顔が歪むのは絶対に避けたいのに。睨んでしまいそうになる自分を必死に抑えた。


「クローディオとヒルダは? 反対意見はありますか?」


 セドリックはクラウとヒルダを交互に見遣る。


「私は反対しないよ」


「俺も賛成」


 どうして誰も反対してくれないのだろう。これではリアナが道具扱いされている気がしてならないのだ。今度こそ、不満が爆発してしまった。


「私は嫌なの! なんでそんなにリアナを使い捨てできるの!?」


「使い捨てじゃないよ」


 セドリックではなく、クラウが柔らかく言う。あまりにも優しく微笑むので、浮かんだ言葉は消えてしまった。


「リアナは俺たちの身内だ。家族を助けたいのはみんな同じ。今回は、ミエラを守る役目がリアナになっただけだよ。……本当は俺がやりたいところだけどね」


「でも……」


 今ここで引き下がれば、リアナの犠牲は決定される。それなのに、言葉が続かない。左手でナイトドレスを握り締める。


「俺たち、聞いたんだ。リアナから『何かあれば、私を使ってください。絶対に犯人を捕まえたいんです』って。アリアだって、こんな状態のミエラを放っておかないじゃん? それと同じだよ」


 魔導師だった頃に使い魔として働いてくれたアリア――彼女が敵を睨みつけた表情と、リアナが目を吊り上げた表情が重なる。私はリアナを信じていいのだろうか。助けて欲しいと願ってもいいのだろうか。


「……分かった」


 本当は嫌なのに、そう小さく呟くことしかできなかった。

 こうして囮役はリアナに決定され、本人にも事情が説明された。闘志を燃やすリアナが痛々しくて、『ごめんね』と何度口に出しそうになったことか。淡々と指示をするクラウに、リアナは最終的に拳を作った。

 そして、その場に同席した人物がもう一人いたのだ。茶髪で紺の瞳のその男性は、クラウの執事らしい。二十代ほどと若いのに動作は機敏で、肝が据わっているように見えた。


「ライアン、今からミエラはリアナだ。同時に、リアナはミエラ。ミエラには使用人に対する口調で、リアナには敬語で話しかけること。いい?」


「なんだかもう、ごちゃごちゃなんですが」


 ライアンと呼ばれた執事は、小さく唸り声を上げる。それも気に留めず、クラウは私とリアナに視線を向けた。


「二人とも、今から名前も役割も交換だ。着てるものも交換。ミエラは俺のことをクローディオ様って呼ぶこと。できる?」


「……うん」


 いきなりクラウに対して他人行儀にならなくてはいけないのか。寂しさや戸惑いを感じつつも、全ては私のためだと自分に言い聞かせる。ボロを出さずに作戦を終えられるだろうか。


「リアナ。君は話し掛けられた時だけ反応してくれればそれでいい。敬語でも、そうじゃなくても構わないよ」


「分かりました」


 リアナと二人で頷いてみせると、クラウの顔から笑みが消えた。


「作戦の失敗は許さない。三人とも、全力で犯人に挑んで」


「はい!」


 クラウの作戦開始の合図に、リアナとライアンが声を張った。

 男性陣が退出した後で、リアナのメイド服と、私が着る予定だったドレスを交換する。着替えながら、リアナは弱々しい声を零す。


「こんなことになってしまって、本当に申し訳ございません。なんて申し上げればいいのか……」


「リアナのせいじゃないよ。今回の作戦だって、本当は私はやりたくないの。傷つかなくていい人が危険な目に遭うなんて、私は――」


「傷つかなくていいのはミエラ嬢だって同じじゃありませんか! 私は、今回の囮を引き受けられて光栄なんです」


「えっ?」


 リアナがぎこちなく微笑むので、素っ頓狂な声を上げてしまった。どうして光栄なんて言えるのかが分からない。私が首を傾げると、リアナは目を細めた。


「私は初めてミエラ嬢に頼られたみたいで、嬉しかったんです。兄弟に頼られていたのか、私には分かりませんでしたから」


 か細い声に、胸が押しつぶされそうになる。私は本当の意味でリアナの気持ちを考えてあげられていなかった。

 ベッドに広げられたメイド服に手を伸ばし、袖を通す。右腕を動かした時に傷口が悲鳴を上げたのは、リアナにはお見通しだっただろう。彼女の瞳が僅かに潤んだ。

 部屋の外は誰もいないように静まり返っている。そのどこかに犯人は潜んでいるのだろうか。胸がざわついて仕方がない。

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