第40話 パーソナルなお悩み(後)
理想郷って大変だわと常々おもう。
白い空間。
そこには、杖を持った「いかにも」な風貌の老人が立っていた。
「……あー、私がこの世界の神です。来るの遅いよ」
「えっ、神様?」
「定期的に来いよ。お前、他人の分野(土木や農業)にはサクサク指示出すくせに、
自分の専門分野になると悲劇の主人公みたいに悩みやがって。アホか」
開口一番、煽られた。
「……もう、俺が決める。この世界のコンピュータの祖は、**『X68000』**だ」
「えっ!?」
「これでゲーム作ってただろ? アセンブラで」
神様が指を鳴らすと、見覚えのある黒いタワー型の筐体が現れた。
側面には、俺が高校時代に貼ったステッカーがそのまま残っている。俺の実機だ。
「それに、これが必要だろ。黒本、白本、懐かしいだろ?」
渡されたのは、伝説の参考書たちだった。
・内部解析のバイブル『Inside X68000』(黒本)
・外部インターフェイス解説『Outside X68000』(白本)
・アセンブラの教科書『プログラムハンドブック』(青本)
さらに、開発環境のフロッピーディスクや内部資料の束まで。
「……個人的にな、最近のCPUの内部キャッシュとかパイプライン処理が気に食わんのだ。
アセンブラが書きづらくて仕方ない」
「はあ……」
「言語なんて、最高でもC++ぐらいでいいんだよ。
メモリ管理はGCに頼らず自分でやれ。甘えるな」
急に原理主義的なマニアックなことを言い始めた。
完全に古参プログラマーの愚痴だ。
「……でも神様、それだと処理速度に限界が……」
「馬鹿野郎。実はな、処理速度なんて幾らでも上げられるんだ」
神様がニヤリと笑う。
「『龍のウロコ』を極限まで薄くスライスして、古いウロコと交互に重ねてみろ。超電子が生まれる」
「……はあ」
「さらにウロコを重ねると、演算速度が跳ね上がる」
「倍ですか?」
「**『べき乗』**だ。2枚で2乗、10枚重ねれば……分かるな?
向こうの世界のスパコンなんてチョロイもんだぞ」
とんでもないチート理論だ。
物理法則を無視した、指数関数的な加速。
「あ、そこら辺の詳しい物理説明はゼネストにするから、すぐにここへ来いと伝えてくれ」
「丸投げですか」
「餅は餅屋だ。……いいか、そもそもお前はチートみたいな存在なんだ。
なんで自分で全部頑張っちゃうかなぁ」
神様が呆れたように肩をすくめる。
「そういう不器用なところ、日本人なんだろうなぁ。全てを頼られても、
それはそれで『はらたいらさんに全部』ってことで……じゃあな」
その去り際の笑顔に、俺はハッとした。
高校時代の、電子ゲーム部の顧問の先生にそっくりだったのだ。
◇
ガバッ!
俺は石像に抱きつきながら目覚めた。
足が重い。ずっと正座していたみたいだ。
「……やるしかない」
俺は早速、ショウタウンに【転移】した。
互助会の建物に急遽3階を増築し、そこに黒曜石の像を鎮座させた。
そして、ゼネスト博士を呼び出し、事情を説明して像の前に行かせた。
その後は、大騒動だった。
1.神が確実に実在し、定期的に技術指導(ダメ出し)をしてくれることが判明。
2.元日本人(ハシガミ、ゴボテン、勇者たち)や主要人物(ファミマ、魔王など)が
一通り挨拶を済ませ、感無量で号泣。
3.ゼネストとゴボテンが「龍のウロコ積層プロセッサ」を開発。
そして翌年。
世界初の国産コンピュータ**『X68000互換機(改)』**が発売された。
見た目はレトロだが、中身はスーパーコンピュータ並みの化け物だ。
それぞれの研究機関や大学に配備され、その年のうちに世界中のネットワークが繋がった。
電話回線なんて飛び越えて、最初から「光ファイバー」だ。
「……発展のスピード違反じゃないかーい!!」
ショウの絶叫に、ファミマだけが「あはは」と笑ってくれた。
こうして、世界は情報化社会へ突入した。
やっと肩の荷が下りた。
次の章から、いろいろとスタートできるような地固めが終わった感がある。
こうなると、ローファンタジーみたいになるのかな。
ようやくみんながネットに触れて、最低限の情報が得られれば
幸せに、、、なってくれればいいなぁ。
その上で詐欺とかあるけど。




