68
「シャルロット、抱きしめてもいいか?」
ウッと言葉に詰まったと思ったら、そっとそっぽを向く。
「そ、そんなことぐらい、許可はいらないわ。ど、どうぞ」
手を伸ばし、彼女を抱き寄せる。
温かくてやわらかくて、優しい香りがする。
心臓の鼓動が聞こえるが、自分のか、シャルロットなのか。区別がつかない。
ギュッと抱きしめると、シャルロットが小さく息をのんだのがわかった。
ああ、俺は彼女のために、人生を捧げようと思えた。
「――口づけをしてもいいか?」
そっと問いかけると、腕の中のシャルロットが身を固くしたのを感じた。
早急すぎだのかもしれない。
シャルロットが腕の中でおずおずと顔を上げた。
「そ、そんなことも、いちいち聞かないで」
ムッと頬を膨らませてはいるが、きっと照れ隠しだ。その証拠に耳まで赤くなっている。
そんな姿もたまらなくかわいくて、思わず笑顔がこぼれる。
ゆっくりとシャルロットの頬に手を添える。潤んだ目で見上げる姿が愛しくて、気づけば唇を重ねていた。
温もりを求め、体を包むとお互いの熱が伝わり、全身が痺れてくる。
もっと、もっと深く触れたい――。
無意識のうちに唇の隙間から、シャルロットを求めて侵入していた。
シャルロットをそれにこたえるかのように、受け止めてくれた。
全身がとろけるような刺激に息も絶え絶えになる。
薄目を開けて確認した瞬間、ハッと目を見開く
「シ、シャルロット!?」
唇をパッと離し、彼女の両肩を抱き、ガクガクと揺さぶる。
シャルロットは真っ赤な顔で目の焦点がおかしい。
「い、息ができなくて……!」
その様子を見て、我にかえる。やわらかな唇の誘惑に耐えられず、思わず貪ってしまった自分を恥じた。
「す、すまない」
彼女の肩をそっと抱き寄せ、胸に寄りかからせる。
シャルロットが腕の中で荒い呼吸を整えている。大人しく落ち着くのを待った。
早急すぎたか。
内心オロオロと動揺するが、必死にそれを隠す。
「ふふっ……」
腕の中の彼女は小さく笑った。
「私と一緒のベッドも使いたくないぐらい、嫌われていると思っていたわ。初夜の時と、なんにも変わっていないんだなって」
「そ、それは……」
あの日の自分を今でも殴ってやりたい。
「だからね、さっきも断られた時は、正直ショックだったの。私と同じベッドで眠るのも嫌なのかと思って」
断じてそんなことはない。
だが、話あうことが第一の目的だったのに、それもしないまま隣で横になれば、俺の自制心が保てる自信がない。
理性が崩壊する。
現に今だって腕の中のシャルロットに触れたくてたまらない。
クッと唇を噛んで耐える。
「だから、イザークの本心を聞いて嬉しかった、ありがとう」
腕の中で微笑むシャルロットにたまらなく愛しい感情が芽生える。
「俺の方こそ、意地を張って君を傷つけてしまった、どうしようもない俺を許してくれて、感謝しても足りないぐらいだ」
過去を思い返すと自己嫌悪に陥る。
「だから、どうか、これから挽回させてくれないか。ずっと側にいてくれ」
気持ちを伝える前は勇気が必要だったが、一度言葉にしてしまえば、すらすらと口にできた。
シャルロットは胸に体を預けながら、ふわりと微笑む。
その笑顔を見れただけで十分だった。願わくば、この笑顔をずっと見ていたいと思ったが、それは俺のわがままだ。
しばらくこの温もりを味わいたいと思ったが、感情を押し殺す。
シャルロットを抱きかかえ、立ち上がる。
「えっ……」
驚いているシャルロットの顔を見つめる。
「もう遅い。今日は疲れただろう。休むといい」
シャルロットは目をパチクリとさせ、かわいらしく微笑む。
「じゃあ、イザークも一緒にベッドで眠りましょう」
止めてくれ。どんな殺し文句だ。
無言でベッドに近づき、そっとシャルロットを下ろす。
ベッドの端に腰をかけ、彼女の頬をそっとなでた。
「おやすみ」
まだなにか言いだけだった彼女だが、次第に瞼を閉じた。
やはり、出産という一大事に付き添い、疲れたのだろう。
やがて静かな寝息が部屋に響く。
こんなにも満ち足りた気分になったことなど、あっただろうか。
彼女の寝顔を見ていると、幸福感で胸がいっぱいになる。
やがてベッドから立ち上がり、ソファに移動する。
だが、目が冴え切ってしまい、今夜は眠れそうになかった。




