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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第六章 再会

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「南部は素晴らしいところだな」


 なにもかもが北部とは違う。気候も物流も人々の気質も。


 その時、ベッドから身を起こす気配を感じた。

 シャルロットが起き上がり、ガウンを羽織ると側に近づいてきた。


 そしてそっとソファの隣に腰を下ろした。


「ここに来るまで、どこへ立ち寄ってきたの?」


 話に興味を示してくれたので、そこからも続けた。街へ寄ったこと、人々のにぎわいに驚いたことなどなど。


 シャルロットは自分の産まれた地域のことを聞きながら、どこか誇らしげだった。


「今さらなんだが……」


 黙って相づちを打つシャルロットを前に、ごくりと喉を鳴らした。


「結婚式の日、冷たくしてしまって申し訳なかった」


 あの日のことはずっと後悔していた。


 知り合いもいない北部に王命だからとドリーと二人だけで来てくれて。どれほどの覚悟だったのだろうか。それなのに夜は素っ気ない態度を取ったばかりか、メイド間でのいざこざにもすぐに対処できず、不快な思いをさせた。


 後悔ばかりで、シャルロットはもう北部など、うんざりしているかもしれない。


 だが、それでも俺は――。


「できることなら、やり直したいと思っている。あんたはいつだって北部の力になってくれたのに、幼稚な考えしかできなかった俺を許して欲しい」


 話しながら声が震えそうになるも、必死にこらえる。


「今後、人生をかけて償っていきたいと思っているんだ」

 

 シャルロットは静かに俺を見つめていた。やがて彼女は口を開く。


「最初は嫌われていると思っていたわ。それにあなたが自由になりたいと言ったから、鉱山のことも早く決着をつけたいと思っていたの」

「それは――」

「私があなたにできることは、鉱山を発展させ、この結婚から解放することだった」


 彼女の気持ちはもう固まってしまったのだろうか。


「でもね、不思議と北部は嫌じゃないの。自然が広がる大地に、人々は最初とっつきにくいと思ったけれど、一度心を許したら、内側には入れてもらえると知ったわ」


 それにね、とシャルロットは続けた。


「初めて見た雪は感動したし、これから積もると聞いてワクワクもした」


 北部の方から見て、雪なんてうんざりだと、叱られそうだけどね、とシャルロットは付け足した。


 彼女は真っすぐに俺の目を見つめる。


「私の居場所は北部よ。南部には一時的に姉の出産の手伝いに戻って来ただけ。本当はイザークが戻って来て、直接話してから来たかったのだけど――」


 申し訳なさそうに口をつぐむが、出産はいつ始まるかわからない。俺を待っていたのなら、間に合わなかったかもしれない。


「いや、いいんだ。ただ俺は――」


 グッと唇を噛みしめ、顔を上げる。

 隣に座るシャルロットに、熱い眼差しを送る。


「君のことが好きだ。だからこそ、俺と一緒に北部に戻ってくれないか?」


 シャルロットは瞬きを二回、繰り返す。

 少し首を傾げ、美しい顔にやわらかな微笑みを浮かべる。


「ええ。もちろんよ。私の居場所は北部、そしてあなたの側だわ」


 シャルロットの発言に胸の奥から感動が起きる。心臓の鼓動が速くなり、喜びでいっぱいになる。


「私も、本当はね……」


 シャルロットはなにかを思い出したのか、フフフと微笑んだ。


「あなたに会いたいと思っていたの」


 シャルロットの発言に頬が高揚するのが、自分でもわかった。


「だから迎えに来てくれてありがとう。嬉しかった」


 シャルロットは少しはにかみ、肩を揺らした。

 フワッと香るのは、石鹸なのだろうか。


「触れてもいいだろうか」


 思い切って申し出ると、シャルロットは目をパチパチと瞬かせる。だがすぐに、ふんわりと微笑んだ。


「ええ、どうぞ」


 差し出された手をつかんだことまで覚えている。だが、次の瞬間には、無意識のうちに胸の中に閉じ込めていた。


「……っ! あんたが南部に戻ったことを想像しただけで苦しかったんだ」


 思いを吐き出すと、彼女の手がそっと背中をさする。


「大丈夫よ、私はここにいるわ」


 優しく、俺よりもずっと小さな手だが、これ以上に心強いものはない。


「部屋のクローゼットには北部で用意したドレスばかりが残されていた。だからもう、北部のことなど、思い出したくもないから、置いていったのだと――」

「それは違うわ。気候が違うから、そのまま置いていっただけよ」


 こうやってシャルロットの口から聞くと安堵する。俺は、なにをそんなに悲観していたのだろう。


 不意にシャルロットの手を取る。

 最初、彼女はびっくりしたように目を見開いた。


「イザーク……?」


 どこか戸惑いを見せるシャルロットを見つめる。


「イザーク・カロン、ここにあなたへ一生の愛を捧げると誓います」


 つかんだ手の甲にそっと口づけを落とすと、ピクリと震えたのを感じた。


 結婚式での誓いを今ここで、改めて仕切り直そう。

 俺は今ここで、シャルロットへの愛を誓う。


 手の甲から顔を上げると、シャルロットと目が合う。


 真っ赤な顔をしている彼女にフッと微笑んだ。

 俺が笑ってしまうと、シャルロットはさらに赤くなった。


「照れている姿も、かわいい」


 そっと手を伸ばし、頬に触れると熱を持っているかのように熱かった。


「……っ、イザークはそんな甘い台詞を吐く人だったかしら!?」


 シャルロットの動揺を感じ、思わず笑ってしまう。


「今までとは違う。素直に伝えないと後悔すると思ったんだ。これからは何度でも口にする」


 真っ赤になったシャルロットの頬がピクピクと震える。


 そんなところも、たまらなくかわいいと感じる。

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