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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第六章 再会

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「あっ、ああ。先に湯を浴びさせてもらった」

「いえ、いいのよ。私もさっき浴びたから」


 シャルロットはふわりと微笑んだ。


 それだけで甘い香りが部屋中に充満するようで、全身が熱くなる。

 身に着けている薄手のネグリジェが視界に入ると、心臓の鼓動が早くなる。


「イザーク?」


 パッと顔を背けると、シャルロットは不思議そうな声を出す。


「ごめんなさいね、私の部屋で。本当は客室を用意するってお父さまがおっしゃったのだけど、イザークが話があるようだったから、一緒がいいと思ったの」


 無邪気に微笑むが、シャルロットはその意味を理解しているのか。


「悪かったかしら?」


 いいわけないだろう……!


 少なくとも今夜は眠れる気がしない。


「いや、そんなことはない」


 本心とは違うが、強がって気丈に振る舞う。


「私のベッド、広いから大丈夫よ」


 そこは大丈夫じゃないだろう……!


 シャルロットはニコリと微笑み、ベッドから立ち上がる。


 そして俺に近づいてきた。


「そういえば、話があるって言っていたけど……」


 シャルロットが近づいてきたことで、より一層強く甘い香りを感じる。

 俺の顔をのぞき込み、首を傾げる。


 どうやって話を切り出そうか、グッと唇を噛みしめる。

 しばらく無言で見つめ合うと、シャルロットは小さく微笑んだ。


「どうしたの? そんなに言いにくいこと? 唇、切れちゃうわよ」


 そっと手が伸ばされ、頬に優しく触れた。


 その瞬間、カッと全身が熱くなり、思わずシャルロットの手をつかんでしまった。


「い、いいんだ。話はあとからする」

「……そう」


 しまった、これでは彼女を拒絶しているみたいじゃないか。

 眉根を下げたシャルロットの表情には少し落胆の色が浮かんだ。


「じゃあ、寝ましょうか。疲れたでしょう」

「あっ、ああ」


 シャルロットがベッドへと向かう。

 心臓がドクドクと音を出し、彼女に気づかれているかもしれないと不安になる。

 シャルロットが足を止め、クルリと振り返る。


「どうしたの? 眠らないの」


 そう問われて、言葉に詰まる。


「――同じベッドを使うわけにはいかないだろう」


 このままでは手を出してしまう。自制が効かなくなるだろう。シャルロットの隣で眠るなんて――。


 まだ話をしていないのに、それは不誠実だと感じる。


「俺はあっちで十分だ」


 ベッドの横にある、ソファを指さした。


「――そう」


 シャルロットはポツンとつぶやくと、クローゼットから予備の毛布を取り出して俺に手渡した。


 そのままソファへ行き、横になる。


 シャルロットはベッドへ行くと、脇にあった灯りを消した。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 部屋がほのかな灯りと静寂を包む。

 俺は当然眠れるわけもなく、天井を見つめる。


 情けない――。


 自己嫌悪に陥り、ため息をつく。


 シャルロットが南部に戻ったと聞き、居ても立っても居られなくなり、勢いだけでここまで来た。会えたら正直に気持ちを伝えようと、そして北部に戻って欲しいと懇願でもするつもりだった。


 だが、実際に彼女を目の前にしても、言いたいことが言えなくなってしまう。


 俺は恐れているのだ。彼女の口からはっきり北部を……いや、俺を拒絶する言葉を聞くのを。


 だからといって、今の有様はなんだ、イザーク・カロン。


 俺は――南部まで、ソファで眠るためにきたのではない。


 自分の不甲斐なさは、じゅうぶんに自覚している。


 だが俺は、シャルロットと話をしたくて来たんだ。


 覚悟を決め、ベッドへ視線を向ける。

 もう、彼女は眠ったのだろうか。


 こんなに意識して眠れない夜は、俺だけなのだろうか。


「シャルロット」


 小さく彼女の名前を呼んでみる。すると――。


「……どうしたの? 眠れない?」


 返事があったことに、安堵した。


「ああ、眠れそうもない」


 同じ部屋で、シャルロットの存在を感じながらなんて、眠れるものか。


「じゃあ、話でもする?」


 シャルロットが小さく笑う声がした。

 ソファから身を起こすと、彼女も起き上がろうとしたのがわかった。


「ああ、あんたはそのまま横になっててくれ」


 出産に立ち会ったのだから、疲れているだろう。


「あなたこそ、疲れていないの? 北部から来て」

「いや、俺は別に」


 無我夢中で馬を走らせ、部下に無理をさせた自覚はある。だが、疲れなどシャルロットの顔を見た途端、吹き飛んでしまった。


 あんなに意気込んできたのに、彼女を目の前にすると言いたいことの半分を口に出せない自分が、情けなかった。

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