表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第五章 南部へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/73

57

 一部の貴族しか手にすることが出来なかった魔力結晶が、庶民にも行きわたるようになったこと。夜のランプの代わりとして部屋を明るく灯したり、魔力結晶の力で瞬時にお湯を沸かしたりと、人々の生活に貢献しているそうだ。


「北部も結晶を売った資金で潤うだろうし、お互い良いこと尽くしじゃないか! 同じインペリア国の民として、嬉しいことばかりだな」


 屈託なく笑う男を見て、これも南部の人柄なのかと思えた。


 陽気で楽天家。

 苦労しているのは自分たちだけだと、少なからず劣等感を抱いていた自分を恥ずかしく思う。


 ひとしきり話すと男は満足したのか、この場を去った。


「イザーク様、どういたします? セバスティア侯爵家をすぐ訪ねますか?」

「――いや、明日にする」


 今から訪ねるのでは、夕方になってしまう。


 それなら今日はこの街で過ごし、明日の午前に訪ねると告げた。

 そしてロゼールに宿の手配を依頼すると、すぐさま戻ってきた。


「イザーク様、黒猫亭という宿を予約しました」

「そうか」


 そして胸元に手を入れ、小袋を取り、ロゼールに渡す。


「これで各自、好きに過ごしてくれ。夜は宿に集合だ」


 ここまで着いて来た騎士たちに、褒美として自由を与える。


 南部に足を踏み入れたことがなく、この都市の華やかさに面食らっているだろうが、すぐ慣れるはずだ。

 騎士たちに軍資金を与えると、皆の顔が喜びにあふれた。


「イザーク様は、どうするのです?」

「俺はしばらく、この都市を歩いてみる」


 ロゼールは着いてくると言ったが、首を横に振る。


「ですが、護衛が必要じゃないですか?」

「魔物もいないのに?」


 自分で言って苦笑する。そう、ここは南部。魔物の襲撃を恐れる必要はない。


 それに一人になって考えたかった。


「とにかく、午後は自由に過ごしてくれ。ロゼール、それでも俺についてくると言うのなら、お前だけ軍資金は没収だ」

「う、それは嫌です」


 結局、騎士たちと別れ、別行動をとることになった。


 街を一人で歩き、周囲を見て回る。

 物にあふれ、人々からも心の余裕が感じられる。


 少し前の北部の街の様子とは大違いだ。


 北部の街はシャルロットが炊き出しを始めてから、活気を取り戻してきた。

 もっと早く俺が対処するべきだったのだと、思わざるを得ない。


 外から迫りくる魔物退治だけに目を向けるだけでなく、内に住む住民にも心を配るべきだった。


 セバスティア侯爵の領地ではそれが出来ているのだな。


 セバスティア侯爵が日頃から領民に気を配っているのだろう。だからこそ、その姿を見て育ったシャルロットにも、その考えが根付いている。


 ――まったく、敵わないな、シャルロットには。


 俺は彼女を連れ戻しに来たが、ふと不安に駆られる。


 もう北部には戻りたくないと言われたら?


 その時、俺はどうするんだ?


 考えると足がぴたりと止まる。街の喧騒が耳に入らなくなる。


 そう言われるのも無理はない。


 なんでも揃っている上に、気候もいい。

 それに彼女が生まれ育った南部。戻ってきたいと思う心は誰にも止められないだろう。


 だからこそ、北部を出たのだろう。――俺になにも告げずに。


 最後に顔を見て挨拶を交わすことすら、嫌だったのか? 引き止められるのが目に見えていたから、強行突破に及んだのか?


 もう、俺に用はないと――。


 胸が苦しくなり、華やかな街と反して、心は沈むばかり。


 こんな弱気なのは自分らしくない。俺は疲れているんだ。きっとそうだ。


 明日シャルロットに会えば、答えは出るだろう。


 唇をギリリと噛みしめると、血の味がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ