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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第五章 南部へ

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「イザーク様、ここら辺で休みませんか」


 休みなく馬を走らせているとロゼールから声がかかる。


「そろそろ野宿の準備をしませんと、暗くなります。それに馬にも疲労の色が見えます」


 簡単な休憩を取るのみで、走り続けた。

 ふと気づけば騎士たちの顔にも疲れを感じた。


「そうだな。ここら辺で休み、早朝出発するとしよう」


 提案すると周囲に安堵の色が広がった。


 ロゼールを連れてきて正解だった。普段はふざけた発言の多い奴だが、こんな時、周囲の空気を読むことにたけている。


 焦りからか、周囲が見えなくなっている。

 ロゼールが止めに入らなければ、夜通し走り通したことだろう。


 南部と北部を繋ぐデルタの森の入り口で、野宿をすることとなった。

 簡単なテントを張り、集めた木々を燃やし、食事の準備をする。

 皆の手際が良いのは、こういったことに慣れているからだ。


 食料として持参した肉を火であぶり、倒した木を椅子代わりにした。

 葡萄酒を片手に皆で火を囲んだ。


 やがて酒が回り、皆も饒舌になっていく。


「しかし、南部はどんなところなんだろうか?」


 連れてきた騎士の一人が、ぽつりと漏らす。


「俺も初めて行くんだが、食べ物も豊富だって聞いた。甘いお菓子を買ってきてくれって、うちの家族から頼まれた」


 ここにいる皆が北部出身で、南部へ足を踏み入れたことがない。

 やはり、皆が南部と聞き、興味がわくのだろう。


「お前たち、遊びに行くんじゃないんだからな。シャルロット様にお会いし、一緒に連れて帰ってくるのが目標なんだからな」


 ロゼールの一言で、周囲は静まりかえった。


「……そうだよな。シャルロット様に無事に会えるといいのだが」


 一人の騎士がポツリとつぶやく。


「ああ、北部に遣わされた女神だもんな。北部の発展には欠かせない方だ」


 すると皆が相づちを打つ。


「そうだそうだ、シャルロット様がいらしてから屋敷は明るくて……。それに俺たちにも気さくに声をかけてくださる、優しいお方だ」

「北部に必要な方だ。もし、北部が嫌だなんて言ってたら――」

「おい、口を慎め!」

「あ……」


 ロゼールの一言で再び、静まりかえる。


「す、すみません、イザーク様。口が滑ってしまって……」


 騎士の謝罪に小さく首を振る。


「いい。お前たちがそう思うのも当然だ」


 ―――なにより俺が一番強く思っている。


 シャルロットは北部に――いや、俺に必要なんだと。


「俺は先に寝る。楽しくやっているといい」


 スッと立ち上がり、テントへと向かうことにした。


 これ以上、皆と会話する気にはならなかった。


 空を見上げれば、満天の星空が見える。


 湯に浸かり、二人で見上げた空を思い出す。


 ああ、シャルロット。今はもう、南部にいるのか。


 共に空を見上げることはもう、できないのだろうか。


 ***


 翌日、日の出と共に馬を走らせる。

 そうして三日間馬を走らせ、南部の中心と言われる都市に到着した。


「ここが南部……」


 温かい日差し、穏やかな気候。市場に並ぶ豊富な物資や食料。


 人々でごった返し、祭りの最中なのか、どこからか音楽が聞こえてくる。


 発展している都市に立ち尽くし、空を見上げた。


 ここが、シャルロットが生まれ育った南部――。


 その時、一人の男と肩がぶつかる。


「おっと、すまない」

「いや、こちらこそ、悪かった」


 男性は自分と顔を合わせると、笑顔を見せた。


「あんた、どこから来たんだい? そんなに厚着をして!」


 男に言われて初めて気づいた。

 自分を含め、連れてきた騎士たちが場違いな格好をしていることに。


「ここじゃあ、そのコートは暑かろう」


 確かに周囲を見回せば、明らかに浮いた格好をしていた。ロゼールに目配せをすると、皆がコートを脱いだ。


「俺たちは北部から来たんだ」

「北部だって!?」


 男は驚いたのか顔を前に突きだした。


「そりゃあ、またえらい遠くから来たんだな!」

「ああ」


 人懐っこいのは、この男だけじゃなく、南部の特徴なのだろうか。


「いいところだろう、この南部も。あったかくて、港も近く、貿易も盛んだ。なんでも豊富に揃っているぜ!」

「……そうだな」


 一年の大半、特に秋から冬にかけてはどんよりとした曇り空が続く北部とではえらい違いだ。


「今日は祭りか、なにかか?」

「ああ、月に一度の祭りの日だな。いつもより、ちょっとお安くなっているぜ。兄ちゃんたちも、いい時に来たな」


 男は豪快に声を張り上げて笑う。


「ここからセバスティア侯爵家へは、どのぐらいかかるのだろうか」

「あんたたち、もしかして北部からの遣いかい?」

「……知っているのか?」

「知っているもなにも北部なら、シャルロット様の嫁ぎ先じゃないか。北部のカロン侯爵家に嫁がれたって、噂になっていたし」


 男は嬉々として話し始めた。


「いや~、シャルロット様も大したもんだよな」


 男は目の前にいる俺がまさにシャルロットと結婚した相手とは気づいていない。


「北部に嫁いだと思ったら、結晶の流通を始めたんだろう? 気難しく閉鎖的だと噂されるカロン侯爵家をどうやって説き伏せたんだろうか」


 やはり人々はそのようなイメージを北部に持つのだろう。


「だが、そのおかげで南部でも魔力結晶が出回るようになって、人々の暮らしに、ぐっと身近なものになったんだ」


 そこからも男は饒舌に続けた。

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