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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第五章 南部へ

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 だが、ガルドが止められるはずもない。


 シャルロットはおっとりとしているように感じるが、芯は強い。

 その彼女が決めたのなら、たとえ屋敷の使用人総出でも、引き止めることは不可能だっただろう。


 だがなぜ――。


 扉からは心配そうにこちらをのぞき込むロゼールの姿もあった。


「イザーク様……」


 声をかけられるが、顔をフッと逸らす。


「……一人にしてくれ」


 その一言で、ガルドとロゼールは静かに部屋を去った。


 そのまま俺は主のいなくなった部屋でたたずんでいた。


 なぜ、シャルロットは黙って帰ってしまったのだろうか。


 俺のなにがいけなかったのだろう。


 魔物討伐で屋敷を留守にしすぎたのがいけなかったのか?


 いや、前から留守にすることは多々あった。彼女も慣れてきたとばかり思っていた。


 でもそれは自分の勘違いだったら?


 俺から逃げる絶好の機会だと思ったのだろうか。


 考え込むと足に力が入らなくなり、ソファに腰を下ろした。


 ふと、ロルサの花を手にしていたことに気づく。

 動揺のあまり、持ってきてしまったらしい。


 渡したい相手は、もうここにはいないというのに――。


 その事実が自分をまた苦しめる。手にした花束を無造作に机に叩きつけた。

 ハラハラと落ちる花びらを見て、なんともいえない気持ちになる。


「クソッ……」


 口汚く罵ってみるが、彼女にではない。自分自身に対してだ。


 急に帰りたいと思うほど、追い込んでしまったのかもしれない。なにかを悩んでいたのなら、気づいてやれずに申し訳ない気持ちになる。


 そんな心中を察することもできず、浮かれていた自分が恥ずかしい。

 それならば、俺に対する不満などを言ってくれないだろうか。


 なにが――なにが気に入らなかったんだ、彼女は。


 俺のすべてだと言われてしまうのも怖いが、弁解の余地も残ってはいないのだろうか。


 書き置きの一枚すら残っていないことが、まるで彼女の俺への感情そのもののように思えた。


 俺のことを見捨て、見切りをつけたのだろうか。


 このまま南部に帰り、離縁届が送られてくるのではないか――。


 悶々とした気持ちを抱えたまま、どれぐらい考え込んでいただろう。


 扉がノックされる音でハッと気づく。


 返事をすると、恐る恐る顔を出したのはロゼールだった。


「大丈夫ですか? 暗い部屋で暖炉もつけずに……」


 気づけば外はもう暗くなっていた。そんなことに気づかないぐらい、時間が経っていた。


「ああ」


 すっと立ち上がると、ロゼールに顔を向けた。


「明日、ここを出発し、南部に向かう」


 ロゼールは目を見開き、口を大きく開けた。


「――やはり、直接会って話を聞かねば、納得できない」


 ここで悩むぐらいなら、直接話がしたい。

 握った拳にギュッと力を込めると、ロゼールは身を乗り出した。


「だったら、俺もお供します。道中、なにかあると危険なので」

「――ああ、頼んだ」


 ロゼールは護衛のための人を集めると言った。


「魔物の討伐の件もあるから、手薄にもできまい。そうだな、三名ほど選んでくれ」

「承知いたしました」


 ロゼールは返答すると、すぐさま準備のために姿を消した。


 彼女の顔を見て、事情を確認しよう。

 でなければ納得できない。


 それがたとえ辛い結果となり、到底受け入れることができなくとも、ここで待ち続けるよりましだ。

 帰ってくるかもわからない彼女を待ち続けることは、拷問に思えた。


 南部に向かい、彼女と話をする。


 固い決意と共に唇をギュッと噛みしめた。


 ***


「お気をつけてください」

「ああ、ガルド。留守は頼む」

「お任せください」


 深々と頭を下げるガルドと使用人たちに見送られ、屋敷をあとにした。


 ここから南部へは三日ほどかかる。

 シャルロットは馬車に乗り、帰ったらしい。


 だが俺たちは馬と共に出発した。その方が自由に身動きが取れるだろうと見越してだ。


「――出発するぞ」

「はっ!」


 ロゼールを含め、四人の若い騎士が同行することとなり、俺を含め五人となる。


 無事に彼女に会えることを祈りつつ、馬を走らせた。

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