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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第五章 南部へ

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 帰りの道中、道端に赤い花が咲いているのに目を奪われた。

 鮮やかさに思わず足を止めた。


「いいですね、ロルサの花ですよ。シャルロット様、喜びますよ」

「……」

「それにロルサの花言葉は知ってます? あなたに夢中です、って意味ですよ。まさに今のイザーク様にぴったりの――ぐはっ」


 横から茶々を入れるロゼールを肘で小突く。


 指先でそっと茎を掴み取る瞬間、彼女の顔が脳裏に浮かぶ。


 こんな道端に咲く花で喜んでくれるだろうか?

 結晶の発掘が順調なので、宝石を一つ購入して贈った。だが、予想に反して彼女は困ったような笑みを浮かべた


 輝くような宝石、最新のドレス。

 どれを勧めても彼女は微笑しつつも首を横に振るのみだった。


 特に必要じゃないから、と言った。

 その反応がまた、俺を焦らせるんだ。


 南部の恵まれた環境で育ったシャルロットからみて、北部はなにもない退屈な場所だと思っているんじゃないのか。


 装飾品も流行のドレスも北部では物足りなく感じていて、だからこそ拒むのかとも――。


 自分でも南部に対する劣等感を持っていると思う。

 だが、それと同時に北部でも素晴らしい場所があるということを、知って欲しい。


 そしてシャルロットの笑顔が見たいと、日々思ってる。


 手にしたロルサの花言葉は「あなたに夢中」


 内心、まさに今の自分にぴったりだと思った。こんなこと、口に出来やしないけれど――。


 城門が開き、はやる気持ちで馬を走らせる。


「おかえりなさいませ、イザーク様!」


 屋敷に戻ると執事のガルドを筆頭に、使用人たちが並んで出迎えた。


 いつもの光景だが、ふとシャルロットの姿がないことに気づく。


「…………」


 ここ最近は必ず出迎えてくれていたが、街へでも行ったのか?

 顔が見られないことを残念に思う。


「イザーク様、シャルロット様は――」


 執事がおずおずと切り出すが、遮った。


「――話ならあとで聞く。まずは湯を準備してくれ」


 魔物の返り血と汗の匂い。

 こんな汚い格好ではシャルロットに不快感を与えるだろう。


 まずは身を整えてから、顔を見ても遅くはない。

 本音は早く会いたいという気持ちを抑え込んだ。


「はい、準備いたします」


 深々と頭を下げるガルドに視線を向ける。

 少し顔色が冴えないことが気になった。


***


 湯を浴びたところで、一息ついた。


 ようやく帰ってきた実感がわくというものだ。


 さて、そろそろ彼女の顔を見に行くとするか。

 摘んできたロルサを手にし、ソファから立ち上がったところで、扉がノックされた。


 返事をすると顔を出したのはガルドだった。


「イザーク様、お話があります」


 深刻な顔つきを見て、嫌な予感がした。

 横に並んでいるのはロゼール。


 いつものふざけた様子は鳴りを潜め、落ち着かないようだ。


「――言ってみろ」


 ガルドは握った拳にグッと力を入れると、顔を上げた。


「シャルロット様が――南部に帰られました」


 なんだって?


 ……南部に帰った?


 突然のガルドの告白に頭が追いつかない。


「ドリーを引き連れて南部に帰ると言い――」


 俺はガルドの話を最後まで聞かず、部屋を飛び出した。


 向かった先はシャルロットの部屋。


 嘘だろう、ガルドの冗談だと言ってくれ。


 扉を開けたらその先にいるんだろう?


 シャルロットの部屋の前で一呼吸置いて、扉を叩いた。


 だが、どれだけ待っても返事が聞こえることはなく、たまらず扉を開けた。


 いつも暖炉を灯して温かさを保っていた部屋は、足を踏み入れた瞬間、肌がヒヤリとした。


 綺麗にシーツが整えられ、使った痕跡のないベッド、いつも腰かけていたソファ。

 余計な物を置かず、整理整頓された部屋を好んでいた。


 それは、いつ出て行ってもよいと決めていたせいなのか。

 クローゼットに手をかけて中を確認すると、ドレスが数点なくなっていた。


 残されていたのは、北部にきてから俺が贈ったドレスばかり。


 もしや、北部のデザインが気に入らなくて、置いていったのか。それとも俺からの贈り物など必要ないと?


 衝撃のあまり、地面を見つめたまま、動けずにいた。


「イ、 イザーク様」


 背後からおずおずと声をかけてきたのは、ガルドだった。


 自然と険しい顔になる。


「いつだ。いつ彼女は帰った。その時、変わった様子はなかったのか」


「あれは四日前の朝、ドリーが急に『南部へ帰る。馬車を準備してくれ』とのことでした。突然だったので我々も引き止めたのですが、決意は固く、その日のうちに出発いたしました」


 ……なぜ、俺に一言の断りもなく、行ってしまったのだろう。


 ガルドは俺を前にして頭を下げ続けている。その手は震えていた。

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