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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第五章 南部へ

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◆イザーク視点


***


 魔物の心臓を一突きすると、グワワァァァと耳をつんざく声がした。

 返り血を浴びながら、魔物の断末魔を聞く。


 鼻につくのは鉄の錆びた臭い、顔に飛び散った血を腕でぐっと拭う。


「お見事でした、イザーク様」


 今回の魔物は大きな翼を持ち、自由に空を動きまわる、やっかいなタイプだった。

 街の近くで見かけた情報が入り、すぐさま討伐に足を向けた。被害こそ大きくはなかったが、一度街を襲った魔物は味を占め、再び襲うだろう。


 それを知っているからこそ、絶対に見逃さない。


 臣下を引きつれ街に出た魔物を追い詰めること、七日目。ようやく奴の根城を突き止めた時は、思わず心の中でガッツポーズを決め込んだ。


 根城に魔力結晶を投げ込むと、たちまち煙に包まれる。


 いぶられて苦しくなって穴から這い出てきたところを、一撃で見事に仕留めた。


「いつもながら、素晴らしい剣さばきです」


 ロゼールがパチパチと手を叩く。剣についた血を振り払い、鞘にしまった。


「しっかし、すごいもんですよね。魔力結晶の効果は」

「ああ」

「魔物の討伐に行くと言ったら、身を案じてこれだけの魔力結晶を持たせてくれるなんて、愛されていますね」


 ロゼールが軽口を叩く。


 愛されているのだろうか――。


 そうだったのなら、どんなにいいことか。


 あの日、ネザークロウの洞窟から瘴気が抜けた。早速、採掘を始めると、高純度の結晶がゴロゴロと採掘された。


 シャルロットは南部と連携を取り、出荷する手筈をあっという間に整えた。


 その結果、想像以上に北部の財源が潤った。


「これで毎年の冬の燃料なども、大丈夫でしょう」


 結晶に炎の魔力を込めて家の中央に設置すると、家全体が温かくなる。

 たくさんの結晶が採掘できるようになり、人々の生活にも行き渡るようになっていた。


 鉱山で結晶の採掘に携わることが増え、職にあぶれる人々が減った。北部が活気に満ちてきていると感じていた。


 それは俺が生まれてから、初めてだった。


 南部に出荷するとその半分は、魔力が込められた魔力結晶となって返却される。残りの半分は南部に流通した。

 

 南部と北部、どちらも得をする結果となり、鉱山の利益を分け合っているようなものだ。


 シャルロットの実家であるセバスティア家が手筈を整えてくれ、スムーズに事が進んだ。おかげで短期間でグッと生活が楽になった。


「これもすべてシャルロット様のおかげですね」


 ロゼールは手放しで褒める。


 シャルロットが洞窟の瘴気を払ったのは、王族より遣わされた水晶を使用した、ということになっている。彼女自身が魔力を扱えることは、口にしていない。


 これは秘密だ――夫婦の。


 彼女の魔力は、南部の家族と王族しか知らない事項だと言っていた。だが、俺にも教えてくれたということは、少しは夫として認めてくれたのだろうか。


 今回の魔物討伐に向かう俺に、シャルロットは小袋を手渡してくれた。


 中を開けると魔力結晶がいくつも入っていた。


「魔物に攻撃できる魔力を込めておいたから。使ってみて」


 南部から購入したと見せかけて実のところ、シャルロット自身が魔力結晶を作ったという。


 彼女が俺のために――。


 胸にジーンと感動がわきあがり、お礼を口にすれば、シャルロットは柔らかく微笑んだ。


 あの日、シャルロットから南部に帰るつもりだと聞き、目の前が真っ暗になった。


 なにを言ったのか覚えていないほど衝撃を受けた。


 もう一度、彼女と向き合う時間を取らねばならない。


 固く決意したものの、結晶の採掘や南部への出荷、加えて魔物討伐などが重なり、なかなか時間を取れずにいる。


 いや、これは言い訳だな。俺は彼女の本心を聞くのが怖くもあるのだ。


 脳裏に浮かぶのは笑顔で出迎えてくれるシャルロット。いつも優しく微笑み、俺を気遣ってくれる。


「イザーク様、そろそろ戻りましょうか」

「……そうだな」


 ああ、彼女に会いたい。


 早く戻るつもりが、七日も会っていない。今すぐ君のもとに戻りたいんだ。


 そして声が聞きたい、優しく微笑んで欲しい。


 願わくは華奢な体を抱き寄せ、耳元で愛していると――。


「どうなされました、イザーク様?」


 部下の声にハッと我に返る。


 いけない、自分はなにを妄想しているのだろうか。


 あの日、シャルロットを引き止めはしたが、彼女はどう思っているのだろう。


 街では食堂に出向いたり、鉱山にも積極的に足を向けている。


 忙しくしているところを見ると、北部にとどまってくれる気になったのだろうか、と思う。


 ……本当は話し合う時間がないなんて、嘘だ。


 勇気がなく彼女に確認することが出来ずにいる自分。こんな気持ちを知られたら、臆病者だと笑われるかもしれない。


「皆、帰路につくぞ」


 部下たちに声をかけると歓声が上がる。皆が帰りたい気持ちは一緒だった。


 ああ、シャルロット。


今頃、なにをしているのだろうか――。

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