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「前に王様は北部など、気にかけていないと言ったわよね?」
イザークも自身の発言を思い出したのか、小さくうなずいた。
「その逆で、本当に気にかけているから、私のことを送り込んだのです」
これは王から直々に言われたこと。本当はここまで言うつもりはなかったのだけど――。
「もしよ? 仮にね――」
前置きしたあと、私はゴクリと息をのむ。
「私とイザークの間に子供が出来たら……」
「なっ……!」
イザークは絶句した。ほんのりと耳が赤くなっている。突拍子もない話に動揺したのか、視線をさまよわせた。
「魔力持ちになる可能性があるでしょう?」
魔力があればこそ、環境の厳しい北部で、その能力を生かせると王は考えておいでだった。
子供、と言った時点でイザークが小さく息をのむ。手をソワソワさせて、落ち着きがない。
でも、最初に彼から子供の件は拒否されているから、望めない。
無理強いもできないのだから、やれやれと肩を落とす。
「だから、決して北部をないがしろにしているなんてことは、ありません」
「――わかった」
イザークに伝わったようでホッと胸をなでおろす。
「では次に――左腕を見せてもらえるかしら?」
イザークは驚愕に目を見開くと、サッと左腕を背中に隠した。
「なぜだ」
「痛めたでしょう?」
イザークは隠しているつもりだったのだろうが、明らかに肘の部分を庇った動きをしている。
きっと私を助けた時に、ぶつけてしまったのだろう。
「いいから見せてください。こっちに来て」
そっちが行かないなら私が行くわと宣言すると、やっと観念したイザークが近づいてきた。
手を伸ばすと届く距離に来たイザークに左腕を出してもらう。シャツをたくしあげた箇所は、腫れて熱を持っていた。
これは相当痛いはずだわ。もしかして骨にヒビが入っているかもしれない。
私は集中し、イザークの腕にそっと触れる。
やがて温かな光が周囲を包み込んだ。
「はい、おしまい」
シャツを戻すイザークにグッと唇を噛みしめた。
「あの、ごめんなさい、イザーク」
「なんのことだ」
彼は理解できないと言った様子で私を見つめる。
「私を庇ったせいでケガをしたのでしょう」
私を抱きかかえ、土砂崩れを避けた時、肘を強打したに違いない。それしか考えられなかった。
「ああ、たいしたことないさ」
「でも――」
イザークは私が気にすると思って言わなかったのだろう。
「辛いときは正直に言って欲しいの」
彼の目を見て、そっと腕をさする。
「我慢する必要なんてないわ。せっかく癒しの力があるのに」
「――これしきの傷、痛いなんて言ってはダメだと思っていた」
「あら、それは違うと思うわ!」
私はイザークの目を見つめ、指を振った。
「痛いものは痛いと、素直になっていいのだから」
「そうか……。小さな傷ごとき、情けないかと思っていた」
「大丈夫。私がいるから」
胸を張るとイザークも頬を緩ませた。
「さぁ、前に進みましょう」
イザークに手を出すと、彼はギュッと私の手を握る。
***
どのぐらい奥に進んだのだろうか。
あれから魔物が出てはイザークが退治し、私が治療にあたった。
「ごめんなさい、私があまり役立たなくて」
先ほど襲ってきた魔物の攻撃により、腕から血を流すイザークを治療する。
「いや、こうして治療できるのだから、助かる」
イザークはそう言うが、治療できるとしても、痛みは伴う。
洞窟の奥に進むにつれ、瘴気が濃くなってきているのを肌で感じる。
長い時間、触れていると気力を奪われる。
深淵の暗闇、魔物がいつ襲ってくるのかわからない恐怖。
気持ちまでどんよりと暗くなる。
不意に、自分がどこを歩いているのか、わからなくなる。
いけない、瘴気にのまれてしまう――。
「早く、行こう」
その時、イザークがグイッと手を引いてくれ、その手の温かさで我に返る。
「ええ、ありがとう」
私もまた、彼の手をギュッと握りしめた。




