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土砂崩れが起きたのだわ。
まさか、このタイミングでそんなことが起きるなんて――。
「あいつらもとっさに避けたはずだ。反射神経はいいからな」
イザークがそう言うが本当だろうか。ドリー、私を助けようとしてケガをしていないといいけれど。
ギュッと両手を握り、彼らの無事を祈る。
「さてと――ここから先をどうするかだ」
イザークの声が真剣みを帯びている。
奥から瘴気が流れ、魔物も出没するというネザークロウの洞窟。
入口が塞がれてしまい、私たちに迫られる選択肢。ここで土砂が取り除かれるのを待つしかないのか。
「洞窟の中央に、空がぽっかりと割れている箇所がある。そこは光が差し込む空間で、唯一外と繋がっている」
イザークは真剣な眼差しを向ける。
「だからついて来てくれないか。必ず無事に帰すから」
強い意志を感じるイザークから目が逸らせなくなり、こんな時だというのに心臓がドキドキと高鳴った。
なぜ、彼を意識しているのだろう。そんな場合じゃないのに。
幸いなことに私たちの近くにはドリーが準備した荷物一式が入ったカバンが転がっていた。
助かった、飲み水とか軽食が入っているし、ランタンの燃料もある。
むしろこれがチャンスと思うしかない。
深く息を吸い込み、手首にはめてあるブレスレットにそっと触れる。
大丈夫だと繰り返し、自分に言い聞かせる。
絶対、無事に戻るんだ。
***
イザークは荷物を手にしつつ、ランタンで足元を照らしながら前を歩く。申し訳ないのでせめてランタンだけでも持とうと提案しても、イザークは決して首を縦に振らなかった。絶対に自分の後ろを歩くように指示をした。
大きな背中がすごくたくましく見える。
その時、暗闇の中から無数の何かが飛び出してきた。キィキィと鳴く声は、耳を塞ぎたくなるほど高い。
「くっ、離れていろ」
イザークは剣を取り出し、素早く構えた。
素早い動きで撹乱させる黒い物体は――ブラックバットだわ。
またの名を吸血コウモリと呼ぶ。一匹なら大した相手ではないのだけど、大勢でかかってくるやっかいな魔物だと聞く。
イザークは暗闇の中、確実に急所を狙い、仕留めていく。甲高い断末魔が聞こえる。
だが、いかんせん、数が多い。思うに奴らは高い声を出し、仲間を呼んでいるようだ。
このままじゃ、危ない。
私は息をスッと吸い、片手を空に掲げる。
意識を集中させ、魔力の核となる自身の中心に意識を集中させた。
ふと手から突風が巻き起こる。それはブラックバットをかき集め、砂嵐へといざなう。
制御不能な風に包まれたブラックバットは目を回している。
やがて、魔力で作り出した竜巻により、すべてのブラックバットが地に落ちた。それを確認するとゆっくりと手を下ろした。
「――今のは……」
イザークがごくりと喉を鳴らした。そんな彼の手を取る。
「ブラックバットは失神しているだけだから。今のうちに進みましょう!」
立ち尽くすイザークの手を引っ張り、その場から離れた。
***
「ここまで来れば少しは安心かしら」
私とイザークは歩きっぱなしだったので、少し休憩することにした。
イザークは私に道具の入った袋を差し出す。
「ありがとう」
水を取り出し、喉を潤した。
「――で、さきほどの力はなんなんだ」
聞かれると思っていた。私は意を決してイザークに話すことにした。
「私の魔力は治癒だけじゃないのです」
そう、これもセバスティア家の極秘情報だ。
「すごい力だな。セバスティア家の人間は皆が魔力を使えるのか?」
顎に手を当て、感心したような声を出すイザークにゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。誰もが使えるわけではありません。セバスティア家で魔力を持つのは――私だけ」
正確に言えば、私の力は先祖返りだ。むしろ先祖の誰よりも強いと言われた。
ゆっくりとイザークの顔を見つめる。
「この力があるからこそ、私は北部に嫁いだのです」
手を広げ、ギュッと握りしめた。




