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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第四章 ネザークロウの洞窟

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「あ、あれは……!」


 ハッとして顔を上げた彼の胸にそっと手を置いた。顔を真っ赤にするイザークを見つめる。


「ですが、今はとても嬉しく思います」


 いきなり南部から来た私のことが、受け入れられなかったのは仕方がない。だが、今では考えが変わったということだろう。


 だからこそ、私がメイドから粗末な扱いを受けていると知り、激怒したのだ。


「ありがとうございます。イザークは優しいですね」


 ふわりと微笑むとイザークは言葉に詰まった。

 胸にあてている手に、服越しでも心臓がドクドクと激しい音を刻んでいるのが伝わる。


「でも、薪は申し訳なく思いますわ」


 南部出身なので寒さに弱いのは事実だ。


「薪は貴重な資源ですし、私のせいで消費が――」

「そんなことは気にしなくていいんだ!!」


 イザークが私の両肩をガシッとつかみ、顔をのぞき込んでくる。


「むしろ、いくらでも使ってくれ。薪などまたとってくればいいんだ。寒い思いだけはしないでくれ! 風邪をひかれては困る!!」


 イザークは真剣な表情でまくしたてる。

 その様子に頬がほころぶ。


「ありがとうございます、イザーク」


 彼は私と目が合うと、真っ赤な顔をしてプイッと逸らした。

 そんなイザークがとても可愛らしく思えてしまった。


「この後、時間はありますか?」


 質問するとごくりと息を呑んだ。


「部屋に紅茶を頼みましたので、良かったらご一緒しませんか?」

「……いいのか」


 おずおずと遠慮がちにたずねたイザークに、もちろんと答えた。

 

 ***


「それでどうやってイザーク様を納得させるおつもりですか?」

「それなのよね」


 イザークとお茶を飲んで数日後、部屋でドリーと作戦会議が行われていた。


「イザークに、私の治癒力について話したの。これから先、知っておいた方がいいかと思って」


 この力についてはごく一部の人しか知らない極秘情報だった。ドリーはもちろん知っている。


「まあ、イザーク様なら大丈夫でしょう。口は固いでしょうし」


 めったに男性を褒めないドリーが褒めたので、嬉しくなる。……でも、なぜ私は嬉しく思うのだろう。

 そんな自分が不思議に思いつつ、首を傾げる。


 その時、外が騒がしいことに気づく。


「あら、あれは……」


 大きな黒い物体が台車に乗せられ、城門から入ってくる。いったい、なにを運んでいるのだろう。


 ドリーを連れて行ってみることにした。


 外に出ると騒がしく、騎士たちが集まっていた。


「どうしたのかしら?」

「あっ、シャルロット様」


 騎士たちは私に気づくと道を開けてくれた。


 台車が狭く感じられるぐらい大きく、横たわっている黒い物体があった。


 真っ黒な毛に覆われ、爪はすごく鋭い。引っ掻かれたら、ケガだけではすまないだろう。それになにより、額からは鹿のような大きな角が生えているし、目が三つある。


「あれはホーングリズリーですね」


 ドリーが耳元でぼそっとつぶやいた。


「知っているの?」


 ドリーは小さくうなずいた。


「非常に気性が激しく獰猛、一度スイッチが入ったら手がつけられないほど攻撃をしてくる、執念深い魔物です。ですがその角は薬になり、毛皮は温かく、高値で取引されています。ただ――」


 ドリーの説明途中でイザークが私に気づき、近寄って来た。


「おかえりなさい、イザーク。こんなに大きな魔物……よくご無事で」


 イザークは瞬きをすると、視線を逸らす。


「北部の冬は長く、寒い。南部から来たあんたが耐えられるか心配だ。この魔物の毛皮は、すごく暖かい」

「そうなのね。確かにフワフワしているわね」


 顔つきこそ恐ろしいが、毛並みはやわらかそうに見える。


「だから、この冬は使って欲しい」


 私のために危険を冒して捕まえてきたのだろうか。


 お礼を言おうと彼を見て、ハッとする。


「どうしたの、それ!」


 イザークの腕から出血していた。簡素な布を巻いているが血が滲み、とても痛そうだ。


「心配ない。少しかすっただけだ」


 イザークは心配かけまいとサッと腕を隠した。


「そうですよ、シャルロット様。このホーングリズリーを相手に、それぐらいで済んだら軽症っすよ」


 軽口をたたいたのはロゼールだった。


「このホーングリズリーの毛皮はとても温かくて、高値で取引されています。寝具として使用すると朝までポカポカですよ。イザーク様がシャルロット様のために、どうしても準備したいと、前々から計画を立てていまして」


 まさか、私のために危険を冒してまで退治しに行ったと言うの?


 イザークに顔を向けると彼は視線を逸らす。


「最近、街の近くに出没していたから危険だと思って、駆除を決めただけだ」


 ほんのりと頬を染めたイザークは口を尖らせた。


 もし私のためならとても嬉しい。だが――。


「危ない!!」


 ドリーの叫び声にハッと我にかえる。

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