40
「シャルロット様、重くないですか?」
「あら、平気よ。ドリーこそ辛くない?」
ドリーは私の倍も運んでいるので疲れないか心配だ。
バケツを両手で持ちながら、廊下を進む。
「ふう、ちょっと休憩しない?」
手が痺れてきた私の発言に、それ見たことかとドリーは視線を投げる。
「ここにバケツを置いていきましょう。あとから私が取りにきます」
「でもそれじゃあ――」
ドリーの手伝いにならないじゃない、と言いかけた時――。
「なにをやっているんだ」
背後から声がかかり、振り返る。
そこにいたのは険しい顔をしたイザークだった。
「なぜこんな、使用人みたいな真似事をしている!?」
私に近寄ると手からバケツをひったくるように奪った。
「そんなに重くないから大丈夫――」
「そういう問題ではない」
イザークは威厳ある声を出し、私の言葉を遮った。スッと息を吸い込む。
「メイド長と執事長を呼べ!!」
廊下の端にまで響く声を出した。
それからすぐに血相を変えた二人が走ってきた。イザークは腕を組み、威圧感を醸し出している。その横でドリーが事情を説明していた。
まいったわ、なんだかおおごとになってしまったわね。
やがてメイド長からあの場にいたミーシャを含め、三人が呼びつけられた。
「なぜ、ここに呼ばれたかわかっているか?」
「も、申し訳ありません」
イザークがみずから詰問し、この場にいる皆が顔面蒼白になっている。震えて話にならないと思ったのだろう、イザークは大きなため息をつく。
「いつからだ?」
ジロリと周囲をにらむ。
「これが初めてではないだろう。いつから彼女をないがしろにしていた」
静かに激怒するイザークの迫力に弁解すらできないようだ。
罰を避けられない状態だろう。自分のせいで誰かが罰せられるなんて、いたたまれない。
すくみあがっている三人は青白い顔をして、今にも倒れそうだ。
こんな時は――。
「イザーク」
背を向けているイザークに声をかけ、近づいた。
「私が好きで運んでいたのです。少し力をつけた方がいいと思ったので」
「なぜ、そんなことをする必要がある?」
そっとイザークの手を取ると、彼は驚いたのか体をビクリと揺らした。
「ネザークロウの洞窟へ行くためですわ!」
「まだ、そんなことを言っているのか!?」
イザークは呆れを含んだ声色を出す。
しめた、話題が逸れた。
彼の手を両手でギュッと握りしめた。
「お願いです、私を連れて行ってくださいませ」
「だめだと言っているだろう! 危険すぎる」
握った手に力を込め、上目遣いでイザークを見る。
「……どうしてもダメですの?」
イザークはグッと言葉に詰まり、顔をプイッと背ける。
「じゃあ、私と賭けをしましょう。イザークを納得させるほどのことを見せたら、連れて行ってくれますね?」
イザークは少し考えたあと、鼻で笑う。
「いいだろう。俺を納得させるなにかがあれば、連れて行こう」
やったわ、これで言質は取れた。ここにいる皆が証人だわ。
次に突っ立っている皆に顔を向けた。
「執事長、今すぐ薪を運んでいただけるかしら。消耗が激しくてね」
執事長は肩を震わせた。
「かしこまりました。今後は切れることがないように致します」
返事をするやいなや、さっそく誰かに指示するため、走って消えた。
「メイド長、喉が渇いたから、今すぐ部屋に紅茶を運んでくれる? 焼き菓子もあれば嬉しいわ」
「はい、わかりました」
「そこの三人も連れて行っていいわ。手伝いが必要でしょう」
これでうまく場を収めることができるかもと思った時、
「待て。お前たちの処分は追って連絡する。荷物をまとめておけ」
イザークの怒りは収まらないようだ。
今にも泣きだしそうな三人をメイド長が引きつれ、立ち去った。
残されたのはドリーとイザークと私。そこでイザークは、なにかを言いたげな視線を投げた。
「南部から来た私など、受け入れることは難しいのでしょうね」
北部と南部の確執は根っこの部分にも蔓延っている。
「――すまなかった」
イザークはポツリとつぶやく。
「こんなことは二度と起こさないと誓おう。――あんたは、こんな対応をされていいわけじゃない」
イザークは気づかなかったのも自分の落ち度だと告げた。
それは私に対して申し訳なく思っているようで、しょげて見えた。
思わずクスッと笑みがこぼれた。それは、あの夜を思い出したから。
「私のことを一番先にないがしろにしたのは、イザークじゃないですか」
責めるでもなく微笑みながら告げる。




