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数日後、昼食後に気晴らしに城内を歩く。
広いのでいい運動にもなるし、定番のお散歩コースができた。ドリーと二人で歩きながら喋る。
「イザークにネザークロウの洞窟の話をしてみたの」
「で、どうでしたか?」
「猛反対だったわ。絶対にダメだって」
「まあ、そうでしょうね」
私がネザークロウの洞窟に行かねばならぬ事情を知っているドリーは、肩をすくめた。
「最近、あのお方のシャルロット様に対する態度を見ていると、容易に想像つきますけどね」
「困ったわ。なにかいい案はないかしら」
頬に手を添えて、頭を悩ませた。
そうこうしているうちにドリーがふと思いついたように顔を上げた。
「そういえば、部屋の暖炉の薪が、もうすぐなくなりそうでした。誰かに頼んできます」
北部はすでに肌寒く、暖炉の火がなければ、寒くて震えてしまう。
「そうね、私も一緒に行くわ」
私もドリーについて行くことにした。
メイドに言付けようとしていたら、廊下の反対側から歩いてくるメイド三人を見つけた。
その中には私を嫌っているミーシャの姿もあった。
「薪ですか?」
ドリーが近づき、薪の補充を頼むと案の定、鼻先で嘲るような仕草を見せた。
「そう、シャルロット様のお部屋に運んで欲しいの」
感じの悪い彼女たちを前に、ドリーは感情を抑えて言葉を選んだ。
「薪でしたら外の作業小屋に積まれていますよ。好きに持っていけばいいじゃないですか」
まるで手伝う気のないこの態度。ドリーはクッと声を漏らし、唇を噛みしめた。
「北部では薪も貴重品なんですから。そうホイホイと使われては無駄遣いですわ」
「失礼だぞ、ミーシャ!」
本当にこの二人は仲が悪い。ミーシャの後ろにいる二人は黙っているが、同じ意見なのだろう。
「そんなに使いたいのであれば、ご自分で薪割りでもなさったらいかがですか?」
ドリーは憤怒で顔を赤く染めている。
やれやれと思い、二人の間に割って入る。
「その、薪割りって、私でもできるのかしら?」
実際の作業を見たことはある。だが、私にも大きな斧を振り下ろせるのだろうか。
「ややこしくなるので、シャルロット様は黙っていてください」
「……はい」
ドリーに叱られてシュンとして口をつぐむ。
「とにかく――」
ミーシャはコホンと咳ばらいをすると、窓の外を指さした。
「薪ならそこにありますので」
やはり私たちのために薪を運ぶ気など、ちっともなさそうだ。
「貴様――!」
「わかったわ、ドリー、行きましょうか」
ドリーの肩にポンと手を置き、彼女をなだめた。
ミーシャは腕を組み、見下すように薄く笑う。
「教えてくれてありがとう。あとは自分たちでなんとかするわ」
一応お礼を口にすると怒っているドリーを引きつれ、その場を離れた。
「なんでシャルロット様は私を止めるんですか!?」
「だってドリーが彼女たちに、なにかしたら困るでしょう」
ドリーの目つきが変わった瞬間、危ないと判断したのだ。
「シャルロット様は悔しくないんですか? メイドごときにバカにされて!」
「そりゃあ、面白くはないけど、ドリーが暴れた時のほうが嫌だわ」
ドリーはグッと唇を噛みしめ、こらえた。
ドリーが本気を出したら、彼女たちは無事で済まないだろう。
「廊下が血の海に染まったら私、失神しちゃうわ」
冗談のように聞こえるが、あながち嘘ではない。彼女たちはドリーの過去を知らないから、あんな態度を取れるのだ。
「大丈夫よ、いざという時、ドリーは誰よりも頼りになるって知っているし」
「シャルロット様……」
「だからね、今は薪を取りに行きましょう」
感動して目を潤ませるドリーの手を引き、外を目指した。
***
外の小屋に大量の薪が積んであった。
「このバケツに入れて運ぶのね」
側にあったブリキのバケツにポイポイと薪を入れると、ドリーが震える声を出す。
「お、おやめください、シャルロット様!」
「平気よ、これぐらい。二人で持った方がたくさん運べるじゃない」
ドリーは顔面蒼白になり、私から薪を奪い取る。
「私が往復しますのでやめてください!」
「あら、それじゃあ困るわ。私だってドリーを手伝いたい」
私が言い出したら聞かないと知っているドリーは、頭を抱えた。
結局、押し問答の挙句、ほんの少しだけ薪を運ぶことでドリーは渋々ながら了承した。
「無理をなさらないでくださいね! 途中で重くなったら代わりますので」
「大丈夫だから行きましょう」
ドリーは薪を山盛りにしたバケツを手に持つ。私はドリーの半分の薪を入れ、部屋に戻ることにした。




