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【書籍化】この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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「大丈夫か」


 やがてイザークの声がかかったので、ゆっくりと顔を上げた。


 視界に入ってきたのはどこまでも広がる大草原。美しい丘陵地帯が続いている。


「わぁ、素敵」


 思わず感嘆の声が漏れてしまった。


「もう少し走るぞ」


 イザークはさらに馬を進めた。小高い丘を越え、グングンと進んでいく。


 やがて一本の大木の傍で馬を止めた。

 そこでイザークは馬から下りた。私に手を差し出し、下りるのを手伝ってくれる。


「ここは見晴らしの丘だ。街がよく見える」


 イザークの言った通り、ウォルクの街を一望できた。


 さっきまで自分がいた場所がこうやって見下ろせるだなんて、不思議な気持ちになる。


「雪で閉ざされる前にここに連れて来たかったんだ」


 イザークははにかんだように口にする。


 本当に? 最初は私のことを認めていない風だった。すぐにでも南部に追い返したい、そんな口調だった。だけど、今では雪が降る前に見せたいだなんて、私がここにいてもいいのかしら。


 私はゴクリと喉を鳴らす。

 今なら、彼に本音で話してもいいかもしれない。


 覚悟を決め、イザークと向き合う。


「お話があります」

「――どうした」


 私の真剣な表情を見てイザークは察したのか、頬がピクリと震えた。


 今の彼なら聞いてくれるはずよ。


「私が南部の秘宝と呼ばれていたのを、ご存じですか?」

「ああ。とても美しいからだろう」

「違います」


 私はフルフルと首を横に振った。


「私が南部の秘宝と呼ばれている本当の意味は、ごく一部と家族にしか知られていません。それは私が『癒しの力』を持っているからです」

「……あんたが?」

「ええ」


 静かな問いかけに、ゆっくりと首を縦に振る。


「南部のセバスティア家が隠していた力です。セバスティア家では時折、魔力の強い子が生まれるのです。ですが、悪しき者に利用される場合もあるので、この件を知るのはごく一部のみ。我が家で、この力を持っているのは私だけです」


 イザークは瞬きを繰り返している。


「それとも信じられませんか?」


 実際に力を見せていないので、疑われても仕方ないと思えた。


「いや、信じる」


 イザークははっきりと、力強い口調で私の目を見つめた。

 正直、実際に力を見せたわけじゃないので、信じてもらえるとは思っていなかった。だから驚いた。


「それで、この話をどうして急に?」

「別に急ではありません。初夜で言おうとしたのですが――」


 そう、最初に私は言うつもりだった。だが、話を拒否したのはそっちだ。

 イザークは自分の態度を思い出したのか、少しバツが悪そうな顔を見せた。


「知っておいてほしかったのです」

「そうか」


 この人は、私の力を利用したいとか思うのだろうか。それとも半信半疑か。


 私は拳をギュッと握ると、本題に入る。


「私を――北部のネザークロウの洞窟に連れて行ってください」


 それこそが、私が秘密裏に託された王命の一つだった。


 ネザークロウの洞窟とは北部の山奥にある、閉ざされた洞窟だ。魔物が出現するし瘴気が漂い、一般人はあまり近寄れない。


 だがそこでは貴重な結晶が採れることで有名だ。


「――ダメだ」


 案の定、イザークはすごく険しい顔で即答した。


「なぜですか? 私には癒しの力があると言ったはずです。少しなら他の魔力も――」

「ダメに決まっている。あそこの魔物は性質の悪いのが多い。危険極まりない」

「ですが、結晶はとても貴重なもので北部の財源になりうるはず」

「ダメだと言っている!!」 


 イザークが声を荒らげた。


 真剣な勢いにハッと息をのむ。


「あんたはあの洞窟の怖さを知っちゃいない。騎士団が万全の態勢で洞窟に向かっても、せいぜい二、三個の結晶を持ち帰ることしかできない。犠牲者が出ないとは、言い切れないんだ」


 やはり簡単に「はい、そうですか」とはならないだろうと踏んでいたが、予想は当たった。


「そうですか……」


 イザークは私を心配しての発言だろう。私は握りしめた手にギュッと力を込めた。


「でも私はあきらめません」


 宣言する私にイザークは目を見張る。


 だってネザークロウの洞窟に行くことこそ、あなたの望みが叶えられるはずよ。


 イザークは口をギュッと結び、納得のいかない表情を浮かべている。


 でも、いいわ。こうなったら根競べになる。

 

 私が覚悟を決めた瞬間だった。

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