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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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「勝手にじゃないわ。ちゃんと伝言を残してきたはずよ」


 その相手、イザークは髪をグシャグシャとかきむしる。


「護衛もつけずに街に来るなんて。せめて俺に一言、言ってくれ」

「あら、ドリーがいますのよ」


 イザークはチラッとドリーに視線を投げる。


 だが、この視線はドリーのことを信用していないな。私のドリーは誰よりも強いんだから。


「この前倒れたばかりだというのに……無理して動きまわって」


 イザークは私の手首をパッとつかんだ。


「あら、あれは単に湯あたりだから、関係ないですわ」

「腕だってこんなに細いのに……。なにかあったら、すぐに折れてしまいそうだ」


 イザークは私の手をまじまじと見つめる。なにが言いたいのかしら。


「イザーク様は、シャルロット様が心配でたまらなかったのですよ」


 イザークの背後からヒョコッと顔を出したのはロゼールだった。


「街に出かけたシャルロット様が心配で、馬で駆け付けたんですから」

「ロゼール!!」


 イザークは唇をギュッと噛み、真っ赤な顔でロゼールをにらむ。ロゼールは悪びれもせず、舌をペロッと出す。


「まあ、私は大丈夫よ。それに、せっかくいらしたのだから、皆さんもゆっくりしていって」


 見渡すと突然のイザークの登場に周囲は戸惑い、遠巻きに見ている。


 領主であり、騎士団の総指揮官であるイザークの登場に、周囲は混乱するだろう。


 その時、一人の少女がズイッと前に出る。あれは食堂を手伝っているトビーの妹だ。


「イザーク様、毎日、美味しいご飯をありがとうございます」


 小さいながらもペコンと頭を下げる。


「ここのご飯を食べるようになってから、体に元気が出てきました。お兄ちゃんも働けてお金がもらえるようになって、お母さんの薬も買えるようになりました。皆が喜んでいます」


 一生懸命話す少女にイザークは黙って耳を傾けている。


「イザーク様とシャルロット様のおかげだって、街の皆が言っています。ありがとうございました」


 少女はそれだけを言うと、はにかんで走り去った。


 イザークは少女の後ろ姿をジッと見つめていた。

 すると周囲の人々も感化されたのか、次々と口を開く。


「イザーク様、シャルロット様、ばんざい!!」

「そうだ、イザーク様とシャルロット様、ありがとうございます!!」


 人々が拍手を私たちに送る。


「あら、嬉しいけれど、困ったわね」


 人々が集まってきて、ちょっとした騒ぎになってきた。これは早々に立ち去った方がいいだろう。


 と、その前に――。


「ロゼールお願いがあるの」

「はい、なんでしょうか」

「炊き出しに来た方に毛布を配って欲しいの。本格的な冬になる前に」


 私にはまだ想像がつかない寒さだけど、少しでも温かい方がいいだろう。


「はい、承知いたしました。すぐさま手配いたします」


 ロゼールはビシッと敬礼をして、引き受けてくれた。


「ふふ、じゃあ、戻りましょうか」


 イザークの顔を見つめ、にっこり微笑んだ。


 ***


 馬車に乗り込もうとすると、イザークは手をスッと差し出した。


「少し、回り道をして帰らないか」

「ええ」


 そのままドリーには馬車に乗って帰ってもらうよう指示する。

 肩に、ふわりと上着が掛けられた。


「風が冷たいから、はおってくれ」


 上着からはシトラスの爽やかな香りがする。これはイザークの香りだと思うと、心臓が音を立てた。


 イザークはそのまま乗ってきた馬に私を乗せた。自分も馬に跨ると、勢いよく駆け出した。


 風がビュンビュンと頬を擦り、すごい勢いだ。


 だが馬に乗っているイザークはとても生き生きとしている。私は振り落とされないようにイザークの腰にしがみついた。


 温かい――。


 触れ合った箇所から熱を感じる。服の上からでもわかる筋肉に、たくましい体つき。


 こんなに近づいたことがなかったので、心臓がドキドキしてくる。彼はどうなのかしら? 平気なのかしら?


 そっと顔を上げると唇を引き締めたイザークの顔が視界に入る。


 手にギュッと力を入れると、わずかにイザークの頬が緩んだ。

 慣れないスピードが怖くもあり、でも彼にもたれかかっているとどこか安心できて、私はギュッと目を閉じた。

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