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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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 イザークはずんずんと歩いて先を進む。


 私はついていくので精いっぱいだ。そのうち息が切れてきた。やがて遅れを取った私を、イザークは不思議そうに見ている。


「あ、歩くのが遅くてごめんなさい」


 イザークは私に言われてハッとしたようだ。


「すまない」


 イザークは気まずそうに首の後ろに手をやる。

 足の長さも違えば、私はドレスを着用しているので、イザークみたいにスタスタとは歩けないのだ。


 イザークは心なしか、しょんぼりして見えた。


「もう少しゆっくり歩いていただけると助かります」

「わかった」


 躊躇したあげく、おずおずと差し出された手。


 え……?

 もしかして私をエスコートしてくれるつもりなのかしら?


 びっくりして彼を見上げると、唇をギュッと結んでいる。


 まるで決死の覚悟で手を出している、みたいな――。


 緊張しているのか、頬を赤く染めている。

 私にどう接していいのか戸惑いながらも、気遣ってくれているのだろう。


 そんな表情を見せられたら、思わず笑顔になる。

 両手を口に当ててコロコロと笑う私に、イザークはいささかムッとしたようだ。


「――いらないのか」


 引っ込めようとした手をパッとつかんだ。


「いいえ、ありがとうございます」


 せっかく相手から仲良くなれるチャンスを作ってくれたのだもの。無駄にはしたくない。


「……小さいな」

「え?」


 私の手を握る彼から戸惑いが感じられた。


 確かにイザークの手と比べたら、子供みたいかしら。


 ギュッと握った彼の手はすごく大きくて、ごつごつしている。それに――。


「すごく硬いですね」


 マメが出来ているのは、日頃から剣を握っている証だろう。私は感心したつもりだったが、イザークの表情が曇る。


「すまない。こんな手では痛いだろう」

「いえ、大丈夫です。日頃、真面目に訓練している努力の証ですわ」


 長年の結果だろう。数日でできるものではない。


「この手で北部を守っていらっしゃるのだから、自信を持ってください」


 彼の顔を見つめ、静かに微笑む。イザークは小さくたじろいだが、ギュッと手を握り返した。


「さあ、行きましょう」


 訓練中だった彼をあまり振り回してはいけない。


 だから少し案内してもらったら、彼を解放しようと思った。だが思いのほか、イザークはいろいろ案内してくれた。大きな図書室に宝物庫などにも連れて行ってくれた。


「あの建物はなんですの?」


 私はずっと前から気になっていた、敷地内にあるのだが、離れの建物について聞いてみた。


「ああ、あそこは真冬に豪雪になった場合、街の人々が一時的に住む場所を提供しているんだ」

「まあ、そうなのですね」


 確かに各自の家で過ごすより、大きくて立派な建物に避難すれば、安心していられるだろう。


「行ってみるか?」

「ぜひ」


 私はイザークの案内のもと、建物へと足を進める。イザークは鍵で扉を開けた。


 中からは湿気とカビの匂いがした。


「しばらくここも使っていなかったからな。本格的な冬が来る前に準備を始める」


 目の前にある螺旋階段を上ると、大きな暖炉がある居間に到着した。長いテーブルがずらりと並んでいるが、ここで食事を摂るのだろう。


「壁が厚くできているから、思ったよりもずっと温かく過ごせるようになっている」

「そうなのですね」


 ウォルクの街の住人がここで過ごし、冬をしのぐのだという。


「この先はどこに続くのですか?」


 まだ長い螺旋階段の先が気になった。


「行ってみるか?」


 私はうなずくとイザークと共に先に進んだ。


 ***


 息を切らせてたどり着いた先には大きな鐘が一つあった。それ以外はなにもないが、大きな窓から見える景色はかなり眺めがいい。


「雪が続くとこの鐘を鳴らす。それを合図に人々が集まってくる」


 窓からはウォルクの街が見える。

 街に住む人々はこの鐘の音を頼りに、やってくるのだろうか。


「――最近、街で炊き出しをしていると聞いた」


 ロゼールから話は聞いているのだろう。私は静かにうなずいた。


「ウォルクの街は表通りは栄えていますけど、裏通りは貧しい人たちの姿が目につきます。彼らが生きる気力を取り戻すには、まずは食事を提供しようと思ったまでです。あなたに許可もとらずにごめんなさい」


 勝手なことをしたと怒られるかしら?

 持参金と南部から持ってきた食糧を使っているのだから。


 イザークがどう出るのか想像できず、お腹にグッと力を入れた。

 真っすぐに私を見つめるイザークはゆっくりと口を開いた。


「――いや、感謝している」


 意外な言葉が聞こえたので、目を見開いた。

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