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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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「魔物の奇襲にばかり気を取られて、そこまで気が回らなかったのも事実だ。本来なら、南部からきたあんたが気づく前に我々がやるべきだった」


 イザークは素直に私の行動を褒めてくれた。嬉しいと思うが、やっぱり私はまだ彼にとっては南部の人間、という物差しなのね。


 まだまだ彼と親しくなるには、先は長いということだろう。


「私も楽しんでやっています」


 別に苦労しているつもりはない。私が直接動いたのは最初だけ。最近は人を雇い、お金を出しているだけだ。


「それに私、お金だけはたくさんありますので!」


 顔の横で指を丸め、ジェスチャーして見せる。最初、イザークはあっけに取られ、目を丸くした。


 はしたないと、あきれているのかしら。


 だが噴き出すと、口元を手で押さえた。


「……確かにな。さすが南部の侯爵家は富豪だな」


 えっ、今褒められたのかしら?


 調子に乗った私はイザークに宣言した。


「これからもじゃんじゃん使いますわ。お金がある方が使うからこそ、経済が回るのですし。私が使わなくて誰が使うというのですか」


 昔から物欲があまりなかったので、持参金を福祉に使うことに抵抗がない。むしろ自分のことより、北部の発展の方が優先よ。それが使命のように思えた。


「せっかく縁あって北部に来たのですから、自分のできる範囲で動きたいだけですわ」


 お腹を空かせた人たちが嬉しそうに食べる一杯のスープ。その笑顔を見ているだけで、幸せになれる。


「これからも、行動していいですか?」


 一応、イザークに確認を取る。あとから知らなかったと責められては困るから。


「好きにするといい」


 イザークは腕を組み、フッと微笑む。


「どうせ止めてもやるのだろう?」


 そうよ、やりたくなったら行動に移してしまうものね。


「ええ。これからもじゃんじゃんお金を落としますので。お楽しみに」


 どうせ使いきれない私のお金。だったらこの北部にすべて費やそう。それにもし、お金が必要になったら、私が資金を作ってもいい。実のところ、それだけの力を持っているのだ。


「それこそ、ロゼールにもたくさん手伝ってもらいました」


 人を集めてくれたのも全部彼のおかげ。私はお金を出しただけだ。


「炊き出しも、彼がいたからこそ実現したことです。最近ではよく傍にいてくれて、まるで私の護衛騎士みたいだねって、ドリーと話していて……」


 ロゼールの名前を出した途端、それまで微笑んでいたイザークが固まった。


 あっ、これは勝手に護衛騎士だと発言したのがまずかったか。彼はイザークの大事な部下だというのに。


「ロゼールを勝手に振り回してごめんなさい」

「……いや、いいんだ」


 その割にはどこか納得していないような声を出すじゃない。イザークは口に手を当て、考え事をしているのか険しい顔で地面を見つめている。


 さきほどまで和んでいた雰囲気だったのに、今では微妙な空気が流れていることに焦った。


 やはり、彼の大事な部下を私用で使ったことが面白くないのだろうか。だがもうしばらく、ロゼールを貸してもらわないと私は困る。


「あの……」


 声をかけるとイザークは顔をパッと上げる。


「今後もロゼールに協力していただけますか?」


 食堂の運営が軌道に乗れば、彼を解放できる。


 両手を組み、彼の顔をジッと見つめる。


「……お願いします」


 彼は私に見つめられ、ウッと言葉に詰まる。


「いいだろう」


 やった、彼の了承を得た私はウキウキした。


「ありがとう!」


 イザークの手をガシッとつかんだ。


「彼は人と接するのが上手ですので、人を集めるのに長けているのです。人脈もあるのか、彼のもとには人が集まってくるので、とても助かっています。もうしばらく、食堂が軌道に乗るまでお手伝いしていただきたく思います」

「わかった」


 イザークは私の勢いに若干引き気味に返答した。


「――ロゼールは人を惹きつける不思議な力がある奴だからな」

「そうですね、優しいし、気が利くし。一緒にいると楽しくて、私ずっと笑っている気がします」


 ロゼールはよく冗談を口にするので、そのたびに笑顔になる。脇でドリーが冷めた目でロゼールにツッコんでいるが、そのかけあいもまた、面白いのだ。


「……楽しい? ロゼールといると?」

「はい、とっても」


 満面の笑みで答えるとイザークは横を向き、険しい表情を見せた。やがて私を真正面から見据えた。


「俺は……?」

「えっ?」

「俺とはどうなんだ?」


 イザークはごくりと息を呑んだ。


 思ってもみなかった質問に、私は目を丸くした。

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