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「わ、私たちはただ、ミーシャに従っただけです」
「そ、そうです、彼女がわざと冷めた食事を出しましょう、って……」
メイドたちの発言を聞き、
「そうなの?」
私の表情がパッと明るくなる。彼女たちはコクコクとうなずいた。
「なら、良かったわ。北部の食事はこれが普通なのかと思ってしまったじゃない。そこまで食料はひっ迫していない、ということかしら?」
少なくとも朝食にこげたパン一つじゃないことに安堵する。
「はい、いつもはスクランブルエッグやベーコンなど添えられています」
嬉々として語るメイドだが、私に対して意地の悪いことをしたと、堂々と認めているような発言だ。
「それは良かったわ。北部はこの食事が普通なほど、貧しいのかと心配したわ」
ともあれホッとした。
「だから、皆の栄養が足りなくて痩せているのかと思ったの」
私はメイドたちの胸を見回した。背が高くスラッとしているが、圧倒的に肉が足りない。
「でも良かった、その胸は自然なことなのね。ちっとも肉がついていないから心配してしまったわ」
メイドたちは皆、遠い目をしていた。やがて黙って力なく、うなずいた。
「シャルロット様、無邪気なボディブローはそこまでにしてください」
それまで黙って控えていたドリーが口元を手で押さえ、笑っていた。
私とドリーの間を和やかな空気が流れたので微笑んだ。
だが、次の瞬間、ドリーは厳しい声を出す。
「お前たち、なにをしている。突っ立っていないで、シャルロット様に朝食をお出ししろ」
厳しい声色を聞いた三人はすぐさまダイニングの奥に引っ込んだ。
「ふぅ。やっと朝食にありつけそうね」
椅子に座り、一息ついた。
「ええ。それでは朝食後、すぐさま封書をインペリア国王へお出ししましょう」
「え、出さないわよ?」
私が言ったことで、ドリーは不服そうな顔を見せる。
「この結婚に反対しているのは、ミーシャ一人ではないはずよ」
いったい、南部出身の私をどれだけの人が良く思っていないのだろうか。
結婚相手であるイザーク本人が一番、納得していなさそうだし。
「それに国王への封書は、もっと効果的な時に出させていただくわ」
ドリーの目を見つめ、にっこりと微笑んだ。ドリーはやれやれといった様子で大きく肩を下げた。
その後、食事が運ばれてきた。
熱々のスープにスクランブルエッグに分厚いベーコン。そして柔らかそうなクロワッサン。
「さあ、いただきましょう」
私はにっこりと微笑み、食事に手をつけた。
そして朝食後、早速街へ行く準備をした。善は急げといいますし。早い方がいい。
準備をしていると扉がノックされた。返事をすると顔を出したのはロゼールだった。
「おはようございます」
「あら、ロゼール」
彼もイザークと一緒に魔物討伐に行ったと思っていたので、訪ねてきたのは正直意外に思った。
「今日も街に行くとお聞きしました」
「ええ、準備をしていたところ。でも、どうしたの? あなたも討伐に行ったとばかり思っていた」
「はい、自分もそう思っていたのですが、イザーク様からシャルロット様と街へ行くように言われましたので、今回は居残りです」
つまり、イザークは私のためにロゼールを残してくれたのだ。
「ありがとう。とっても助かるわ。今すぐ行くから、西門に馬車を準備してて欲しいの。用意ができ次第、私たちも向かうから」
「はい、わかりました」
ロゼールに指示したあと、パタンと扉を閉めた。
「いいのですか?」
「なにが?」
「あの男、きっとイザーク・カロン侯爵に告げ口しますよ」
「別に構わないわよ。悪いことをしに行くわけじゃないし」
「……まあ、そうなんですけどね」
ドリーはロゼールに対して、思うところがあるみたいだ。
「大丈夫よ。私がなにをしても、きっと興味がないと思うから」
ドリーに向かって微笑んだ。




