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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第二章 北部の発展を目指して

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 イザークはワイングラスを片手に無表情で私を見つめている。そして目が合うと、戸惑ったように視線を逸らす。その頬はほんのりと赤くなっているのだから、酒に弱いのかもしれない。


 でも、お酒に酔っているなら、ちょうどいい。話すことで本音をこぼしやすくなるかもしれない。


 父はお酒を飲みすぎて、饒舌になるタイプだったし。

 彼はどうなのかしら。


「あ、そう言えば――」


 前にドリーと話したことを思い出した。イザークは静かに耳を傾け、話の続きを待っているようだった。


「まだお若いのですから、そう気に病むことはないと思いますけど……」


 私は口にするべきか迷った。だが、北部の未来のことだから、伝えておいたほうがいいだろう。いろいろな選択肢があることを知ってもらいたい。


 万が一、悩んでいたのなら力になりたいし。

 イザークはなにを言われているのか、理解できていないような顔をしたあと、ワイングラスを傾けた。


「あなたがお悩みでしたら、南部のいいお医者様をご紹介できますわ」

「なんの?」


 眉をひそめたイザークに小声で告げる。


「男性の下半身不調ですわ」


 イザークはすぐさま、ワインを噴き出した。


「なっ……」


 真っ赤になって焦った顔が、少し幼く見える。


「治療を始める気になったら、言ってくださいね! 南部に向けて手紙を書きますから」


 両親のつてをたどれば、すぐにでも診察できるだろう。


「な、な……」


 動揺して手をプルプルと震わせている様子を見るに、先走りすぎちゃったかな。


「早とちりをしていたら申し訳ないです。もしや恋愛対象は同性だったりしますか?」

「どうしてそこまで話が飛ぶんだ!!」

「ごめんなさい。私としては良かれと思ったのですが、デリケートな話題ですものね。踏み込みすぎました」


 詰め寄りすぎたと反省した。

 イザークは頭をグシャグシャとかきむしると、盛大なため息をついた。


「なんなんだ……。まったく調子が狂う」


 どうやら私の存在がイザークの日常をかき乱しているみたいだ。


 もう余計なことは話さないことにしよう。ナイフとフォークのこすれる音だけがダイニングに響く。

 イザークの叫んだ声に驚いたのか、使用人たちは遠巻きに見ているだけだ。


「――俺は別に病気なんかじゃない」


 ポツリとつぶやいた言葉を聞き、ホッとした。


「まあ、良かったですわ」


 カロン侯爵家の断絶の可能性が下がった、ということだ。


「日々元気なようでしたら、安心しましたわ」

「誤解を招くような言い方はやめろ」


 イザークは赤い顔で叫ぶ。


「ついでに言うと好みは同性じゃない」

「そうなのですね」


 男性機能も問題ない、恋愛対象も女性だとくれば、私と初夜を迎えなかった理由が思いついてしまった。


「それならば、よほど、私のことは趣味ではなかったのでしょうね」


 本当に好きな人がいて、その相手に操を立てたのかどうかわからないが、初夜を迎えて手を出されなかったというのは、そういうことだ。


 するとイザークが弾かれたように顔を上げた。


「違っ、それは――」

「いえ、気にしないでください」


 彼は焦った様子だったが、別に責めるつもりはない。だってそれは仕方のないことだから。


 王命結婚の相手が気に入らなくて初夜を迎える気がなかった、ただそれだけのこと。

 食べ物の好みもあるように、女性の好みもあるのだろう。


 イザークは急に黙り込んでしまった。どうやら言いたくないらしい。なら、問い詰めるのはよそう。


「それはそうと、明日も街に行きたいので、ロゼールを貸していただけますでしょうか?」


 名指しで指名すると、いささかムッとしたようだ。こめかみがピクリと動いた。


「あいつが、なぜ? どうしてあいつなんだ」

「今日、一緒に過ごして、とても楽しかったからです」


 ロゼールは思いのほか、よく働いてくれた。それにテキパキと動き、気持ちがよい。気遣いもできて、会話も弾む。私はロゼールを高く評価していた。


 名義上、夫であるイザークよりも、今のところロゼールの方が親しいんじゃないかしら?


 そんな風に思え、クスリと笑った。

 それに私を手伝ってもらわねば困るのだ。


 イザークは両腕を組み、なぜか不満げに顔をしかめた。

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