第四話 優一、初陣す 2/4
本日二回目の更新です。
読む順番にお気をつけください。
二十分ちょっとのドライブを過ごし、僕たちは真宮高校の近くまでやってきた。
実はここ、前身の学校がセティこと光太郎ひいじいさんの出身校だったりするんだけれども、当時から場所が変わってるからそれは伝えてない。
そんな真宮高校の周りは、東西南北余さずほとんどが住宅街である。だから小さい道があちこちにあるし、場所によっては一方通行のところもある。
つまり車で移動するには向いていない地域だ……ということで、車は近場のスーパーに停めさせてもらった。帰りに買い物するから、許していただきたい。
今はスマホに例のニュース番組の映像を停止した状態で表示させ、トカゲの悪魔が目撃された場所を探して歩いていたところだ。
この辺りの土地勘はないものの、画面には高校というわかりやすい目印が映っていたおかげで、比較的簡単に目的地に着くことができた。
マジでクソ暑いから、あっさり見つけられてラッキーだ。早速そこが見える日陰に移動する。これでも暑いは暑いけど、日向よりはマシ。
とはいえ、肝心のトカゲの悪魔の姿は見当たらない。そりゃあナマケモノならいざ知らず、普通の生き物はずっと同じ場所に留まりはしないよなぁ。
「で、ここからどうする? 手がかりになりそうなものなんて、特に見当たらないけど」
「任せとけ。こういうときのために使う、とっておきがあるんだ」
セティが汗をぬぐいながら取り出したのは、拳大ほどの黒い魔導石だった。僕が見せてもらったことのある魔導石の中では、ダントツに大きい。
その中には何やら時計のような紋様が刻まれており、魔法を生み出している刻印……魔法式とやらが石全体にびっしりと刻まれている。このサイズでこれは、相当に強力な魔法が使えるに違いない。
僕の推測は過たず、情報収集という面において破格の効果を持つ魔法が告げられた。
「こいつに刻まれた魔法は『リプレイ』。その場所周辺の過去の光景を見ることができる、という優れモンだ」
「おお……推理モノ殺しの魔法だ……」
なんて思わず口にしたものの、その有用性はすさまじいの一言だ。敵の情報をかなり一方的に抜けるなんて、あまりにも強すぎる。
ただ、こういう強力なものというのは、何かしらデメリットがあるのが世の常だろう。そう思って聞いたところ、案の定だった。
「昔であればあるほど、映し出すのに多くの魔力が必要でな。昨日、おとといくらいならまだしも、一週間、一か月となってくると洒落にならねぇ消耗を強いられちまうんだ」
「ああ、やっぱりそういう制約はあるんだな。それは下手に連発できないね」
「あとは……そうだな、この世界ならではの短所が一つある」
「ふむ? 地球ならではの?」
「ああ。過去の映像を見るって言ったが、正しくは過去の光景を現在の空間そのものに映し出す魔法なんだよ。つまり周りにいる人間、全員に見えちまうわけでな」
「……なるほど大問題だ」
思わず眉間に手を当てる。
総人口一億人以上、というのが現代日本社会だ。愛知県は首都圏ではないし、その愛知県内においても真宮市は名古屋市ほど大きな街ではないけれども、相応の人口がいる都市であることは間違いない。
ましてや今僕たちがいるここは、真宮市の中枢にかなり近い。平日、かつ通勤時間も過ぎたところではあるけれど、人の目なんてどこにでもあると言っても過言ではないだろう。
なんなら、どう見ても小学生なセティを連れて歩いている今現在ですら、ちょっと冷たい視線を受けているような気すらするのだ。
そんな中、しかも天下の往来でいきなり映像の空中投影ショーなんてやろうものなら、悪目立ちどころの騒ぎじゃない。
「俺の魔法で空間を区切っちまえば周りからは隠せるから、組み合わせてなんとかするしかない。ただそうなると、俺は探索中ずっとディメンションを使い続ける必要があるわけだが……」
「……まだ調子は戻ってないもんなぁ」
「ああ。普段ならこんなことで悩まないんだが……こうも魔力を出せないとなると、どうしてもなぁ」
僕たちは同時にため息をついた。蝉の声がうるさい。
セティは改めて試すように、手のひらを上向きで前に出して魔力を動かして見せた。けれど素人の僕から見てもわかるくらい、その魔力の量は少ない。おまけに動きが鈍いと来た。
そう、現在セティは魔法があまり使えない。その大元となる魔力をあまり出せない状態なのだ。
より正確に言うなら、出力が安定しないと言ったほうがいいか。時折思い出したかのように、かなりの量の魔力が動くことがあるから。
原因はもちろん、二連続の過剰励起だ。魔力枯渇に陥った直後にすぐ過剰励起をするのは、本当に身体や体内の魔石にめちゃくちゃ負担をかけるらしい。
この件については、セティにそれを強いた原因の一部が僕なので、あまり強く言えない。言ったとしても、あれは必要なことだったからとセティは頑として謝罪を受け取ってくれない。
既にそのやり取りはしていて、また蒸し返したところで同じことにしかならないから、もう一度言うつもりもないけれど……。
セティの魔法はどちらも強力で頼もしいだけに、すごくもったいないと思ってしまうことは許してほしいなぁと思うなどする。
「……ま、どっちにしても俺は一定以上魔力を温存しておく必要がある。要所要所で少しだけ使う形で、なんとかやりくりしていくしかねぇだろ。リプレイ自体、お前のほうが相性がいいしな。……つーわけだから、任せたぞ」
「任された。ま、そこはうまくいくようお天道様にでも祈っておくとするか」
なぜセティが温存しておかなければいけないかについては、そのときが来たら語るとして……今はひとまず、トカゲの悪魔を追うほうが先決だ。
セティも同意見のようで、僕に魔導石を渡してきた。セティが空間を区切る。僕が「リプレイ」を発動させる。役割分担だ。
……少しドキドキするな。僕も自分の魔法には目覚めているけれど、まだ魔法を使うという行為は非日常なものでね。
「いちにのさん、で行くぞ。いいな?」
「ああ、任せてよ」
セティに応じて、僕は体内の魔石を励起させる。すると胸の中の魔石が生み出す魔力が一気に増え、体内を駆け巡り始めた。
僕なりのイメージとしては、待機状態にしていた電化製品の電源をオンにする感じかな。普段から少量の魔力が体内を巡っているけれど、オンにすることでそれが増加し色々と機能が使えるようになる……と言ったところだ。
「行くぞ……一、二の……三!」
そうしてセティが掛け声を上げ、僕はセティと同じタイミングで魔導石に魔力を流し込んだ。
すると次の瞬間、本能的に魔法の使い方が理解できた。その理解に従う形で、見たい過去のタイミングを頭の中で設定する。
直後、セティが区切った空間内の景色が変わった。今は朝であるはずなのに、夕方の光景が目の前に広がったのだ。
より具体的に言うと、完全に切り替わったわけではない。リプレイの魔法が映し出しているものは半透明だから、今実際の景色が重なっている、というのが正しい。
「いたぞ、あそこだ」
そんな中の一か所を、セティが指さした。ニュースでやっていたのと同じ場所に、同じようにトカゲの悪魔の姿が見える。
が、動く気配がない。このまま動き出すのをただ待つのは色んな意味でもったいないから、タイミングを調整しよう。
リプレイ、というからには早送りや巻き戻しはできてしかるべきだよな?
「……まーたお前は、教えてもいないことをさらりとやってのけやがる……」
「いやー、これに関してはむしろ、現代人としては当然の発想だと思うよ」
なんて会話をしている間に、トカゲの悪魔は動き始めた。魔法をとめた僕たちは、すぐにそれを追跡する。
そうしてトカゲが移動した先、と思われる場所でもう一度魔法を発動。これを繰り返して、トカゲの悪魔の行方を追っていくのだ。
とはいえ、トカゲの悪魔に急いでいる様子はなかった。ブロック塀の上やそこら辺の道を、適当にぶらぶらと歩いているようにしか見えない。
ただ、時折立ち止まっては周囲の様子をじっと眺めている姿には、一抹の不安を覚える。
まるでこの世界のことを観察し、自分なりに覚えて消化しようとしているように見えるのだ。あるいは、行き交う人々を品定めしているようにも。
そこにどういう感情があるのだろう。リプレイの映像では内心まではわからないし、そもそもトカゲの悪魔の内心が存在するのかどうもわからないから、感情も何もないかもしれないけれど。
そんな気持ちでトカゲの悪魔の移動を追跡すること、十数分。移動距離、わずか五百メートル程度のところで問題が起きた。
暑い? うん、それもそうだね。暑さ対策は十分してきたつもりだけど、十時前でもうこんなに暑いとは思わなかった。普段デスクワークばかりだから、少し甘く見ていたかもしれない。
ただそれではなく。なんとトカゲの悪魔が、道脇の側溝に入り込んだのである。蓋板の一部が割れていたのだ。
思わずセティと二人揃って、「あっ」って言ってしまったよね。小型じゃないにせよ、トカゲの身体なら確かにそこ入れるよなぁ……! ってなった。
「仕方ねぇ、蓋板開けるぞ。リプレイ展開してる今は、どっちみちに周りから見えないからな」
「それしかないか……やれやれ、この暑い中重労働とはね」
そういうわけで、急いで蓋板を開けて追跡を試みる僕たちである。
過去の映像をそのままそこに投影するものだから、物理的に遮られていると見えないのはこの魔法の弱点かもしれない。
……のだけれど、僕たちはこの作業をすぐに中断せざるを得なくなった。トカゲの悪魔ときたら側溝をまっすぐ進み、そのまま暗渠の中に入っていってしまったのだ。
「……うーん、真っ暗。これはさすがにダメじゃないか?」
「そうだな……口惜しいが、水深もありそうだし中を進むのは現実的じゃねぇな」
側溝の先に向けたライトが照らす暗渠を二人揃って覗き込みながら、そんなことを言い合う。
別に、中に入ること自体はできるんだよ。確かに僕が入るには狭いけど、魔力にものを言わせて暗渠を破壊して中に入る、という力業もあるし。
たがいかに魔力で身体能力を上げたとしても、暗渠の中を進むのは危険だろう。明かりが一切ない上に結構な水量があるから、うっかり足を取られようものならそのまま溺死しかねない。壊した場所の後始末も面倒だ。
となると、今日はここまでかな……と思った僕の横を、中型の車が通り過ぎていく。ゴミ収集車だ。
道の脇に停車した車から、帽子をかぶった作業着の男が二人降りてきたけれど、すぐ真横で側溝に踏み込んでいる僕たちに気づく様子はない。
そのまま彼らがゴミに向かう様子を眺めつつ、僕はセティに声をかける。
「……手がかりはなくなったわけだけど、この後どうする?」
「念のためここでもう少しリプレイだ。途中で引き返して来てるかもしれねぇだろ」
「あーなるほど、その可能性もなくはないね。わかった、早送りで少し回してみようか」
とはいえ、魔力は有限。ずっとここでリプレイし続けるとなると、現状の僕たちじゃ不安が残る。
何せ方や魔法に目覚めたばかり、方や魔力の出力が不安定と来た。二人の魔力がもつかどうか。
あと何度も言っているけど、マジで暑いんだよ。現代の真夏、しかも屋外の日向で何十分も立ちっぱなしは、普通に拷問だ。日差し自体はセティの魔法で遮れるけど、温度自体はどうにもならないんだ。
「これだけ暑いとなると、悪魔どもも昼間は動けねぇかもな……」
「朗報って言っていいのかい、それは?」
なんてことを話しつつ、ここでのリプレイは十数分ほどで済ませることになった。それだけでも、早送りであればたっぷり三時間近くの経過を観察することができるみたいだから、なんとか頑張ろう、ということだ。
そうして昨日の様子を、二人でじーっと眺めて少し経ったときのことだった。
「おい何やってんだ、やめろって!」
「うるさい邪魔しないでくれ!」
「「!?」」
近いところから突然、二人分の大声が聞こえてきた。僕たちが慌ててそちらに目を向けてみればそこには、今まさに吹き飛ばされて地面を転がるゴミ収集作業員のおじさんが。
一体何事だぁ!? と僕は思わず硬直してしまったけれど、セティはそうじゃなかった。慣れているのか、すぐさま僕に向けて鋭く声を飛ばしてきたのだ。
「優一、一旦魔法を切るぞ。魔石も待機しとけ。すぐにまた励起させることになるだろうがよ」
「え、あのケンカをとめるってのか?」
「バカ野郎、魔力の気配がするんだよ! 魔導士だ!」
「!? 了解!」
魔力の気配なんて言われても、僕にはまったくピンと来ない。しかし長年魔法に携わり、悪魔たちと向き合ってきたセティが言うなら、間違いないんだろう。
ということで彼女に従い、リプレイを解除。体内の魔石も待機状態へ移行させる。
同様に動いた彼女がゴミ収集車のほうへ駆け寄ったので、僕もそれに続く。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……自分はなんとか……けど、一体全体あいつはどうしちまったのか……」
まずは、地面を転がされたおじさんを起こしながら声をかける。
おじさんは痛みに顔をしかめながら首をひねっていたけれど、すぐに別の理由で首をひねり始めた。それについてはセティが無言、かつこっそりと発動させたタイムの魔法で治療したからですね。
しかし……どうしちまったのか、か。
さもありなん。今僕たちの前では、一人の男性がゴミ袋を片っ端から開けているのだ。
「クソッ、クソがッ! こいつもだ! どいつもこいつも、きちんと分別しやがれ!! ゴミを集めるおれたちの身にもなれってんだ!!」
おまけにそんなことを言いながらだ。どう見ても普通ではない。
今も血走った目でガチギレしながら、男はゴミ袋から複数に細かく破られた段ボールを引っ張り出している。
いやその、気持ちは、気持ちはわかるんだよ。うん。
何せ段ボールは資源ゴミだからね、燃えるゴミとして出すものじゃない。よっぽど汚れていたならともかく、きれいな状態……となれば、分別してしかるべき。
なのにごちゃまぜに扱われるのは、ゴミ収集する側の人からしたら腹立たしいだろう。処理場の人も、手間が増えていい気はしないはず。
「これもだ……! いい加減にしろカスどもがよぉ!!」
次に男が取り出したのは、ボックスティッシュの箱。それはいいんじゃ……と思ったら、取り出し口についているビニールのヒラヒラを引きちぎって親の仇みたいににらんでいる。
その程度で? と思われるかもしれないけれど、プラスチックも汚れがひどいなら燃えるゴミでもいいけどそうじゃないなら資源ゴミ、ってのが分別ルールなんだよな。彼のリアクションは間違ってない。ただ大げさってだけで。
……魔石の意思に乗っ取られ始めると。それも制御装置なしだと、ここまでタガが外れるのか。
素直にゾッとする。こうして客観的に見ると、魔石というのは本当にすごい怖い代物なんだなって改めて思う。
何が怖いって、こうやって明らかに周りから見てもヘンだと思える乗っ取られ方ならともかく、異常性を隠せる乗っ取られ方をした場合だよ。きっとそういう人が、最終的に悪魔になるんだろうな……。
と、僕がそんなことを考えている間に、セティがおじさんを連れて端のほうに移動してくれた。このままだと確実に巻き込まれるからね。
打ち合わせ通りなら、ついでにある程度の説明をしてもらうことになる。できるかどうかは、これからあの男がどういう風に動くかでも変わってくるけれど。
いやあ、判断が早い。普通に気づくのが遅れたよ僕は。この辺りはやはり、経験値の差なんだろう。
「『ディメンション』!」
そして僕が呆れ半分感心半分で少しぼんやりしている間にも、セティは着々と動いていく。再び空間を操る魔法によって、周辺が現実世界から切り離された。
ただし先ほどまでやっていた、単純に周りから見えなくなる程度の簡単なものではない。実空間とは完全に異なる亜空間が形成され、その中に僕とセティ、おじさん、魔導士の男……あとついでにゴミ収集車とそこら辺のゴミが隔離されたのである。
これもまた、打ち合わせ通りだ。こうやってセティが作り出す亜空間内に相手ごと入ることで、どんなに激しい戦闘をしても周辺に被害は出ないって寸法さ。セティに魔力を温存してもらう必要があったのは、これが理由の一つだ。
他にも、やむを得ず周りに被害が出たときにタイムの魔法で元に戻すためというのもある。現実はアニメや特撮と違って、敵を倒して終わりじゃないから……。
ただ、今回ディメンションで隔離したのは、騒ぎを起こさないためってのもあるかな。
何せさっきまでいた場所、住宅街の中だったからね……。騒ごうものなら、野次馬が集まってきても不思議じゃない。ましてや通報なんてされようものなら、というわけだ。
一人ついてこれていないおじさんは、あちこちを見回して怯えているけれど。そっちについてはセティ、任せた。
「よし。それじゃ打ち合わせ通り、あとは任せるぞ優一」
「オーケー任された」
何せ僕の役割は、そこにないからね。
場を整えること、巻き込まれた人を守ることがセティの役割なら。
対する僕の役割は、彼女に代わって悪魔や魔導士と戦うことなのだから。
前の話でやけにゴミの話をしたのはこの伏線だったりして。
地域ごとにゴミの分別ルールが違うっていうのは、結構盲点というか案外気づかないですよね。
ボクも大学時代地元を離れて初めて知りましたが、結構差があってびっくりしたのを覚えています。
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