26-14
2月25日。
いまいち気の休まらない休暇となってしまった冬の休暇も、今日が最終日だ。
「そういや、帰りも車借りていいのか?」
「さすがにそれはやめてくれって言われた。伊豆の中で乗り回すのはともかく、東京まで取りに行くのめんどいんだとさ」
俺たちに唐突に降りかかってきたのは帰りの足という問題だった。
元々の予定では下田から電車で帰る予定だったのだが、今回のトラブルで急遽韮山への避難を余儀なくされたことで旅程が完全崩壊してしまった。
そのせいで帰りの足について一切考えていなかったのである。
「電車で帰るか?でもあんな事の後だし、一緒に乗るのはなー……」
俺と木栖を襲ったインターネット大暴露事件はようやく鎮火したが、2人で行動してると見つかった時が面倒そうだ。のんびり帰らせて欲しい。
「じゃあ、違うルートで帰るか?」
「それなら都合は良さそうだな。あ、でも見つかった場合なんで別行動してるんですか?とか聞かれるか」
「お前は仕事の都合で一足早く帰ることになったけど、俺は少し余裕があるから寄り道という事にしたらどうだ?」
「採用。となると、お前が下田まで行って車と別荘の鍵返しに行くのが都合がいいか?」
さすがにそこら辺の駅で乗り捨てて盗まれても困るので、先輩の家族や秘書の人が居る下田で預かって貰うのが安全だろう。
ペーパードライバーの俺が借りた車で見知らぬ道を走って事故なんて起こしたらそれこそ洒落にならないので、車を返しに行くのは全面的に木栖に任せることになる。
木栖は特に気にしたそぶりもなく「大丈夫、それでいい」と言う。
ちょっと木栖の負担が重すぎる気もするが、俺がペーパーなのはどうしようもない。
「ついでに夏沢たちへのお土産でも見繕っておくさ」
「じゃあお土産代とガソリン代託しとくから、残りはお前の小遣いにしてくれ」
木栖に津田梅子札と一緒に車と別荘の鍵を託す。
俺はこの後、近くに来るバスで韮山駅から帰るのでここでお別れだ。
「金羊国でまた会おう」
*****
知らない街の知らない電車というものはどうにも落ち着かない。
観光列車だとか新幹線ならまだしも、1人で知らない電車に乗る経験は俺の圧倒的に不足している体験だった。
冬の田園を走り抜ける電車の中は地元の高齢者や若者で賑わい、いつも乗る高崎線とはどこか違う匂いがした。
窓の外に目を向けると富士山が遠くに見えた。
別荘からも見えたが不思議と見飽きることの無い美しさがある。
けれども電車に乗る地元民はすっかり見飽きているようで、スマホや雑談に夢中なようなのがどこか地元民ゆえの贅沢さを感じてしまう。
もしここに、母や木栖がいたらどんな話をするだろう?
そんな事がふと頭をよぎる。
けれど一つだけ分かるのは、きっとそんな他愛もない話を母も木栖も笑って聞いてくれるだろうということだ。
他愛もない馬鹿話を飽きずにできるという事は幸せだ。
もうすぐ三島の駅に着く。
木栖は今頃伊豆のどの辺りにいるのだろうか。
(まあ、その話はいつでも聞けるか)
今の俺たちは偽りの恋人ではないのだ。どうでもいい話をする余裕なんていくらでもある。
他愛もない話は、帰ってからのお楽しみ。
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