第六話 筋肉、話を聞く
夜、寮の食堂は盛況だ。
一番人気のメニューは『セド風オニオンカレー ~虹豚のカツを添えて~』だ。セド諸島出身のシェフ渾身、門外不出のスパイスを使って作られたカレー。その上にサンドラ固有種である虹豚のカツを乗せた絶品料理だ。 マハトとテオが食べていると食堂がざわつく。
「お、おい、あれって……」
「なぜこんなところに……」
「なんだあの格好……」
RPGゲームで最初に小銭をくれる王様のようなマントを羽織った男が近づいてくる。
「きみがマハト君だね。ついてきてくれ」
スプーンを持ったっまま固まっているテオには目もくれず、食事中のマハトを強引に連れ出した。
着いた先は、おそらく上級寮にも負けないであろう豪華な家具や絵画、広さを誇る部屋であった。
「ここは生徒会長室。そして僕がこの学園の生徒会長、フィル・クレリックだ」
この学園を牛耳る生徒会。その権力は理事長に次ぐとも噂されている。
「君が学園に来て一週間。活躍は見せてもらったよ。昨夜の模擬戦も見事だった」
「……通報したのはアンタか」
「そう殺気立たずに。君たちに攻撃を仕掛けた奴らは所詮B組の出来損ないだ。彼らを退学にして学園の風紀を守ろうとしただけさ」
「……」
「おっと、彼女はエライザ。僕の秘書だ」
フィルの隣に立っている女性が会釈をする。
「……用件はなんだ?」
「君は、この世界をどう見る?」
「……」
「魔物が跋扈し、人間の生活を脅かす。しかし政府は魔王を討伐する動きを見せない」
「……」
「おかしいと思わないか?人々は魔法を身につけたが均衡を保っているだけだ」
200年前、魔王討伐を目指す者は数多く存在していた。魔法使いだけでなく戦士、武闘家、騎士……様々な役職があった。魔王が討伐され束の間の平和の後、新しい魔王が誕生し、政府は魔法一極化を指示したのだった。
「まもなく世界は2つに分かれる」
「……会長、そろそろお時間です」
「……おっと、長々と付き合わせて悪かったねマハト君。また会おう」
そう言ってフィルはマハトを送り出した。
「会長……あまり部外者にあの話は」
「あぁ、わかってるよ。……200年前の戦士、か」
そう言って彼は窓を眺めた
◇
「あ、マハト君!せ、生徒会長と何話したの?」
寮に戻ると体が話しかけてきた。
「……いや、特に何も」
「そうなんだ……でも生徒会、しかも会長に一目置かれるなんてすごいよ!」
テオによると、現会長は1年生の頃から生徒会に入ったらしい。かつて大型の魔物がサンドラの街に入り込んだときには一撃で葬ったという伝説もある。ファッションセンス以外は超一流とのことだ。
「しかもね、ザイオン総帥に謁見したこともあるんだ!」
「ザイオン?」
「うん!え、知らないの?ザナドゥ特区で指揮を執る世界元首だよ」
世界は4つの国とその中心に位置するザナドゥ特区で構成されている。それぞれの国に魔法学校、政府、ギルドが存在している。ザナドゥ特区は例外で魔法学校を持たない。入国制限がかけられている。
「とりあえず、会長はすごい人なんだよー!」
テオが興奮した様子で話す。
「……そういえば、ヴァイスとは何者だ?」
「あ、そうか、ヴァイス君は1年生のときにいなくなっちゃったからマハト君は知らないよね。」
ヴァイスはA組トップの生徒だった。天才的な魔法使いで、生徒会入りも目前だったようだ。しかし、急に旅に出ると言って休学してしまった。そのまま2年生になったものの、学年末の試験は未受験扱いでF組に落ちてしまったらしい。
「ヴァイス君、けっこう怖がられてるけど僕はいい人だと思うよ。昔、上級生に絡まれてるとき助けてくれたんだ」
テオが語り始めた。
――――――――
「おい、1年。ちょっとジャンプしてみろよ」
「ひっ……うぅ……」チャリン
「おい、こいつ集金日なのに小銭しか持ってねぇぞ!やっちまおうぜ!」
「ひいぃ……」
テオは杖で顔をグリグリされている。
「おいお前ら、新しい魔法の実験台になってくれねぇか?」
「あ?なんだお前」
「"グラビス"!」
その瞬間、黒い玉のようなものがのしかかった。重量は100kgほどだ。
「ぐあぁぁ!わ、わかった、もうわかった!」
脱兎のごとく不良たちは去っていった。
「……あ、ありがとう」
恐怖と重さから解放され、テオは声を絞り出す。
「お前なぁ、顔をグリグリされて黙ってんなっつーの」
そう言ってヴァイスは手を差し出した。
――――――――
「……テオも魔法喰らってないか?」
「そ、そうだけど、助けてくれたのには変わらないよ!」
「まぁ、そうだな」
「と、とにかく、ヴァイス君は破天荒なところがあるけどすごい魔法使いだよ。確実に今年の試験でA組に上がるだろうね」
「試験はどんな形式なんだ?」
「1体1の模擬戦闘だよ。昨夜みたいな結界を張って戦うんだ。」
「ほう……面白そうだ」
「くじ運も大事だよ。僕、去年は強いグループに入っちゃって……」
昇級試験はいくつかのグループに分けられ総当たりで行われる。同じ組同士が食い合わないようにするため基本的に異なる組同士で戦うこととなる。
「なるほど……F組は一番不利、ということか」
「そうだね、自分より上の組と当たっちゃうから」
「……鍛えるか」
マハトは立ち上がり、テオに鉄板が入ったリストバンドを渡した。
「まずは無酸素マラソンからだ」
「……え?」
テオが肉体派魔法使いと呼ばれるのはまだ先のお話である。




