第二話 筋肉、火をつける
早朝。まだ太陽が顔を出す前の時間帯。
ランニングをするにはもってこいの時間帯でもある。
サンドラでパン屋を営むアランおじさんもその一人だ。彼は語る。
「あぁ、びっくりしたね。俺より50cmもでかい人型の物体が高速で駆け抜けていったんだから」
早朝ランニングはマハトの日課である。
王立サンドラ魔法学校に入学して初めての登校日である。
心なしか浮足立っているようだった。
「学校……か」
マハトは200年前、戦士学校に通っていた。といっても、時を止められたまま200年が過ぎたので本人としてはごく最近のことである。
◇
マハトが廊下で待機しているとHRが始まった。クラス札には2-Fと書いてある。
「それじゃあマハトくん、入ってー」
担任の女性教師が呼ぶ。
取っ手に手をかけたマハトは、戦士学校の鉄でできた重い扉をふと思い出した。
次の瞬間、木製の扉はバキバキと音を立てて木片へと変わった。
「あ……と、とりあえず中へ……」
担任の先生に促され、黒板の前に立つ。人数はざっと見渡した限り20人ほどである。
「……よろしくおねがいします」
人と話すのが苦手なマハトにとって精一杯の挨拶だった。周りの生徒はというと、あまりの身体の大きさと先ほどの破壊行動の残骸に目を奪われていた。
「じゃあ、アンナの隣の席ね」
おとなしそうな女の子は恐怖で涙目になっている。
「今日はB組と合同で炎魔法の授業ね!遅れないで行きなさいよー」
担任の言葉でHRは終わりを告げた。
◇
クラスメイトの後をついていくと外に出た。今日の授業は校庭で行われるようだ。
ひそひそと声がする方を見てみるとA組の生徒がマハトを見ていた。
「お前がウワサの転校生か」
その中の一人が話しかけてきた。どうやらドア破壊によって有名になってしまったらしい。
「体がでかいのか知らんが調子ノッてると痛い目見せるぜ」
彼はリアム。生徒の出来によってクラス分けがされているこの学園では学年2番目のB組の生徒だ。
「……」
マハトが言い返さないのは彼が所属するF組が学年の最下位クラスだからではない。自分に絶対の自信があるからだ。
「やるぞー」
炎魔法を担当する教師がやってきた。結構なおっさんである。
「チッ、命拾いしたと思うな」
リアムとその取り巻きが言う。
「今日はこれまでの復習も兼ねて実践形式でやるぞー。相手に向かって撃ってみろー」
それを聞いて生徒がざわつく。どうやら人に向かって撃つのは初めてらしい。
「先生、それなら提案があります。B組の生徒とF組の生徒でペアを組むのはどうでしょう」
リアムの提案を聞いてF組の生徒の顔が青ざめる。
「うむ、皆まだ学生だからなー。そこまで力の差は無いだろうしいいだろー」
F組の生徒はさらに青くなり、対称的にA組の生徒は安堵の表情を浮かべる。リアムに至っては興奮で赤くなってすらいる。
「じゃあ一人ずつ前出てー。せーので撃つんだよー」
実践形式ではお互いに同じ魔法を撃つ。同等の威力であれば打ち消せるが、相手より弱かった場合、下回った分だけダメージを負うことになる。
1戦目はB組、F組ともに女の子の魔法使いが出た。
「せーのっ」
「「"イグニ"!!」」
唱えた瞬間、二人から10センチ程の火の玉が発射された。ややB組のほうが大きいか。
「きゃあぁー!¥@:ぴゃ;;=」
この世のものとは思えない悲鳴を発し、案の定、F組の火の玉は消失し負けてしまった。
◇
F組のほぼ全員がアフロヘアーになり、残すはマハトとリアムだけになった。
2人が中央へと歩み寄る。
「自己紹介がまだだったな。俺はリアム。冥土の土産に教えといてやるよ」
「……俺はマハトだ」
緊張の糸がピンと張り、静寂が包み込む。
「せーのっ」
先生の声が響いた瞬間のことであった。
「"イグニス"!」
リアムは中級魔法を放った。先程までの火の玉の5倍はあるだろうか。学校ではまだ教えてないので独学だろう。
「ほう……」
マハトは考えていた。魔法を使えない自分がどうやって火の玉を相殺しようかと。
思い浮かぶ案は一つだけだ。死んでしまわないだろうか。しかしこの火の玉なら……
バッッッッッチィィィイン!!!!
彼の手から炎が吹き出し、コンマ1秒後、耳の奥底で何かが破裂したような音が周囲に響き渡った。
予備動作から予測、反応して耳をふさぐことができたのは先生だけだ。
「指……パッチン……」
そう。マハトは中指と親指を擦り合わせ、摩擦によって炎を生み出したのだ。その際に発生した破裂音で校庭にいた生徒は気を失ってしまった。
「保健室、いってきます」
マハトはアフロリアムをはじめ、火傷を負った生徒4~5人を担いで保健室へ向かった。
「彼がウワサの転校生君か。なかなかやるじゃないか」
校舎の窓から見ていた男が呟いた。




