第三話 筋肉、目標を定める
「トカレフ先生ったら無茶するんだから……」
保健室に担ぎ込まれた生徒達を見て女性は呆れる。
「"メディス"!」
彼女が魔法を唱えると生徒たちの火傷は瞬く間に治った。
「じゃあ、俺はこれで」
「待って。あなたが転校生の……マハト君ね」
マハトが立ち去ろうとすると呼び止められた。
「私はこの学校の看護師、セルシアよ。あなたも指を火傷しているみたいだからこれを持っていきなさい」
大量の氷が入った袋を渡され、マハトは寮の部屋へと帰っていった。
◇
マハトが寮に入ったのは今朝のことだった。F組の生徒が入っている寮棟は古いがなかなか広い。
コンコン
ノックされたドアを開けてみるとどこかで見たようなアフロヘアーが立っていた。
「あ、マ、マハト君。助けてくれてありがとう」
どうやら今日の授業で火傷を負った生徒の一人のようだ。
「さ、さっきのすごかったね!あんな魔法見たことない!」
「あれは魔法ではなく……」
「あ、ゴメン!自己紹介がまだだったね!僕はテオ。よろしくね」
人の話を聞かずにテオは自己紹介を始めた。
「お礼に寮の案内をしたいんだけど、どうかな」
気弱そうではあるが悪いやつではないようだ。
「よろしく頼む」
マハトはそう言ってテオの後をついていった。
◇
テオの案内で食堂、教会、図書館、売店など一通りの施設を見て回った。
「僕らには関係ないけど、向こうの建物も学生寮なんだよ」
テオによると、校庭を挟んで向かい側に建っているのがA組とB組専用の学生寮らしい。
外から見てもわかる、高級ホテルのような豪華さだ。
「この学校のシンボル、みんなの憧れなんだ」
どこか誇らしげな、キラキラした顔でテオは言う。
「学年末にある試験で上位40人に入れば向こうの上級寮に入れるんだけど、僕には無理かな……」
彼はそう言って自嘲する。
学園の長い歴史の中でF組からA組はおろか、D組以上に上がった者はいない。
今日の授業でもマハト以外誰一人としてB組に勝てなかったことが力の差を如実に表している。
「でも、もしかしたらマハト君なら……」
ふとマハトの顔を見ると微笑んでいた。
「ふふ、すまない。今年の目標が決まったんでな」
その言葉を聞いたテオは、確信に近い何かを感じたのであった。
◇
「理事長、あの生徒は一体……」
「あら、トカレフ先生。何か問題でも?」
「い、いえ、しかし、指パッチンで炎を出すなんて人間業とは思えない……」
「このまま彼をここに置いておくのは危険すぎます……」
神妙な面持ちのトカレフ先生とは対称的に、理事長は余裕の表情だ。
「まだまだ、これからよ」
何かを企んでいるかのようにそう言った彼女はどこかへと出かけた。
◇
その夜、マハトは誰もいない校庭にいた。
無呼吸シャトルランのカウントが500を超えた頃、何者かの足音が聞こえた。
上級寮から出てきたのはアフロになったリアムとその取り巻きだった。
「おい、今日はよくもやってくれたな」
「どんなトリックを使ったのかしらんが、ここで殺してやる。お前らいくぞ!」
そういった瞬間、4人はマハトを取り囲み、呪文を唱えた。
「イグニス!」
四方から火の玉が襲いかかる。
マハトはギリギリまで引きつけ、両手で4回指を鳴らした。
授業のときとは違い、相殺できる最小限の火力だったためけが人は出なかった。
ぽかんとする4人を尻目にマハトは自分の部屋へと戻っていった。
「へーぇ、やるじゃない」
昨日と同じ部屋の窓から同じようなことを同じ男が呟いた。




