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ラスボスと空想好きのユア 3 More Adventures  作者: ReseraN


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第9話「謎の少女」

 リアリティアのアクセプト寮。

 夕食時になっても、ユアは食堂へ行かなかった。


 心配し、空想組の三人が夕食を部屋まで持って来てくれた。


「ユア、帰ってから元気ないよ?」


 タハナが食事を差し出した。


「“お兄さんに会いに行く”って言ってたけど、ケンカでもしたの?」


 ラッカが尋ねた後で、タイシが明るく言った。


「まぁ、話したくないならいいよ。でも、ごはんは食べよう。食べたら元気が出て、悩みも吹き飛ぶよ!」


 友人たちに励まされ、「ありがとう……」と消え入るような声で礼を言うユア。


「ごめん、今は一人になりたいんだ。ごはんはちゃんと食べるから……」


 友人たちは気遣い、部屋を出て行った。

 腹を割って話せるまでに心を開いた友人たちだが、異世界事情はさすがに言えなかった。


(“イマストのディンフルが、美女とキスをしてた”なんて、誰も信じてくれないよな……)


 ユアはモヤモヤを抱えたまま、一人で食事を口に運んだ。

 いつもより、味を感じなかった。



 食べ終わった頃、ファンタジーフォンが鳴った。


 このファンタジーフォンは、リアリティアだけでなく、異世界でも使えるスマホだ。

 つまり、異世界の者といつでも連絡を取り合えるのだ。


 画面には、ミラーレにいるとびらの名前が出ていた。


「もしもし?」


「ユア! すぐに来て欲しいんだけど!」


「い、今すぐ……?」


 ミラーレとは、フィーヴェのようなゲーム世界とは違う、リアリティアと平行している異世界。

 とびらは同い年で、性格も似たようなドジっ子なので双子の姉妹のようなものだった。


 彼女の食い気味な様子で緊急性を感じたユアは、空になった食器を食堂へ帰すと、寮母に告げてから出て行った。



 ユアの実家同然になった弁当屋「ネクストドア」。

 もう閉店準備に入っており、のれんや看板は全部、店内にしまっていた。


 ユアが裏口から入ると、とびら、キイ、まりね、こうやが注目した。


「よく来てくれたわ! ごめんなさいね、寮も門限があるのに」


 とびらの母・まりねが真っ先に近づいた。


「寮母さんに言ったから、少し延ばしてもらえるよ。それより、どうしたの?」


「この子と話してあげて」


 とびらが、イートインスペースのイスにちょこんと座った少女を指した。

 十歳ほどで、紫色の髪を長く伸ばしており、黒いワンピースを着ていた。

 彼女は、何故かユアたちを睨みつけていた。


「遅かったな」


 少女は早速、ぶっきらぼうな言い方をした。


「電話があってから、すぐに出たつもりだけど……。てか、ダメでしょ! 年上に向かって、そんな口の聞き方は!」


「ユア、お前より年上だぞ……」


 ユアが少女へ言い方をたしなめていると、後ろからキイが水を差すように言った。


「えっ? こんなに小さいのに?」


「大きさで判断しちゃダメだよ……」


 さらに、とびらの父・こうやにも言われた。

 再び少女が長い髪をかき上げながら、口を開いた。


「この見た目で、わからないのか?」


「う、うん。あなたみたいな子、初めて会うな~」


 まだ理解出来ないユア。

 次に、少女は怒鳴った。



「俺だ! ディンフルだっ!!」



「え、えぇっ?!」


 思わず声を上げるユア。

 次の言葉が出ず、再び少女を見つめた。

 よく見ると、紫色の長い髪、青緑色のつり目はディンフルと似ていた。


 何より、口調はディンフルそのものだった。


「ほ、本当に、ディン様……?」


「紛れもなく。マントの変身でもない。あれが理由なら、とっくに戻っている!」


 ディンフルがいつも変身する時は、リアリティアでディーンの姿になる。

 よほどでない限り、幼女の姿になることも性格的にありえなかった。


「な、何で、そんな姿に……?」


「話す前に、喉が(かわ)いた。コーヒーを入れてくれ、ブラックで」


 幼女化したディンフルは話す前に、好物のコーヒーを催促した。

 まりねが奥へ行き、準備をし始めた。

 来るまでの間、彼――いや、彼女は説明し始めた。


「イポンダートの元へ行っていたら、黒い人影に襲われた。正体はわからぬ。あちらの攻撃を受けたら、こんな姿になっていたのだ」


 幼女ディンフルは、いつもの古風で硬い話し方をするが、その見た目と高くなった声のせいで、ユアは呆然としていた。


「おい、聞いているか?!」


「ご、ごめん。何か、話が入って来なくて……」


「無理やりでも聞いてくれ! これは、重大事項だぞ!!」


 幼女ディンフルがまた声を上げると、見ていたとびらがクスクスと笑い出した。


「な、何だ、とびらまで?!」


「その見た目と声で、ディンフルのしゃべり方をされると、ギャップがすごくて……」


 キイも、笑いをこらえていた。


「俺も、好きでこんな姿になったのではないっ!!」


「すまない……。ん? ディンフル、前から一人称、“俺”だったか?」


 ディンフルは、前の戦いからユア以外の人物の前でも「俺」と言うようになった。

 弁当屋や図書館の面々も、例外ではなかった。


「可愛くなっちゃって~!」


 とびらは思わず、幼女ディンフルに抱き着いた。


「コ、コラッ! 今は少女でも、中身は男のままだぞ!」


 今の一言で、ユアに衝撃が走った。

 彼女は真っ先に走り寄り、とびらを引っぺがした。


「ダメだよ、とびら! それは、私がするもんなんだから!」


「そ、そうだった。ユア、ディンフルが好きだったよね。ごめんね~」


 とびらは謝ると、幼女ディンフルから離れた。


「そこで張り合うな! 今はハグしている場合ではないだろ!!」


 ところが、ユアは抱き着こうとはしなかった。


「あれ? 抱っこしないの?」


 とびらが尋ねた。


 ユアは昼間、ディンフルがキスをしている光景を思い出してしまったのだ。

 それを察して、幼女ディンフルも何も言えなかった。


「お待たせ~」


 そこへ、コーヒーを入れたまりねがやって来た。


「……先に飲ませてもらう」


 幼女ディンフルは「いい時に来てくれた」と思うと、まりねが入れたコーヒーを息で冷まし、一口飲んだ。

 すると、すぐに吹き出してしまった。


「な、何だ、この苦さは?!」


「コーヒーなんだから、当たり前だろ……」


「そうだよ。それに、ディンフルさん……今は“ちゃん”かな? ブラックを頼んだだろう?」


 キイがツッコみ、こうやも指摘した。

 確かに先ほど、幼女ディンフルは「ブラックで」と細かく注文していた。


「ブ、ブラックにしても、苦すぎるぞ! スプーン何杯分入れた?」


「いつも、あなたが飲んでいた量だけど……」


 唖然とする幼女ディンフル。

 そこへ、見かねたユアが奥へ行き、角砂糖を入れたポットを取って来た。


「いらぬ。昔から、砂糖は入れぬ主義だ」


「いいから、入れてみて」


 何かを察したユアに言われ、幼女ディンフルは角砂糖を一個だけコーヒーに溶かして飲んだ。


「ん……?」


 もう一個、さらにもう一個……次々と増えていく角砂糖。


「い、入れ過ぎじゃないかな?」


 こうやからドン引きされるが、幼女ディンフルは十個ほど入れたところでコーヒーを口にした。


「……美味い」


「やっぱり……」


 角砂糖十個目で、ようやく幼女ディンフルの口に合った。


「ユア、何で角砂糖で飲めるってわかったの?」


 とびらが聞くと、キイたちもユアへ注目した。


「ブラックで苦いなら、甘くした方がいいと思ったんだ。ほら、子供って苦いの飲めないでしょ?」


「もしかして、味覚まで子供になっているのか……?」


「そうかも……」


 キイが戦慄すると、ユアも落胆しながら返事をした。

 認めたくはないが、そう思わざるを得なかった。


 一番ショックを受けていたのは、幼女ディンフル本人だった。

 好物のブラックコーヒーを、砂糖入りで飲む日が来ようとは夢にも思わなかったからだ。

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