第8話「誤解」
インベクル王国の森の近く。
ここは、ゲームの序盤に出て来る場所。
ユアも参戦前の特訓で来たことがあり、モンスターもそれほど強くないので怖くはなかった。
森の中は、静まり返っていた。
ディンフルが倒したようで、モンスターが出て来る気配はなかった。
「俺がついて行く必要、なかったかもな」
取り越し苦労だったようで、フィトラグスは苦笑いをした。
「まぁ、いいんじゃない? 美味しいもの食べた後だし、運動と思えば!」
ユアがそう言ったところで、遠くの方でマントなしのディンフルを見つけた。
モンスターの攻撃をかわしているのか、バク転をしていた。
「やっぱり、カッコいいな……」
ディンフルの勇姿に、思わず胸が高鳴った。
急いで、彼の元へ向かった。
森の突き当たりまで来ると、ディンフルはもうモンスターを倒してしまっていた。
大剣をしまい、一息ついていた。
「ディンさ……!」
「ディンフルー!!」
割り込む知らない女性の声にユアは足を止め、思わず近くの茂みに身を隠した。
フィトラグスもつられて、そこへ入った。
ディンフルの元に、ウェーブ掛かった金色の長い髪の女性がやって来た。
先日、彼の家に来たリサキだ。
「あ、あれ、誰……?!」
「知らねぇ。初めて見る」
ユアとフィトラグスは、ささやき合った。
フィトラグスはもちろん、イマストVを熟知しているユアでさえ初めて見る。
次の瞬間、リサキは突然、ディンフルへ接吻した。
ユアとフィトラグスの空気が止まった。
ディンフルはあわてて、リサキの両肩をつかんで押し退けた。
「な、何をする……?!」
「何って、挨拶代わりだよ!」
リサキはイタズラっぽく笑いながら言った。
その時、茂みからユアが飛び出し、来た道を引き返していった。
「ユア?!」
立ち上がったフィトラグスと、ディンフルが同時に叫ぶ。
「お前も、いたのか……?」
ディンフルに聞かれると、フィトラグスはゆっくりと振り返り、相手を睨みつけた。
まるで、「ユアがいるのに……」と言いたげに。
「ご、誤解だ! 彼女とは、そういう仲ではない!」
ディンフルはリサキを指しながら言うが、フィトラグスから一蹴されてしまった。
「俺より、ユアに言った方がいいんじゃないか?」
ディンフルは返事もせずに、ユアを追い始めた。
その場に、フィトラグスとリサキだけが取り残された。
「そんなに、まずかったか……?」
きょとんとするリサキへ、フィトラグスは大きくため息をついた。
◇
ユアとフィトラグスがいなくなった後、アジトの前では、ティミレッジとオプダットが二人で肉を焼いていた。
「オープン、あまり食べない方がいいよ。あとで、ディンフルさんも食べるんだから」
「そうだな! うま過ぎて、すっかり忘れてたぜ!」
肉の美味しさにテンションが上がる彼へ、ティミレッジが注意をした。
「さっきだって、ディファートのこと、ユアちゃんに言おうとして……」
「ユアがディファートだってことは、事実だろ?」
「今は言っちゃダメなんだよ! ディンフルさんからも言われたでしょ!」
ユアは、リアリティアで育った人間と思われて来た。
実は隠れディファートで、前の戦いが終わってから、ディンフルからフィトラグスら三人へ初めて告げられた。
だが、ユア本人は知らない上に、来春には大学受験を控えている。
メンタルを守るため、今はばらさないようにディンフルが彼らへ釘を刺していた。
「じゃあ言うのは、そのジュケンってのが終わった後だな?」
「そうした方がいいよ」
二人が話しているところへ、突然ユアが駆けて来た。
「わっ!」
「ユアちゃん?! ど、どうしたの、あわてて?!」
大事な話をしているところへ急に来たので、二人は飛び上がりそうになった。
「ごめん、帰る! 道具は適当に片付けてて!」
ユアは怒るでも泣くでもなく、ただあわてた様子で自身の荷物を持ち、生来の力でリアリティアへ消えて行ってしまった。
「どうしたんだ……?」
「急用を思い出したんじゃない? ジュケンって、準備もあって忙しいらしいし」
取り残されたオプダットとティミレッジは、唖然とするしかなかった。
まもなくして、今度はディンフルが駆けて来た。
「ユアは来たか?!」
二人は彼の魔物退治をねぎらう前に、ユアとディンフルのあわてた様子から察した。
何かあったのだろうと。
「来たけど、帰りました」
「何があったんだ?」
ティミレッジが答え、オプダットが冷静に尋ねた。
ディンフルは返事をせずに、再び駆け出して行った。
「どこ行くんだよ?! ユアはリアリティアへ帰ったぞ~!」
「イポンダートのところだ! あちらでは、マントが必要だからだ!!」
ディンフルは走りながらオプダットへ答えると、そのまま去って行った。
しばらくすると、今度はフィトラグスがリサキを連れて帰って来た。
「おかえり、フィット! ……その人は?」
呆然とするティミレッジとオプダットの前に、次の疑問が浮かんだ。
「あたしはリサキ! あんたらはティミーとオープンだろ? フィットから聞いてるよ!」
リサキは明るく笑いながら、ティミレッジとオプダットへ挨拶をした。
帰りながらフィトラグスが教えてくれたらしく、自己紹介をする手間が省けた。
◇
リサキが、他の三人と会っていることもつゆ知らず、ディンフルはイポンダートがいる場所へ向かっていた。
(まさか、リサキがあのようなことをするとは思わなかった。それを、ユアに見られるとは……)
ディンフルは、ユアがどれほど自身を好いているのか知っていた。
だからこそ、今回の誤解は解きたかった。
しかし、考えるうちに走りは歩みへ変わり、やがて足を止めた。
「……待てよ。何故、誤解を解きたいのだ? ユアと俺は、恋仲ではないはずだ……?」
その時、彼の背後に突然、気配を感じた。
振り返ると、黒い人影があった。
ディンフルより背が高く、向こう側が透けて見えた。
「何者だ?!」
人影は、こちらへ手を伸ばした。
手の先から黒い光が現れ、ディンフルを襲った。
「ムダだ!」
ディンフルはすぐさま大剣を出し、光を斬った。
衝撃波も出たので、人影の技を打ち消すものと思われた。
しかし、黒い光はディンフルの剣も衝撃波も貫通し、彼へ直撃した。
「うわあああーーー!!」
ディンフルに攻撃が当たったことを確認した黒い人影は、その場から消え去って行った。




