第6話「新しい友人?」
同窓会が終わった。
別れ際、「次は二十歳になった来年に集合な! みんなで飲もうぜ!」とノブが提案した。
ユアは、中学以来まともに話せなかったキヨとメドウと連絡先を交換し、ファミレスを後にした。
◇
「楽しかったけど、つかれた……」
帰りながらユアは、同窓会を振り返った。
中学時代の仲間と会って話すのは楽しかったが、リマネスとアヨの話題が出た時は辛かった。
友人二人とクラスメートたちが、アヨたちへ賛同していないのが救いだった。
もう二度と関わらないと思っていても、名前を聞くだけで胸が苦しくなった。
「おーーーい!」
背後から、甲高い男性の声がした。
振り向くと、ソウがこちらへ向かって駆けて来た。
「何で?!」
思わず驚くユア。
ソウは彼女の前に止まると、真っ先に言った。
「送るよ! 女性一人の夜道は危ないから!」
「い、いや、いいよ。私の寮、ここから近いし……」
「ダメだ! 君、令嬢動画の妹なんだろ? 今も、誰かが狙っているかもしれないじゃないか!」
ユアが断るも、ソウは引き下がらない。
表情は真剣そのものだった。
「じゃあ……」
ユアは渋々承諾し、ソウと帰ることにした。
ゲームを盗まれたことはもう良かった。
しかし、今は別のことが気掛かりだった。
「あの……ユアちゃん!」
「は、はい……?」
「空想に行ける話を、詳しく教えてくれっ!」
早速、的中した。
誰も信じてくれない今は、この話は他人……特に初対面には、絶対にしないと決めていた。
「だ、だから、あれはみんなに注目してもらうためのウソだから……。つまり、黒歴史なんだよ!」
ユアは言い訳を考えてから、必死に否定した。
「ノブが変なこと言ったみたいだけど、気にしないで! 私、ウソつき女だから……」
「俺、空想の世界に行きたいんだ!!」
ユアをさえぎり、声を張り上げるソウ。表情は真剣なままだった。
「ウソでもいい! 少しでも、この現実から逃げられる方法が知りたいんだ!」
ソウは目の色一つ変えず、言い続けた。
ユアは表情から、彼がウソやふざけて言っているとは思えなかった。
「ノブに聞いた時から、“この人なら空想世界を信じてくれそうだ”って思ったんだ。頼む! 空想へ行く方法を伝授させてくれ! もちろん、現実逃避でもいいから……!」
ユアは反応に困った。
本当のことを言うには気が引けたし、だからと言ってウソをつき続けたくもなかった。
何故なら今のソウは、かつてリマネスに追い詰められていた頃の自分と、どこか似て見えたからだ。
だが、ユアは単なる現実逃避ではなく、本当に空想の世界へ行く力がある。
ソウには、もちろんそれがなかった。
「ユア!」
答えに迷っていると、別の方向から声がした。
濃い紫色の短髪に黒い眼鏡を掛けた「ディーン」こと、変身したディンフルがいた。
「ディン様?!」
彼女の呼ぶ声に、ソウはいち早く反応した。
「ディン様」は、ファミレスでイマストⅤのディンフルに対して、ユアが呼ぶための名前だと聞いたばかりだった。
「あっ……私のお兄さん。ほら、ディンフルに似てるから、そう呼んでるんだ!」
ユアがあわててフォローすると、ソウは今度はまっすぐにディーンへ向いた。
「ユ、ユアちゃんの、お兄さん……?!」
「……いかにも。君は?」
「ソ、ソウと申します! お兄さん! 早速ですが……妹さんを、俺にくださいっ!!」
一礼するソウ。
突然の発言にユアもディーンも、開いた口が塞がらなかった。
「は……?」
「プ、プロポーズ……? 初日だよ!?」
ユアが言うと、ソウは急いで顔を上げた。
「ち、違う! プロポーズじゃなくて……空想へ行けるって話を、じっくり聞きたいんです! だから、今だけ、妹さんと俺の時間を作っていただきたいんです!」
ユアとディーンは、安堵のため息をついた。
「何故、空想世界へ行けることを?」
「高校時代の友人が教えてくれたんです! お兄さんなら詳しいんですよね?! 空想へ行けるって、具体的にどういうことなんですか?!」
ソウは変わらず、真面目な顔つきで二人へ訴えた。
どうしても、空想世界について知りたいようだった。
しかし、ディーンは丁重に断った。
「もう遅いから、今日は帰りなさい。ユアも明日は用事があるから、帰らねばならぬ」
子供をたしなめるように言われ、ソウは素直に引き下がった。
「あ、はい。そうですね、短く終わる話じゃなさそうですし……。そしたらユアちゃん、また会いたいから、LIFE交換してもいいかな?」
「べ、別にいいけど……」
ユアとソウはスマホを取り出し、リアリティアで人気の連絡アプリ・LIFEで互いの連絡先を交換した。
それだけでソウは満足したようで、スマホをしまうと「じゃあ、また!」と軽やかな足取りで帰って行った。
二人きりになると、ソウの背中を見ながらディーンが尋ねた。
「あいつは何者だ……?」
「ソウくんって言って、今日の同窓会に来てた子。そして、買ったばかりのイマストを盗んだ人」
「同一人物か?!」
ディーンが驚きながら聞くと、ユアは気まずそうにうなずいた。
本来ならゲームを盗んだ者とは関わりたくないが、そのことで今日は目一杯謝って来た。
そして、幼少期から信じてもらえなかった空想の話を信じる者が久しぶりに現れた。
ユアはそれだけで、ソウに心を開きかけていた。
だが、ディーンから警告を受けた。
「あまり信用するな。窃盗も問題だが、初対面で根掘り葉掘りは気味が悪い。リマネスの動画の件を知って、近づいて来た可能性もある。アヨの手先なら、また情報が拡散されるぞ」
「そんな人には見えないけどな……」
「しばらく、何を聞かれても有耶無耶に答えておけ。危ない奴だとわかったら、すぐに離れろ」
「う、うん……。ところで、ディン様は何しに来たの? そして、変身出来るようになったんだ!」
普通に会話していたユアは、マントを預けたディンフルが変身していたことに気がついた。
「今日どれほど直ったのか、実験で変身させてもらったのだ。そのついでに、ラーメンを食べに来た。一緒に行くか?」
彼からの誘いに、ユアは快く返事をした。




