第5話「同窓会 後編」
リアリティアのファミレス。
ユアは、今日出会ったばかりのソウとゲームの話題で盛り上がっていた。
ふと周りを見ると、皆、苦笑いしてこちらを見つめていた。
「ソウ、連れて来て正解だったな……」
呆れながら、ノブが言った。
「みんなはもう、イマストやってないの?」
周囲の反応が気になり、ユアが思い切って尋ねた。
「大学受験の頃からやってないわよ! ましてや今は大学行って、生活費稼ぐためにバイト行って、ゲームしてる時間ないんだから!」
二人は、タワから現実を突きつけられた。
実はソウもユアと同じ浪人生で、来春の入試に向けて今は頑張っていた。
そんな二人はすでに、大学へ通う同級生から遅れを取っていると改めて感じた。
「大学に入ったら、そうなるよね~……」
ユアがしみじみ思うと、タワが今度は庇うように言った。
「でも、ユアは仕方ないんじゃない? リマネスの件があったんだから」
空気が変わった。
ユアは大学受験の時期、リマネスに里子として引き取られ、行きたくない大学に進学させられそうになっていた。
ディンフルたちの助けもあって、リマネスから離れたり進学も免れたが、今年は受験が出来なかった。
「リマネスって?」
ソウが尋ねると、ノブとタワが答えた。
「金持ちの生徒がいて、やたらユアに絡んでいってたんだ」
「今思うと、変な子だったわよね。呼ばなくて正解だわ」
周囲も名前を聞くだけで嫌そうな顔をした。
リマネスは陰で嫌われていたようだ。
「一時、変な動画上げられてたけど、大丈夫?」
タワは心配しながら、ユアへ尋ねた。
「う、うん。今はもう……」
思い出したくないユアは、なるべく言葉を濁しながら答えた。
出来れば、この話題には触れたくなかった。
「リマネスと言えば、今日、アヨは? あの、リマネスの肩を持ちまくってた奴」
さらにノブが聞いた。
ユアにとって、これも触れられたくない話題だった。
「ユアのリクエストもあって呼んでないけど、何してるんだろ? あんたたち、同じ施設だったんでしょ?」
タワが、ユアへ会釈したメドウとキヨの二人へ話を振った。
アヨも、グロウス学園の出身だった。
「ま、前に、連絡来たよ……」
キヨがおどおどしながら答えた。
その続きを、メドウが話した。
「真っ先に“ユアの居場所を教えて”って言われたよ」
「え……?」
ユアの顔から血の気が引いた。
メドウは、彼女を気まずい目で見ながらも、さらに打ち明けた。
「一時、ギャル系の店で働いてたけど、“ガマン出来なくなったから”って辞めたって。今は大学は行ってるけど、働いてないみたい。それで“お金に困ってるから、ユアの場所を教えて”って……」
「何で、金がないからって、ユアの居場所知りたがるんだよ……?」
ノブが疑問に思うと、キヨが答えた。
「ユアの居場所をネットで拡散したら、お金がもらえるんだって。ユアって、リマネスの動画で顔知られたでしょ?」
その答えに、同窓会の席が暗い空気に包まれた。
ユアも聞きたくなかったので、思わずうつむいてしまった。
「あーーー!!」
そんな重苦しい空気を、甲高い男性の声が打ち消した。
ソウだった。
「思い出した! どっかで見た顔と思ったら、令嬢の妹として出てた子だ!」
あまりにも大声で指摘したため、周りの席から視線を浴び始めた。
急いでノブが人差し指を立てて言った。
「だから、声がでかい! ユアの気持ち、考えろよ!」
「あ、ごめん……」
一旦、全員が静まったところで、キヨが口を開いた。
「もちろん、ユアのことは教えてないよ。そんなことしたら私たちまで悪者になるし、何よりユアが可哀想だもん」
「私たち、もうアヨをブロックしたよ。今までも思うところあったし、関わるとろくなことなさそうだから」
続けてメドウも言うと、他の者から小さく拍手が起こった。
代表して、タワが言った。
「いいと思う。今だから言えるけど、あたしも苦手だったんだよね、アヨもリマネスも」
その場にいる全員が同調したことで、うつむいていたユアは顔を上げた。
真っ先に、キヨとメドウと目が合った。
「ユア……今まで、ごめんね」
「アヨの目を盗んででも、遊べばよかったね」
ユアは高校進学を機に、アヨを含む友人らと話す機会がなくなった。
休みの日には、自身を除いたアヨたちだけで出掛けるところを見たこともあった。
それらもあり、敢えて二人から離れた席に座ったが、ようやく彼女たちと話すことが出来た。
ユアもわかっていた。
キヨは昔から気が弱く、いじめられたりアヨから強く言われても反撃が出来なかった。
メドウは面倒くさがりで、アヨにも流されるまま同調して来た。ユアを助けなかったのも、面倒事になるのを避けたかったからだ。
しかし、内心は「友達と楽しく過ごしたい」と考えており、ユアのこともずっと心配していた。
ユアは二人を許すことにした。
彼女たちがアヨをブロックしたのが、決め手となったからだ。
ユアの心が軽くなったところで、メドウがニヤニヤしながら聞いてきた。
「で? 今も、イマストⅤの世界に行ってるの?」
そう聞いた途端、隣に座るソウが背筋をまっすぐにし、体もこちらへ向けて来た。
彼が一番気になっていた話題が、ついに来たのだ。
だが、本当のことは言えなかった。
「あ、あれは……“空想の世界に行ける”ってキャラを演じてたんだよ!」
ユアは、咄嗟にウソをついた。
他の同窓生は「やっぱり!」「そうだと思った!」「そう言いたい時期って、あるもんね!」と納得してくれた。
「そんなことないっ!!」
笑い飛ばす同窓生を、ソウが黙らせた。
「ノブから聞いてるけど、中学になっても“空想の世界に行ける”って言い続けてたってことは、本当に行けるってことなんだよね?!」
ソウは、ユアがウソをついたと認めたくなかった。
「ソウ、ユアも言ってるじゃん。“演じてた”って……」
ノブは、ユアを庇うように否定した。
「そもそも、空想は人が考えるものだから、実在なんてしないんだよ。俺は幼稚園の頃からわかってたぜ。アニメやマンガは、大人が読む人を喜ばせるために考えた優しいウソだって!」
「ノブは昔から、そんな夢もないこと言うよね!」
タワが言うと、他の同窓生も笑い出した。
だが、ユアは見逃さなかった。
皆が笑う中で、唯一ソウのみが苦虫を噛み潰したような顔をしているのを。




