第3話「突然の再会」
夕方。
フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、イポンダートを見送った。
今日からしばらく、ユアはチアーズ・ワンドを、ディンフルはマントを取り上げられた状態で過ごさねばならなかった。
「空、飛べないね?」
「あのバカ老師の話では、二、三日で戻って来る。それまで、近辺の魔物を倒す。腕試しにもならぬが……」
ディンフルとしては、北方面のモンスターを相手にしたかった。
あちらの方が、まだ戦い甲斐があった。
「だが、お前のチアーズ・ワンドはわからぬぞ。あれにもメンテナンスが必要なのは初耳だ。何より、向こうで使うとは……!」
語尾へ行くにつれて、ディンフルの怒気が高まって来た。
「だ、だって、限定版だったんだよ?! あれ逃したら、手に入れるの難しくなるんだよ! 転売屋も買いに来るし!」
「気持ちはわかるが、警察に届ければ良かっただろう! もし逆に通報されていたら、どう説明するつもりだった?!」
ディンフルに問い詰められ、ユアは口をつぐんだ。
確かに「異世界の力を使いました」などとは言えない。
「それに、来春に向けて試験を控えているだろう? ゲームをする時間などない筈」
「ま、まだハードは買ってないよ! イマストはそれがないと、出来ないんだから!」
「そうか、それなら良かった」
ディンフルは、不意に声の調子を落とした。
「それにしても、安心した。前と変わらず、元気そうで」
「な、何、急に?」
「前の戦いで色々あっただろう? あれが理由で勉強も空想好きも、どれかが疎かになっているのではと心配していたのだ」
「前の戦いって、エグたちのこと……?」
ディンフルの兄・ヴィへイトル率いる敵組織との戦いは、戦闘慣れしているディンフルでさえも苦戦した。
最終的に、ヴィへイトルを除く四人と和解出来たが、戦いの後、彼らは消えてしまった。
「本人たちは“ボツキャラだから”って言ってたけど……。また、会えるよね?」
「……わからぬ」
「エグ」ことクルエグムらを思い出し、切なくなったユアは無理やり笑顔を作った。
「いけない、いけない! 落ち込んだらダメだ! これから、同窓会があるんだ!」
「ドーソーカイ?」
「学生時代に一緒だったクラスメートと集まる会だよ。“十代最後の年だから”ってことで、呼ばれたんだ」
ユアが過去に辛い思いをして来たことを知っていたディンフルは、「もしや……?」と息をのんだ。
察したユアが、あわてて説明した。
「大丈夫だよ! リマネスは海外にいるだろうから確実に来ないし、出欠連絡の時に“アヨが来るなら事前に連絡して”って幹事の子にも頼んであるし、今日まで連絡なかったから、たぶん来ないでしょ」
「そうか……。もし嫌なことがあれば、知らせろ。すぐさま、向かうようにする」
「うん、ありがとう」
ユアは、心配してくれるディンフルに感謝をした後で、生来の力でリアリティアへ帰って行った。
アジト前にはディンフルが一人、取り残された。
「学生時代の仲間を、大人になってから再び集めるのか……。リアリティアには、まだまだ変わった風習があるのだな」
ディンフルがドアに手を掛け、中に入ると、後退りした。
何故なら、玄関に入ってすぐ見える広間のソファに、見知らぬ者が座っていたからだ。
「だ、誰だ?!」
その人物は、金色の長い髪に青い目をした女性だった。
こちらを見て、得意そうに笑っている。
「急に悪いな。ようやく、お前と会えて嬉しいんだ」
女性は立ち上がった。
スラリとした細身の体型に、女性にしては背が高く、一七〇は超えていた。
白いTシャツに、黒い太めのパンツを着用していた。
「私に会いたかっただと……? 一体、何者だ?」
ディンフルが警戒しながら言うと、女性はショックからか開いた口が塞がらなくなった。
「わ、私を覚えてないのか、ディンフル?!」
「名前まで知っているだと……?」
彼が再び尋ねると、女性はため息をついてから言った。
「リサキだよ!」
相手が名乗ると、ディンフルは息をのんだ。
「リサキ……? ……リサキだと?!」
「思い出してくれたか~?」
リサキと名乗る女性は、再び得意げになった。
「小学校時代に、話した人間……か?」
「そうそう! よかった、忘れられてなくて……」
リサキは安堵のため息をつきながら、再びソファに座り込んだ。
すべてを思い出したディンフルは彼女へお茶を入れると、向かいのソファへ座った。
「まさか、そちらが訪ねて来るとはな……」
警戒をすっかり解き、ディンフルは慕うような目で彼女を見た。
リサキは、ディンフルとウィムーダに良くしてくれた人間の一人だった。
「私がお前を見てわからないならともかく、見た目が変わらない私を思い出せないのはおかしいだろ!」
リサキは笑いながら言った。
「すまぬ、色々あってな……。そちらも、すぐにいなくなっただろう」
「……あぁ、その節は悪かった。故郷の奴にバレて、“もう行くな”って釘を刺されたんだ。ところで、ウィムーダは元気か?」
二人が再会するのは、ディンフルの小学校時代以来だった。
彼の幼馴染であり恋人のウィムーダが死んだことは、当然知らなかった。
「……亡くなった」
ディンフルがつぶやくとリサキは表情を曇らせ、うつむきながら「……そうか」とだけ言った。
「いつ死んだ? お前が魔王をやる前か?」
顔を上げたリサキからの質問に、ディンフルは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「な、何故、私が魔王だったことを知っている……?」
「もう、このフィーヴェじゃ知らない奴はいないだろ」
リサキはまた笑った後で「あんなに小さかった少年が、色男の魔王様に育つとはな~」と思い出すように、しみじみと言った。
「こちらも、好きで魔王になったわけではない……。ウィムーダが亡くなったことがきっかけで、なったのだ」
「ウィムーダが見たら、どう思うかな? 人間との共存を夢見てたあいつがさ」
リサキにからかうように聞かれた。
さすがに今の質問は、ディンフルの逆鱗に触れたらしく、彼はリサキを睨みつけた。
「一体、何しに来た? 侮辱するなら、出て行ってくれ。いくら旧友でも、今の問いは許せぬ……!」
「わ、悪い! 別に侮辱したわけじゃねぇよ! 今は英雄なんだろ? それも聞いているよ」
「聞いた……? 誰からだ?」
リサキが謝ると、ディンフルが尋ねた。
「老師」
「……イポンダート? 何だ、もう知り合いなのか……」
リサキのたった一言で、ディンフルの怒りが一瞬で静まった。
彼の理解を待たずに、リサキはさらに言った。
「またしばらく、フィーヴェにいるんだ。だから、この家に泊めてくれ。お前が今している魔物退治も、手伝うからさ!」




