第2話「やらかし老師」
異世界・フィーヴェ。
ここは、イマストⅤの舞台となった世界。
現実世界・リアリティアと空想世界を行き来出来るユアは、時々こちらに顔を出していた。
今日は、老師・イポンダートに呼び出されていた。
「何と言うことをしたんじゃ?!」
出会い頭、ユアは怒鳴られた。
理由は一つしかない。
「チアーズ・ワンドは、異世界で戦うための武器じゃ! それを、戦いとは無縁のリアリティアで使うとはぁ!」
「しょうがないじゃないですか。買ったばかりのゲームを、取られたんですから!」
怒られても、ユアは負けじと言い返した。
「相手をケガさせたら老師転倒……いや、本末転倒じゃろう!」
イポンダートはギャグを交えながら叱った。
彼は時々、わざと言い間違えて人の笑いを誘おうとする。しかし、いつも誰も笑わない。
「金払ってくれるだけいいじゃねぇか。“泥棒はウソつきの始まり”って言うし」
「そういう問題じゃねーし、ウソつきが泥棒の始まりだからな!」
ツンツンヘアの金髪の武闘家・オプダットが言い間違えながら言った。
それに対して、赤い髪を一つに結んだ王子であり勇者のフィトラグスが訂正した。
「断りもなく、人のものを盗った時点で泥棒だよ」
青いうねりヘアをした白魔導士・ティミレッジがユアを庇った。
「相手が悪いにしてもじゃ。異世界の武器を、リアリティアで使うことは許さん! ケガはもちろん、建物を壊したら、どう責任を取るつもりじゃ?!」
イポンダートは声を荒げ続けた。
ユアは腑に落ちず、返事すらしなかった。
「人のことを言えるのか?」
ソファに足を組んで座っていた、紫色の長い髪の元魔王・ディンフルがこちらへ向いた。
他の者が、一斉に彼を見た。
「どういう意味じゃ……?」
「忘れたわけではあるまい? 前の戦いが終わって、まもなくのことを」
思わず冷や汗をかくイポンダート。さらに睨みつけるディンフル。
それは、前の戦いが終わった直後の出来事だった。
◇
戦いの後、ディンフルはようやく古城を取り戻した。
しかし、城は半壊し、すぐに住める状態ではなかった。
そこで、白魔導士のティミレッジに魔法で直してもらうことにした。
「少しでも名残があるなら、すぐ元に戻りますよ」
彼はディンフルを安心させるため、優しく言った。
ディンフルは、「これで城が戻る」とすでに安堵していた。
ところが古城は大きく、ティミレッジ一人の力では不足しそうだったので、イポンダートも力を貸すことにした。
ユア、ディンフル、フィトラグス、オプダットに見守られながら、ティミレッジとイポンダートは呪文を唱え始めた。
しかし、詠唱中……。
「ひえっくしょいわぁーーー!!」
突然、イポンダートが耳をつんざくような声量でくしゃみをし、その反動で別の魔法が発動してしまった。
魔法による衝撃波により、半壊していた古城は跡形もなく、吹き飛んでしまった。
「あっ……」
全員、言葉を失った。
目の前にあった大きな城が、老人のくしゃみ+魔法で吹き飛び、一瞬で更地となったからだ。
「し、城は……?」
「……すまん」
呆然とするユアへ、イポンダートが謝った。
「ティミレッジ、戻してくれ……」
さらに、ディンフルも唖然としながら、ティミレッジへ頼んだ。
だが、答えは……。
「すいません。カケラが一つも無くなったら、戻すのは不可能なんです……」
ティミレッジはおどおどしながら答えた。
今のディンフルの心情と、この後、何が待っているのか手に取るようにわかったからだ。
答えを聞き、ディンフルは時間差で膝から崩れ落ちた。
「ディン様!」
「ディンフル?!」
「俺の城が……」
ユアとオプダットがあわてて駆け寄ると、ディンフルの口から絶望のトーンで言葉が漏れた。
残されたフィトラグスは、イポンダートを睨みつけた。
「ほ、本当にすまん……」
彼は再び謝った。
「し、しかし、あんなところに城があるのも、不運じゃったのう……」
付け加えられたセリフで、ディンフルの怒りのボルテージが一気に上がり、立ち上がってイポンダートへ詰め寄った。
「なら、城が悪いと言うのか?! 貴様がくしゃみをするから、こんなことになったのだろうが!!」
「仕方ないじゃろ! わしだって、くしゃみを抑えられる年齢じゃないんじゃから!!」
ディンフルが怒号を上げると、何故か老師までキレ始めた。
「何故、貴様がキレる?! 年齢を言い訳にするなぁ!!」
こうして、ユアたちはしばらく延々と、師弟のケンカを見せつけられたのだった。
◇
時は戻って、現在。
ここはインベクル王国、ビラーレル村、チャロナグタウンより、ちょうど中間の位置。
今いるアジトはフィトラグスらの手によって作られ、ディンフルはここで暮らしていた。
「イマストⅤにビルダー機能があって、よかったね」
「まったくだ。そのおかげで、遠い距離を飛ばなくて済んだからな」
ディンフルは以前、北の古城からインベクル王国まで、長距離を飛んでいた。
そして、仲間内だけで集まれるということで、他の者も安堵していた。
大抵、集まる場所はインベクル王国の中庭だった。
城下町を通り、門番に許可をもらい、さらにメイドへフィトラグスを呼びに行ってもらうなど、行程が多かった。
ここは城ではないので皆、のびのびと過ごせた。
自分たち以外の目がないのも大きかった。
「距離も近くなったし、ここでは体を伸ばせるからな~」
「“はね”って言いたいの……?」
リラックスしたオプダットへ、ティミレッジが訂正した。
「アジトのことは良い! わしも心から反省しとるから、もう言うな! あれからご飯が三杯しか喉を通らんのじゃぞ!」
「食べられる辺り、反省していないな……?」
イポンダートを睨みながら、ディンフルが大剣を出した。
ユアがあわてて「まあまあ!」と諌めた。
ディンフルが大剣をしまったところで、老師は改めて言った。
「話を戻すが、ユアはしばらくチアーズ・ワンドを没収じゃ!」
「えっ?! 向こうが悪いし、ケガもさせてないのに……」
「倒れた時点でケガになるじゃろう! どっちみちチアーズ・ワンドは、メンテナンスとやらを受けてもらわねばならん!」
フィーヴェでは聞き慣れない言葉に、ユア以外の四人が耳を傾けた。
「メンテナンスって、不具合を確認するためのか?」
リアリティアに行き慣れているディンフルが尋ねた。
「そうじゃ。実は、あれにはアップデートが必要なのじゃ」
さらに「アップデート」まで出て来たので四人は眉をひそめ、ユアは唖然とした。
「チアーズ・ワンドにも、メンテやアプデの概念があるの?!」
「なら、こちらも見ていただきたい」
そこまで言うと、ディンフルは立ち上がり、自身のマントを掴んで見せた。
裾がボロボロだったり、ほつれて縦方向へ少し裂けていた。
「どうしたの、それ?」
他の四人が驚きの目を向け、代表してユアが尋ねた。
「最近、すぐに破れるのだ。白魔法で回復しても一時は戻るが、すぐにこうなってしまう。これは寿命とやらか?」
仲間たちへ説明した後で、ディンフルはイポンダートへ聞いた。
「このマントは、攻撃を防いでくれるだけでなく、変身や冷暖の魔法もある優れものだ。よほど、強い魔力に当たらなければ破れないが、ここに来て急に劣化している。チアーズ・ワンドと一緒に見てもらいたいのだが?」
ディンフルが頼むと、イポンダートは急に「あぁ~」と何か思い出したように言った。
「すまん、ディンフル。実はの……」
「何だ? ……今度は、何をやらかした?」
もうやらかした前提で、ディンフルが尋ねた。
「ユアのケープぐらい短く、あまり使用しないものならともかく、お主のマントは定期的なメンテナンスが必要なんじゃ……」
「何っ?! “定期的”ということは、どれほどの頻度だ?!」
イポンダートは思わず声が小さくなり、たどたどしく答えた。
「……月一じゃ」
「月一ぃ?!」
ユアたち四人も声を上げた。
今の発言で、城を吹き飛ばされた時と同じく、ディンフルの怒りが爆発した。
「ふざけるなぁ!! 何故、そんな大事なことを忘れていた?! このマントは、もうすぐ二年になるのだぞ!」
「本当にすまん……! ほら、わしって忘れっぽいからぁ!」
イポンダートは老いぼれた顔に似合わず、可愛くウインクをし、ペロッと舌を出して見せた。
「キャラに似合わぬ顔をするなぁ!!」
もちろん、怒り心頭のディンフルはごまかせなかった。
結局、ユアたちはこの後も彼の怒号を聞き続けるのであった。




