第1話「波乱の発売日」
前作のあらすじ
ゲームの世界・フィーヴェを脅かす超龍を倒したユアたちは、しばらく平和な日常を送っていた。
そんな時、ディンフルの兄・ヴィヘイトルが部下たちを従え、フィーヴェを制圧しようと企んでいた。
現実世界・リアリティアを離れざるを得なくなったユアは、仲間たちを守るために参戦し、ディンフルたちと共に戦う。
最後は、ヴィヘイトルの部下・クルエグムたちとも和解し、途中で出会った仲間たちと共に力を合わせて世界を救う。
ところがその直後、クルエグムたちは姿を消してしまった。
季節は秋。
ピンク色の髪をサイドテールにした少女・ユアは、ゲーム屋にいた。
今日は、今年始めに発売された「イマジネーション・ストーリーⅤ」略して、イマストⅤの限定版の発売日だ。
ユアはまだ、ゲームハードを持っていなかった。
だが、限定版を逃す選択肢はなかった。
DLCが配信された今、彼女の知らないイベントがたくさん出て来たため、思い切って買うことにしたのだ。何より……。
「DLCの衣装を着たディン様も楽しみだしね!」
ユアの推しは、イマストⅤのラスボスである魔王・ディンフル。
彼の新しいアートワークを見るだけで、心臓が止まりそうになるほどだった。
今回も楽しみで仕方がなかった。
開店前に、ゲーム屋にある大画面モニターに新情報が流されていた。
前情報によると、今日のこの時間はイマストシリーズに関する重大発表があるらしい。
ユアはゲームだけでなく、そちらにも胸を躍らせていた。
「イマストの重大発表って、何だろ? もしかして、Ⅴのアニメ化とかかな……?」
まもなく、映像が流れ出した。
映し出されたのは、Ⅴの前作に当たる「イマジネーション・ストーリーⅣ」の舞台となった「フォウル」という島。
「フォウル?! 何でⅣが?!」
ユアは映し出された島がすぐにピンと来たが、心がざわつき出した。
Ⅳには、苦い思い出があったからだ。
ユアの動揺など気にも留めず、映像はどんどん流れていった。
明らかに、前作と雰囲気が違うキャラクターたち。
パーティの中には当時十一歳の子供がいたが、大人びた姿に成長していた。
それだけでも、前作から数年経っていることがわかった。
見ていくと、一番見覚えのある顔が映った。
「エンヴィム……」
薄い茶色の髪に小麦色の肌の青年を目にしたユアは、さらに胸が苦しくなった。
映像が進むごとに、見ていた者たちから歓声と悲鳴(もちろん、良い意味で)が上がった。
最後に、メインヒロインがアップで映し出されると、後方から男性の悲鳴が聞こえた。
(ずいぶん、熱狂的な人がいるな……)
ユアはその絶叫に圧倒され、思わず我に返った。
モニターを見続けていると、画面に「イマジネーション・ストーリーⅣSecond Episode」と大きく表示された。
見ていたファンたちから、歓声と拍手が湧き起こる。
イマストシリーズはナンバリングが五作出ており、これまで外伝や続編はなかった。
今回が初めてである。
ところがユアは素直に喜べず、内心は別のことでいっぱいになった。
(続編ってことは、あの後のフォウルが見れるんだよね? でも、エンヴィムは……)
考えているうちに店が開いた。
ユアは、早くイマストを手に入れたいために走った。
事前に予約をしていたので、まっすぐレジに行った。
「今度こそ、やるぞ~! ……春以降に」
購入後、ユアは感動の声を漏らした後で、声を落とした。
今すぐ出来ないのは、ハードを持っていないからだけではない。
大学受験も控えていたからだ。
「何もかもが終わった後で、プレイだ! でないと怒られるからね、ディン様に……」
買ったばかりのゲームを持って感傷に浸っていると突然、手の中からソフトが消えた。
すぐに、代わりとしてお金を握らされた。
「へ……?」
「ごめん! ゆずってくれ……!」
オレンジ色の短髪の、十代後半ほどの青年が目の前におり、申し訳なさそうに両手を合わせた。
彼は一礼すると、走り去って行った。
手には、ユアが買ったイマストⅤがあった。
「ち、ちょっと?!」
ユアの手には、ゲームの代金にしては高い額の紙幣があった。
これで買うと、お釣りが来るぐらいだった。
だが、すぐさま青年を追いかけた。
彼は逃げ足が速く、下りのエスカレーターで下の階へ逃げて行った。
「せっかくのイマストなのに……許さない!」
気づけばユアは、異世界で使う武器・チアーズ・ワンドを手にし、階下に逃げた青年へ向かって、小技を使った。
足にピンク色のロープが巻き付き、青年は転倒した。
「な、何だよ、これぇ?!」
本来、この現実世界・リアリティアでは使ってはいけないものだが、ユアはイマストのためなら手段を選ばなかった。
ユアは青年に追いつくと、彼の手からソフトを取り、代わりに紙幣を握らせた。
「これは、私が予約してたの! どうしても欲しいなら、他の店で買って!」
倒れる青年へ啖呵を切ると、ユアはショッピングモールを後にした。
唖然とする青年。
ユアがいなくなった後も、彼は起き上がれないでいた。
「すごい子、見つけた……」
今の一撃で、彼の心は掴まれてしまったのだ。




