第11話「ディルルと仲間たち」
フィーヴェ。
ユアと幼女ディンフル改め「ディルル」が飛んだ先は、アジトの前。
早速、中へ入ると、すでにフィトラグス、ティミレッジ、オプダットが待っていた。
「も、もう集まってたの……?」
ユアが思わず後ずさりしそうになると、ティミレッジが不安そうな顔でやって来た。
「ユアちゃん! ディンフルさんが昨日から戻ってないんだけど、何か知らない?」
彼だけでなく、後ろのフィトラグスとオプダットも心配そうな表情を浮かべていた。
三人は、ディンフルが去った後に何が起こったのか知らなかった。
ユアが答える前に、オプダットがディルルへ目をつけた。
「その子、誰だよ?」
「あ、あぁ、この子は……」
ユアの説明も待たずに、ディルルが単刀直入に言った。
「ディンフルだ」
アジト内の空気が止まった。
もちろん、三人は唖然とするしかなかった。
「君が、ディンフルさん……?」
「面白い冗談を言う子だな!」
「大人をからかうもんじゃないぞ」
ティミレッジが尋ね、オプダットとフィトラグスは笑いながら言った。
ディルルの発言を信じていないようだ。
「本当だっ! この髪とこの目が、何よりの証拠だ!!」
ディルルは自身の長い紫色の髪と、縦長の瞳孔が入った青緑色の目を見せた。
想定内の反応だったため、ユアが口を開いた。
「……信じてもらえないかもしれないけど、本当だよ」
三人は、今度は絶句した。
あまりの衝撃に、しばらく誰も言葉を発せなかった。
「ウソだろ……?」
「これが、あのディンフル……?」
「な、何で、こんな姿になってしまったんですか?」
オプダット、フィトラグスが言葉を失い、ティミレッジが再び尋ねた。
ディルルは信じてもらえたことに安心すると、説明し始めた。
「昨日お前たちと別れた後、黒い人影に襲われ、その攻撃を受けてしまった。防いだが、貫通したのだ」
「それで、そんな姿に……?」
「信じられぬなら、それでも構わぬ」
まだ信じられない様子のティミレッジに、ディルルはぶっきらぼうに言った。
次に、フィトラグスが尋ねた。
「で? その影はどこへ行ったんだ?」
「わからぬ。俺がこの姿になったら、消えていった」
「じゃあ、その影を探しに行こうぜ!」
「思い立ったが吉日」をモットーとするオプダットが、ディルルをさえぎって提案するが、「どこにいるかわからないって言ってるだろ!」と、フィトラグスからたしなめられてしまった。
「影を探しても、そいつを倒して元に戻るかもわからぬぞ。ああいう敵も、子供になる魔法も、初めてのパターンだからな」
「じゃあ、イポンダートさんに相談しましょう!」
ティミレッジの提案に、ユアとディルルは目から鱗が落ちた。
「イポンダートさん……すっかり忘れてた!」
「気は進まぬが、そうしよう。こういう時は、あのジジイが役に立つからな……」
ディルルは古城を吹き飛ばされたことを根に持っているのか、イポンダートの呼び方が辛辣だった。
しかし、今は藁にもすがる思いだった。
こうして、ユアたちの目標が決まった。
「それにしても……小さくなったな、あんた!」
フィトラグスがからかうように、ディルルの頭を撫でた。
「コ、コラッ! 何をする!? 今は小さくても、中身はディンフルのままだぞ!」
「中身がディンフルさんのままなら、戦闘力はどうなんですか?」
ティミレッジに聞かれるも、ディルルは「知らぬ!」と即答した。
戦闘力が下がっていると言うよりも、視線が下がったのと、武器の大剣が持てないのがネックだった。
味覚は確実に変わったが、仲間たちには話せなかった。
「そ、そうそう、今はディルルって呼ぶんだよ」
「ディルル?! 可愛いじゃん! ユアがつけたのか?」
オプダットから聞かれ、ユアはデレデレしながら「そうだよ~」と言った。
リアリティアではソウから、フィーヴェでは仲間から褒められ、有頂天だった。
「喜んでいる場合かっ! 目的が決まったなら、早速行くぞ! フィトラグス、ティミレッジ、オプダット!」
「オー!!」
ディルルの指揮に従い、仲間たちが返事をした。
しかし、ユアだけ呼ばれていない。
「私は?!」
「ユアは留守番だ! お前も、チアーズ・ワンドがないだろう? イポンダートの小屋がある山は、けっこう過酷だぞ」
ディルルの言葉を聞き、思い出した仲間たちの顔が青ざめた。
「そうだ……。じいさんが住んでる山、傾斜が急だったり、落石があったり、崖が突然崩れたりと厄介だったんだよな……」
「チャロナグタウンの裏山より、きつかった記憶がある……」
フィトラグスとティミレッジが落胆した。
一方、チャロナグタウンにある裏山に登り慣れているオプダットは「俺にとっては、修行をモード・ハードにした感じだぜ」と言い間違えた。
それを他の者が「ハード・モードだ!」と、すかさず訂正した。
「それなら、ディンフル……じゃなくて、ディルルも行けるのか? そんなドレスじゃ行きにくいだろ」
フィトラグスが指摘すると、ディルルは自身の服を振り返った。
今、身に着けているのは、フリルがついた黒いワンピース。
ディンフルにとっては、人生初のスカートだった。
下にはタイツを履いていたが、ヒラヒラした衣装はどうも動きづらい。
「スカートを履く日が来ようとは……」
「普段も、マントをヒラヒラさせているだろ」
「そのヒラヒラとは違う!!」
フィトラグスのツッコミに、思わず声を上げるディルル。
彼女もまた、イポンダートの山に登ったことがあるので、今の衣装では不利なことはわかっていた。
「着替えている暇はない! とりあえず、行くぞ!」
ディルルはすっかりご機嫌ナナメになり、アジトを飛び出して行った。
◇
仲間たちがついて来るのも待たずに、ディルルはどんどん先を歩いて行った。
「ディン様、待ってよ~!」
ユアが追いかけて行くと、ディルルの目の前に一体のモンスターが現れた。
「今は、貴様の相手など出来ん!」
怒り心頭のディルルは、いつもの癖で大剣を出した。
しかし、手に持った途端、左右へふらついた。
「重い……! やはり持てぬ!」
倒れる前に大剣を消すと、今度はモンスターの腹部へパンチを繰り出した。
ペチッ
だが力いっぱい出した拳も、自分より大きいモンスターには効かず、手が痛くなっただけだった。
「バカな……」
身の毛がよだつディルル。
その間に、今度はモンスターのパンチが炸裂し、彼女は吹き飛ばされてしまった。
「ディン様!」
倒れて気を失うディルル。
ユアが駆けつけようとするが、今は武器がなかった。
その時、モンスターの全身に線が入ると、体が縦に裂け、黒いモヤとなって消えてしまった。
フィーヴェのモンスターは倒されると消えるため、死体が残らないのだ。
消えたモンスターの背後には、いつの間にかリサキが立っていた。
彼女が倒してくれたようだ。
「あ、あなた……?」
ユアにとっては、ディンフルの唇を奪った相手だ。
「助けてくれて、ありがとうございます」というセリフが、すぐに出て来なかった。
リサキは気絶したディルルを抱えると、ユアへ渡した。
そして……。
「ダメだろ、小さい子から目を離したら。この辺りはモンスターが出るから気をつけろ。何かあったら、あたしが助けてやる!」
言いながら、最後にウインクまで決めるリサキ。
(な、何、この人……? 美人なのに、男言葉で……カッコいい……!)
ディンフルとキスしたことで彼女へモヤモヤしていたユアだが、その感情が少しだけ薄らいだ気がした。




