ストレスを乗せたナイフ
近くのファミレスへ行き、適当にドリアとサラダを頼んだ。
熱々に焼けたごはんをスプーンで食べていると、隣の席に声が聞こえた。
「”断る”」
「ちょっ、やばぁ。マジ似てるんだけど」
「冴えない感じそっくり~」
(げっ。あいつらかよ……夏休みで偶然会うとか、最悪だ)
思わず、顔を伏せる。
だが、幸いにして真ん中のパーテーションのおかげで顔はお互いに見えない。
パーテーション越しに、ゲラゲラとした笑い声が聞こえる。
背中の皮膚がざわつき、スプーンを持つ指がわずかに震えた。
ちらり、とバレないように覗き込む。
佐藤 智樹が女3人、男2人を引き連れていた。
「てか、俺ら有名になれるんじゃね!?」
「智樹のおかげだよね~。さすが~」
なんて会話をしている。
佐藤は誇らしげに、鼻息をもらした。
「ま、才能があるからな。配信に人が集まるのも早い」
(本当に配信まで始めたのか)
本来、初心者がダンジョン配信をしても人が集まらない。
よほどのセンスや、トーク力、あるいは秀でた能力がないと無理だろう。
しかし佐藤達は、配信が面白いだの、俺ら将来スターになるだのと、盛り上がっていた。
「けどよ~。英語禁止はキツいぜ~」
「英語使ったら罰ゲームで1回モンスターの攻撃をケツで受けるって、シャレにならね~よ」
「ははは、いいだろ。ああいうのも、視聴者を楽しませるために必要なんだぜ」
佐藤の言葉に、なにがおかしいのか、取り巻きがゲラゲラ笑う。
自分たちが面白いと思っているのだろう。
(本当に視聴者いるのか? でも、あれだな。こいつらと会ってないから、活動している場所は違うっぽいな。よしよし)
狙い通りである。
ただ、ここにいることがバレたくない。
さっさとドリアとサラダを食べ、会計を済ませ、逃げるように外へと出た。
☆
嫌なことはいったん忘れ、ダンジョンへ。
カードを取り出し、プル子を召喚した。
プル子はぽよんと跳ねて、黒宮の胸へ飛び込んだ。
「おわっ」
すりすり、と胸にすりついてくる。
スキンシップ多めのスライムのようだ。
「甘えん坊なやつめ。特別にこのまま移動してあげよう」
スライムを抱っこした状態のまま、歩き出す。
そうして5分。地面の草をモゾモゾ食べるスライムと遭遇した。
胸に抱いていたプル子が、勢いよく飛び出す。
「おっ。いけ、プル子!」
プル子は心なしか、先ほどよりも早い速度で食事中のスライムへ接近。
スライムも気がつき、両者は同時にタックルした。
いつもは互角なのだが――スライムの方が押し負けている。
何度タックルでぶつかり合っても、同じ。
スライムは押し負け、地面にたたきつけられた。
「レベルアップで、強くなっている……もしかして、このままいけるか?」
手だしをしないで、様子を見る。
6回目のタックル。
スライムは地面へ落ち、ぐて~、と伸びた。
プル子はバテた様子で、その場でプルプル震えた。
「ダメージはデカいっぽいな……よし、戻れ」
プル子をカード化する。
しかし単独でスライムを撃破できるようになったのは、デカい。
「俺も試しに、スライムと1人で戦ってみるか」
レベルは2だし、プル子よりステータスは高い。
武器はナイフとこころもとないが、探索者たるもの、挑戦はしたい。
そんなことを考えながら、移動していると――やがて、接敵した。
プル子はまだ回復中。
黒宮はナイフを取り出した。
「よし……来い」
スライムがこちらへ向かって体当たりをしてくる。
柔らかいボールのように、勢いのあるバウンド。
しっかりと見る。
そして右へ跳び、その体当たりを回避した。
「っ!? これがステータス……体が軽い」
戦闘で改めて実感する。
自分の体が強化されているのだ。
黒宮はナイフを握り、スライムを切る。
弾力のある体に、鋭い刃の一閃。
スライムの液体が床に飛び散りも、さらにもう一回、こちらへ飛び込んできた。
「当たるかよ!」
だが、その動きは鈍く見える。
大したことない。
ただ、ナイフに上手く力が入らない。
そんな感触が、最初の攻撃にあった。
モンスターとはいえ、相手を攻撃するという行為に、体が慣れていないのだ。
(そうだ。佐藤の顔だと思えば、もっと斬れる)
脳裏に、さっきの笑い声が蘇る。
胸の奥が熱くなる。
「お前は……いつも……!」
怒りが刃に乗る。
「うざいんだよおおおおおおおおお!!!」
叫びながら、ずどんっ! と縦に斬る。
スライムはばたりと倒れ、溶け、魔石となっていった。
はあ、はあ、と肩で息をする。
「……いかん。モンスターに八つ当たりしてどうする」
気を取り直して、黒宮はスライムを求め移動を再開した。
だが、胸の奥に灯った熱は、まだ消えていなかった。




