スライムを撫でたら、懐かれた
階段の先には、トンネルのように広々として空間が伸びていた。
魔力によって辺りは明るい。
地下らしく、土壁と土床が広がっている。
ゴツゴツとした床と壁には、時折岩が剥き出しになっていた。
湿った空気はヒンヤリとしているが、不思議と悪い感じはしない。
むしろ大自然のような、良い空気感だ。
「ええっと……アイテムボックス」
宣言と共に、ゲームのようなインベントリが出現。
そこから人差し指でドラックして、協会で購入したナイフを取り出した。
「よっと」
7月の誕生日でもって、バイトで溜めた金で購入したナイフ。
普通のナイフではなく、ダンジョンで獲れる素材でできたナイフなので、お値段は2万円とそこそこ高い。
それでも頑丈さと威力は増すので、購入した。
「さて……移動するか」
他のダンジョンと比べると全体の面積は広いらしいが、目の前に広がる空間は広大だ。
ナイフを手に、辺りを警戒しながら歩くと――現れた。
青いゼリー状の体。高さは1メートルほど。
スライムだ。
床に生えた雑草を、モゾモゾと体を動かしながら食べている。
「す、すげえ……本物だ」
配信でモンスターを見た事があるものの、実物は初めて。
大きく床から突き出た岩陰に、腰を落として隠れる。
緊張して、心臓が高鳴った。
スライムは初心者向けモンスター。
それでもその性格は好戦的なので、バレれば戦闘になる。
黒宮はケンカすらしたことのない、普通の男の子だ。
武器を持って生き物と戦う――その現実に、喉がカラカラになる。
「そうだ……スキル、使ってみよう」
職員の話では、3分操れると言っていた。
じっと、もぞもぞするスライムを見つめる。
使用方法は……直感的に、浮かんだ。
右手をかざし、宣言する。
「スキル起動……捕縛!」
右手が光り、そこから青い色をしたムチのようなものが伸びる。
ムチは1メートルほどの長さだ。
細い線をしなやかにくねらせながら、スライムの頭上へ当たる。
すううううっ、とその中へと入っていった。
「……」
スライムは無言で、黒宮めがけて跳んでくる。
そしてその近くによると、ピタリと止まって、指示をあおぐようにこちらを見上げてきた。
「おおっ。従っている。でも、時間制限つきか……」
……黒宮はなんとなく、腰を落としてスライムを見つめた。
プルプルのゼリー状の生命体。
体を弾ませながら近づいてきた姿は、ちょっと可愛らしかった。
「ペットとか、飼ったことないからなぁ」
可愛いペットを飼うということに、憧れがあった。
なんとなく。スライムの体を、右手で優しく撫でた。
スベスベで、プルプルとした感触。
意外と、触っていて気持ち良いものであった。
「よーし、よしよしよし」
某動物好きの博士のごとく、鬼撫でする。
スライムはこころなしか、嬉しそうに身を寄せてくれているように見えた。
ちょっとだけ癒される。
……が、そろそろ時間だ。
スライムはスキルの効果が切れて、襲いかかってくるだろう。
黒宮は立ち上がり、ナイフを構えた。
そして――3分が経過する。
「ん?」
スキルが切れた感覚が、黒宮にもなんとなく伝わった。
だが……スライムはずずず、とゆっくり黒宮へと近づいていく。
その様子に、敵意はなかった。
そしてその体を――スリスリ、と黒宮の足へすり寄せてきたのであった。
「……え? どういうこと?」
完全に、懐いている。
困惑する黒宮の耳に、システム音が響いた。
『――スライムをペットにしました。残り3体まで、使役可能です』
黒宮は呆然としたまま、足元のスライムを見下ろした。
スライムは、まるで「よろしくね」と言うように、ぷるんと跳ねた。
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