悪女の独白・開花の章
それから、アプフェル様を公の場で見ることはなくなりました。
しかし、私の恋情は募るばかりでした。彼の顔を見たい。彼の隣に立ちたい。彼のためになりたい。彼と一緒にいたい。
──だから、悪女になる計画を立てました。
まずは、地味で目立たない外見から変えることにしました。背筋を伸ばしました。目を覆っていた前髪を耳にかけ、常に櫛を通しました。
黒やダークカラーのメイクを施し、妖艶な印象になるように心がけました。黒いリップを引けば、かなり目立つ外見になりました。
それから、ブローチを一つ買いました。少々値が張るものを選びました。
ヴァイス伯爵は直ぐに気づき、私を叱責しました。「お前まで高価なものを買うな」と。
それを奥様かライラックお嬢様が見ていたのでしょう。私の名を使って買い物をするようになりました。
学園ではことあるごとに男子生徒を褒めるようにしました。主に、婚約者のいる男子生徒を狙いました。
少し垢抜けた私に褒められると男性は皆嬉しそうにしました。勿論、女性は楽しくないでしょう。彼女達は、私が男を取っ替え引っ替えしていると噂するようになりました。
噂というのは便利な武器です。金も魅力もない私とっては、それくらいしか出来ませんから。噂をコントロールして、思い通りの絵を描く。特に、噂好きな人の行動や言動は予想しやすくありました。
私が男遊びをしているという噂が流れ出した頃、私は〝義妹いびり〟を開始しました。
ライラックお嬢様に、ビルネ様に不用意にべたべたしないしよう忠告をしました。彼には私という婚約者がいるのですから当然です。
マナーがなっていない時に注意しました。恥をかくのはお嬢様ですから。
そうしていれば、彼女はビルネ様に泣きつきました。私のあることないこと、ビルネ様に吹き込んだことでしょう。
それから、人目のあるところで自分の教科書を破き、運動着を切り裂きました。学園内では瞬く間に噂が広がりました。「あれは誰のものだったのか」と。まさか、私のものを私が破壊しているとは夢にも思いもしなかったでしょう。
「そういえば、義妹がいたはずだ」皆様が答えを導き出すのは時間の問題でした。
使い物にならなくなった教科書や運動着は見えるところに保管しておきました。ライラックお嬢様がそれを持って、ビルネ様に泣きつくようにと期待して。
しかし、これだけではビルネ様に婚約破棄を突きつけて貰えないでしょう。私は最後の一押し──ライラックお嬢様の殺人未遂を考えました。
ライラックお嬢様に大怪我を負わせるのは本意ではありません。ですから、私が彼女の代わりに大怪我をしました。
落ちるのに失敗して、『二度と歩けなくなる』とまで言われてしまいましたが、それでは計画が狂ってしまいます。
私が怪我をした事実は隠し通す必要がありました。そのためには、完璧に歩けるようにならなくてはなりませんでした。
二ヶ月の間、私はリハビリに精を出し、再び歩けるようになりました。アプフェル様への愛の力だと自負しています。
それからはアプフェル様のおっしゃった通りです。医師に『ライラック・ヴァイス』と名乗り診断書を書かせ、それをヴァイス伯爵のデスクに忍ばせました。まさか、ヴァイス伯爵がそれを見落とすなんて思いもしませんでしたが。
私の企みは順調に進み、ライラックお嬢様とビルネ様は卒業記念パーティーで私の罪を追求しました。私は否定をせず、ただ笑っていました。
私とビルネ様の婚約破棄はつつがなく行われました。手続きが完了した直後、ヴァイス伯爵は私に次のお相手の話をしました。そのお相手はアプフェル・ツィノーバーロート様──私の愛する方でした。
ヴァイス伯爵には度々アプフェル様のことを話していたのです。アプフェル様は嫁の家に資金援助を行うと触れ回っていましたから。
しかし、ヴァイス伯爵は難色を示していました。悪名高い【ミイラ公爵】に愛娘・ライラックお嬢様を差し出したくはなかったのです。
ですが、ビルネ様と婚約破棄した今、私を差し出すことが出来ます。愛娘ではない、私を。
「ローゼはツィノーバーロート公爵と縁を作れと言っていたな。ならば、お前が嫁いでも問題はないな」
義妹の相手にと提案した自分が、ミイラ公爵に差し出されるのはどんな気持ちだ──ヴァイス伯爵はそう言っているようでした。
しかし、私はこの上ない喜びを感じていました。私は彼と結婚するために、計画を進めていたのですから。
義妹達は何の非難も受けることなく結ばれ、ヴァイス家は資金援助を受けることが出来、私は愛する人と婚姻を結ぶことが出来ました。皆がハッピーエンドを迎えました。
それに異議を唱えたのは、アプフェル様でした。
貴方様が私の過去を調べ、計画を進めていたのは気づいていました。知っていて、放置していたのです。
貴方様の用意した舞台で踊るのも、やぶさかではありませんでしたから。
私は貴方様の悪女です。
この身を貴方様に捧げます。
貴方様の隣に立つだけで心が踊って、
貴方様との未来を考える時間だけが救いだった。
ですから、悪女になりました。
──こんな私はお嫌いですか?




