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こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ


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5/5

「ですから、悪女になりました」

「義妹を階段から突き落とした件についても調べたが、面白い話が聞けたぞ」

「面白いも何も、話は単純です。私がライラックお嬢様に大怪我をさせた。そのときの診断書もあり、私は認めざるを得なかったのです」

「階段から落ち、『二度と歩けないかもしれない』と言われたはずの義妹は、元気に自宅内を歩き回っていたそうだが」


 ライラックが足を怪我して車椅子に乗っていたのは、たった一週間だけ。ただ、その一週間の間も、ヴァイス邸では歩き回っていた。つまり、人前では歩けないふりをしていたのだ。


「リハビリの一環でしょう。努力の結果、ライラックお嬢様は再び歩けるようになったのです」


 ローゼは何故か自慢げに言った。


「それよりも以前、貴様は長期間、学園を休んでいた時期があったな──二ヶ月もの間」

「……それが何か?」

「ヴァイス邸の階段から落ちて大怪我をしたのも、貴様だったのではないか?」


 俺がそう言うと、ローゼは露骨に目を逸らした。

 いびられていたのはライラックではなく、ローゼだった。では、階段から落ちて大怪我をしたのも逆だったのではないか、と考えるのも当然だ。

 学園を休んでいた二ヶ月の間、ローゼは足の治療とリハビリに専念していたのだろう。


「診断書を書いた医師に話を聞いた。『診断書の名前が間違っているから書き直せ』とヴァイス伯爵に文句をつけられたようだ。『間違えたお前が悪い。金を払え』と脅された、とも」


 俺の言葉に、ローゼはバッと俺の顔を見た。


「医師を共犯者にするにしては、些か乱暴だな?」

「どうしてそんなことを……」


 ローゼはぽつりとそう溢した。俺はその言葉を聞き逃さなかった。


「それはどういう意味だ?『父がそこまでするなんて!』か? それとも──『私がしておいたのに』か?」

「……!」


 ローゼの顔色が明らかに変わった。

 俺の言葉で、先程まで飄々としていたローゼが焦っている。その事実に気分が高揚した。


「医師は不思議に思ったそうだ。『ローゼの名前をライラックに変えろ』と言うのだから──最初から『ライラック・ヴァイス』の診断書だったのにな?」


 俺は笑みが隠しきれなかった。それとは反対に、ローゼは閉口した。

 ローゼが大怪我をしたとき、伯爵家のお抱え医師は腰をやっていて、代わりに面識のない医師が彼女を診た。だから、〝偽名〟を使われてもわからなかったのだ。


「貴様は医師に『ライラック・ヴァイス』だと名乗り、診断書を書かせた。そして、ヴァイス伯爵の書斎机かどこかに滑り込ませたのだ。その診断書を婚約破棄の道具にして貰うために。……まあ、当のヴァイス伯爵はそれに気づかず、脅迫に走った訳だが」


──愚かなものだ。ローゼにここまでお膳立てされておいて。

 俺は彼らの馬鹿さ加減に呆れを通り越して哀れに思った。

 ライラックは徹底して家でも歩けないふりをしておけば良かったのだ。

 ヴァイス伯爵もそう。ローゼの用意した診断書に気づかなかったのはまだ良い。脅迫などせず、金を掴ませていたら、医師の口を閉ざすことも出来ただろうに。

 あまりにも杜撰な計画だ。しかし、誰もそれに気づかなかったのは、ローゼの誘導があったからだろう。


「『ライラック・ヴァイス』の診断書を書いた医師を呼んである。あれは誰の診断書だったのか、この場ではっきりさせようではないか」


 俺は件の医師を連れてくるよう、給仕に指示を出した。


「いえ、その必要はありません」


 ローゼは目を伏せ、首を横に振った。


「認めるんだな?」

「ええ。流石、旦那様ですわ。私の浅知恵など、簡単に見抜かれてしまいますね。おっしゃる通り、私は義妹の名を騙り、医師に診断書を書かせました」


 ローゼの自白に、ホール内は騒然となった。義妹殺人未遂はローゼ・ヴァイス断罪劇の肝だ。それが覆ったとなると、混乱するのも当然だろう。


「つまり、階段から突き落とされたのはローゼ……?」


 ビルネは顔を真っ青にさせ、震える声で呟いた。どうやら彼もこの事実を知らなかったらしい。

 ビルネはキッとライラックを睨みつけた。


「ライラ、君はなんてことをしたんだ……!」

「ち、違いますわ! ライラはお義姉様を階段から突き落としてません! お義姉様が勝手に……!」


 ライラックは必死に否定したが、怪しさが増すばかりだった。

 俺は助け舟を出してやることにした。


「その女の言う通り、そいつはローゼを突き落としてなどいない」


 俺は言ってやった。


「ローゼは〝自ら階段から落ちた〟のだ」

「なっ……!?」


 再び、ホール内がざわついた。

 お抱え医師の不在時に大怪我をするなど、偶然にしては出来過ぎている。狙ってやったとしか思えない。

 ライラックもヴァイス伯爵も、この診断書について知らなかったことから、ローゼの独断でやったことなのだろう。


「狂っているだろう、その女は」


 俺は鼻で笑ってやった。


「噂やいびりだけでは、婚約破棄の決定打に欠ける。だから、義妹殺人未遂を企てた。しかし、診断書を偽造するだけの金もない。だから、自分の身を使った」


 自ら階段から落ち、大怪我をして、義妹の名で医師に診断書を書かせた。それが義妹を階段から突き落としたという証拠になり、婚約破棄に至った。


「散財、男女関係の噂、義妹への嫌がらせ、そして、義妹の殺人未遂。全てでっち上げだ。それを裏で操っていたのは……他でもない貴様だ。悪女のふりをするのは何のためだ? 俺の屋敷に潜り込んで、何をするつもりだった?」


 ローゼを調べれば調べるほど、彼女がわからなくなった。犯罪組織や敵対国との繋がりはなく、過激な宗教に傾倒している形跡もない。綺麗過ぎるほど、真っ白な経歴だった。

 そんな凡百な令嬢が、わざわざ悪名高いミイラ公爵に嫁ぐ理由がない。何か企んでいるに違いなかった。だが、調べても調べても、何も出てこない。

 だから、公衆の面前で嘘を暴いた。追い詰め、取り囲み、目的をローゼの口から聞き出すために。


──さあ、本性を表せ、ローゼ。


 貴様は意地悪な義姉という、ちっぽけな悪女ではない。もっと壮大な計画を裏で進めているのだろう。


──それを暴く。皆が見ているこの場で!


「もう一度聞く。貴様は何を企んでいる?」

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