表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

「貴方様との未来を考える時間だけが救いだった」

 楽しいダンスの時間は終わりを迎える。

 音楽が終わり、ダンスを止め、俺はそっとローゼから手を離した。ローゼは直ぐに手を下ろしたが、俺の手はその場に残り続けた。

──名残惜しいのは俺だけか。

 俺は拳を握り締める。


「楽しいひとときでした、旦那様」


 ローゼはいつもの微笑みを貼り付けて言った。


「貴様は一体、何を企んでいる?」

「何のことでしょう?」


 俺の問いに、ローゼはすっとぼけた。

──その顔、その表情、全て演技なのだろう。俺の心を揺さぶり、俺を掌握するための。


「貴様は悪女などではない」


 俺ははっきりと言った。


「散財も、男をたらし込んだという噂も、ただの噂に過ぎなかった。そんな事実は一切ない。義妹いびりもなかったな。──むしろ、いびられていたのは貴様の方だったではないか?」


 前妻が亡くなり、後妻とその娘がヴァイス家に来てから、ローゼは召使いと同じ扱いを受けていた。義母を『奥様』、義妹を『お嬢様』と呼ばされていた。実父さえ、『父』と呼ぶことを許さなくなった。まるで最初から前妻の子・ローゼなどいなかったように。

 そんな扱いをされても尚、ローゼはただただ微笑んでいたという。


「旦那様、その話は別室で致しましょう。楽しい舞踏会に水を差してはいけませんし」


 ローゼは目を伏せ、こう提案した。


「否。今、ここで貴様の化けの皮を剥いでやる」

「はあ……」


 ローゼは頬に手を当て、深くため息をついた。


「──旦那様はもっと賢い御方だと思っていたのですが」


 ローゼは冷え切ったような目で俺を見た。

 ローゼの本性が少し顔を見せた。俺はその事実にゾクゾクとした。


「まずは散財について、過去を遡って調べた」


 俺が手で合図をすると、給仕が紙の束を持ってきた。ローゼの身辺調査の報告書だ。俺は報告書をめくった。


「以前は慎ましい生活をしていたようだな。だが、前妻が亡くなり、後妻とその娘が屋敷に来てから一変した。当初はその二人が宝飾品を買い荒らしていた。それがある日を境に、全ての領収書の名前が貴様のものになった」

「私が買ったのですから当然ではありませんか? 母亡き後、ものが恋しくて仕方なくて……」

「ほう? では、あれだけ散財していた後妻とその娘が、ぱったりと宝飾品を買わなくなったのは一体どういうことだ?」

「お二人は伯爵家に来たばかりでしたから、何かと入り用だったのでしょう。それが少しして落ち着いただけではありませんか」

「一年以上、二人はずっと流行遅れのドレスを着ていたということか?」


 ローゼは微笑んだまま、黙り込んだ。

 ヴァイス家は数年前から資金繰りに困っていた。それに追い打ちをかけるよう、後妻とその娘が散財を始めた。ヴァイス伯爵は散財をやめるよう、母娘に言ったことだろう。

 馬鹿な母娘はない頭を回し、ローゼの名前で宝飾品を買うことにした。結果、母娘の代わりに、ローゼが叱られることになった。ヴァイス伯爵は母娘を溺愛していたから、散財している人物がその二人だとわかっていたとしても、追求しなかった。


「貴様が男を取っ替え引っ替えしているという

噂も調べ直した。学園内で男子生徒と親しく話していたという目撃証言はあったが、それ以上は何も出てこなかった」

「では、何故そんな噂が出たのやら」

「貴様は人を褒めるのが好きなようだな。名前を呼び、その者の得意なことを褒める。それだけで男というものは鼻の下を伸ばすものだ」


 自分に好意があるかもしれない。そう感じただけで、相手を好きになってしまう。男とは単純だ。

「旦那様もですか?」とくすくすと笑うローゼを俺は無視して話を続けた。


「男に媚を売る女など、同性はよく思わない。だから、男遊びでもしているのではないかと、面白おかしく噂をした。そんなところだろう」

「面白いお話ですね。では、私が悪女だというのは、皆の勘違いだったと?」

「そうなるように仕向けたのだろう。貴様が」


 後妻とその娘が領収書の名前を書き換えるようになったのも、ローゼの入れ知恵があったからだろう。

 男子生徒を褒めるのだって、自分の悪い噂を流させるためにわざとしたに違いない。


「証拠はありますか?」


 ローゼは余裕の表情を崩さなかった。証拠は残していない、ということだろう。

 確かに、この件に関しての証拠はない。


「義妹いびりに話を移そう。貴様は義妹の私物を壊したそうだが、それも嘘だな」

「卒業記念パーティーの際に、ビルネ様が物的証拠を提出されていますよ」

「壊された物品の一つに破かれた教科書があった。だが、ヴァイス家が教科書を買い直した形跡はなかった。それなのに、貴様の義妹は破れていない教科書を、次の日には持ってきていたという。代わりに、貴様は〝忘れるようになった〟ようだが」


 俺はローゼの様子を伺った。ローゼはただただ微笑むだけだった。


「破かれた教科書は貴様のものだった。あるいは、貴様の教科書を義妹が奪い取ったか」

「ライラックお嬢様の教科書を破いたことがヴァイス伯爵に知られて、自分の教科書をお嬢様に渡すように言われたのです」

「教科書だけではなく、運動着や靴が被害にあったときも同様のことが起きていた。貴様は何も学習しない馬鹿なのか?」

「ふふ。人をいびる人間など、お馬鹿としか言いようがないでしょう?」


 ローゼはくすくすと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ